事務局長談話

 
2019年05月13日
民事執行法およびハーグ条約実施法改正法案の可決・成立に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 相原 康伸

  1. 権利実現の実効性を高めるための見直しと評価
     参議院本会議において、5月10日、「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律案」が可決・成立した。法案は、①債務者財産の開示制度の実効性向上、②不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策、③子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化の見直しを主な内容とする。また、ハーグ条約実施法改正法案における子の引渡しについては、③と同様の規律とされた。これらは、権利実現の実効性を高めるための見直しと評価したい。

  2. 給与債権に係る情報開示については範囲を限定
     連合は、法務省の民事執行法部会における審議の段階から、労働債権確保のための執行手続きの見直しは必要としてきた。一方、債務者の給与債権に係る公的機関からの情報取得については、給与が債務者の生活の金銭的基盤を成すことに鑑みれば、みだりに第三者に開示されるべきでなく、要保護性の高い債権に限るべきだと主張してきた。国会審議においても、この点が明確にされ、権利実現の必要性が特に高い養育費等や人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権に範囲が限定されたことの意義は大きい。

  3. 子の心身への配慮義務を明確化
     子の引渡しの直接的な強制執行に関しては、今まで明文の規定がなく、動産の引渡し規定が類推適用されていたことに鑑みれば、規律が創設されたことは評価できる。一方、連合は、引渡しの迅速性が子の福祉より優先されるべきではなく、子の最善の利益を尊重し、子に過度の精神的負担やその後の人格形成に影響を及ぼさないような配慮が必要と主張してきた。改正法においては、子の心身への配慮規定が設けられ、執行手続きにおける配慮が義務化された。加えて、附帯決議においても、執行補助者として児童心理学の専門家等を積極的に活用するための確保の方策について明記されたことを踏まえ、子の福祉に一層配慮した運用を行うべきである。

  4. 分かりやすい手続きとなるよう、積極的な周知を
     改正民事執行法は公布の日より1年以内に施行される。今回改正には盛り込まれなかったが、差押禁止債権の最低限度額の定めを設けることに関して、範囲変更制度の適切な周知とともに、過酷執行となっていないか運用の実態を把握する必要がある。加えて、女性執行官の不在と登用についての検討および、執行官の質のさらなる向上等、執行官制度の基盤整備を進めるとともに、民事施行規則等において手続きの詳細を定めるに際しては、権利実現の実効性を高めるためにも、国民に分かりやすい手続きとなるよう、裁判所による制度の積極的な広報と周知が求められる。
    以 上