事務局長談話

 
2018年08月31日
「民事執行法制の見直しに関する要綱案」についての談話
日本労働組合総連合会
事務局長 相原 康伸

  1. 執行手続きの改善に向け、多岐にわたる項目を見直し
     8月31日、法制審議会民事執行法部会(部会長:山本和彦一橋大学大学院教授)は、「民事執行法制の見直しに関する要綱案」(以下、要綱案)を確認した。有識者検討会報告書の内容を踏まえ、2016年11月以降、部会での約2年にわたる議論を積み重ねて取りまとめられた「要綱案」は、[1]債務者財産の開示制度の実効性の向上、[2]不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策、[3]子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化の見直しなど、多岐にわたる項目を内容とする。連合は、働く者や生活者の視点を踏まえた立場で部会に臨んできた。

  2. 第三者からの情報取得に際しては、債権債務の当事者間のバランスが必要
     [1]では、財産開示手続の利用実績が低調であることや、養育費の履行確保の観点から制度の拡充を求める声などに対応して、現行の財産開示手続の見直しと第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設が盛り込まれた。労働債権確保のために制度創設は有益である一方で、誰もが債権者にも債務者にもなりうる可能性があり、権利実現の保障とプライバシーや個人情報等の債務者保護の視点、当事者間のバランスが必要である。また、公的機関からの債務者の給与債権にかかわる情報取得に際しては、養育費債権等の要保護性の高い債権に限定すべきであり、慎重な議論が必要であることを述べ、こうした連合の主張が反映された。

  3. 子の引渡しに関しては、子の福祉など多面的な視点を踏まえることが重要
     [3]に関しては、現行法に明文の規定がないことから、明確な規律の整備を求める意見を踏まえ、規律が設けられた。連合は、子が人権・人格・意思の主体であることに鑑みれば、迅速な引渡しの観点だけでなく、子の福祉に十分な配慮をした上で規律を整備すべきと発言してきた。その結果、部会での真摯な議論を経て、子の心身への配慮規定が新設された。執行手続きに児童心理の専門家が関与できるよう、予算措置も必要である。なお、「ハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し」に関する検討が議論の終盤に追加され、要綱案に国内法の規律を踏まえた内容が盛り込まれた。

  4. 国会での丁寧な審議が求められる
     今後、法制審議会総会での決定および法務大臣への答申を経て、民事執行法改正法案が国会に提出されることとなる。民事執行法は判決を実現する手続きを定めた法であり、働く者だけでなく誰もが債権者や債務者として関与する可能性がある。国会においては、執行場面における権利実現の実効性確保と過酷執行の防止の両面から、とりわけ子の引渡しに関しては具体的な場面を想定しながら、離婚後の共同親権なども含めて、丁寧な審議を進めることが求められる。
    以 上