2.雇用の安定と公正労働条件の確保|雇用・労働政策

2-6-0.雇用・労働政策<背景と考え方>

  1. (1)経済社会の変化等により影響を受ける労働者が安心して就労できるよう、雇用調整助成金の活用などにより雇用を守りながら、雇用創出効果の高い分野に施策を集中し、産業政策と雇用政策を一体的に推進することが重要であり、同時に、パート・有期・派遣による雇用から正規雇用への転換促進、就労支援策の拡充、最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大、若年者雇用対策の強化など、重層的な積極的雇用対策や社会的セーフティネットの整備に一層取り組む必要がある。雇用保険を財源として、失業等給付や各種助成金など「雇用のセーフティネット」が維持されているが、その財源の枯渇化が懸念されている。今後の雇用情勢の悪化などにも耐えうるよう、雇用保険の積立金財高については、一般会計からの繰り入れなどを通じて一定量をつねに確保するとともに、引き下げられた失業等給付の国庫負担を雇用保険制度発足時の水準(1/4)へ戻す必要がある。
  2. (2)就職氷河期世代支援プログラムにおいては、各施策の検証分析をふまえた効果的な支援としていくことが重要である。求人の開拓や、資格の取得などを含めた教育訓練をより充実させるとともに、個人のニーズに沿った就職に向けたマッチングを強化し、対象層が長い職業生活を安心して働き続けられるよう、社会全体で雇用対策に取り組むことが重要である。
     人生100年時代の到来、高齢者の就労意識向上、高年齢者雇用安定法改正など、高齢者雇用を取り巻く環境は変化している。年齢や雇用形態にかかわりなく、ディーセント・ワークが実現できる環境整備が重要であり、就労を希望するすべての労働者への70歳までの雇用確保と働きに見合う処遇の実現が求められる。一方、健康上の理由や家族介護などで雇用の継続が難しい者に対する社会的セーフティネットの整備など、残された課題の解決も必要である。
     障害者雇用促進法の改正(2022年10月)を受け、事業主責任による能力開発支援や、障がい特性等に配慮した週20時間未満の短時間雇用の推進、助成金が拡充されるとともに、段階的に法定雇用率が引き上げられる。引き続き雇用と福祉の連携強化や、障がい者の差別禁止と合理的配慮の提供、働きづらさをかかえる労働者が、手帳を取得していなくても、就労困難性を判断して法定雇用率の対象にするなど、働きやすい環境整備を進めるとともに、法定雇用率の達成をめざし、さらなる支援が必要である。
     少子高齢化に加え、大都市圏等への人材流出など、とりわけ、地方での人手不足が深刻化しているが、人材流出の要因として良質な雇用機会の不足が挙げられる。地域における産業・雇用を維持する観点から、国・地方自治体による雇用創出事業を強化する必要がある。また、ハローワークの求人開拓、職業訓練、マッチング機能を強化するとともに、一体的に提供することが求められる。 
  3. (3)コロナ禍による入国制限により増加率は鈍化したものの、日本で働く外国人労働者数は、過去最高を記録した。外国人技能実習制度における労働関係法令違反および人権軽視などの問題は依然として後を絶たず、コロナ禍による外国人労働者の解雇、雇止めなどの問題も明らかになっている。
     一方、2019年4月より施行された「特定技能」制度は、技能実習法とあわせて見直しの議論が行われる予定である。日本で働くすべての外国人労働者の人権や権利が保障されるよう、外国人技能実習法を含め、外国人労働者政策として総合的な検討および体制整備を行うべきである。
  4. (4)日本で働く外国人労働者数は、過去最高を記録した。外国人技能実習制度における労働関係法令違反および人権軽視などの問題は依然として後を絶たず、外国人労働者の解雇、雇止めなどの問題も明らかになっている。
     2022年11月、技能実習生制度および特定技能制度の見直しに向け、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議のもとに、有識者会議が設置された。日本で働くすべての外国人労働者の人権や権利が保障されるよう、外国人労働者政策として総合的な検討および体制整備を行うべきである。
  5. (5)テレワークをはじめとする柔軟な働き方が多くの企業で導入・活用されるなど、労働者の働き方は大きく変化している。テレワークや副業・兼業などの働き方は労働者にとっての利便性やニーズがある一方、労働時間が把握しづらく、過重労働や健康障害につながることが懸念される。更なる労働時間管理の徹底が求められる。
      パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間は、業種によるバラつきはあるものの、引き続き2000時間を下回ったが、過労死等の労災支給決定件数は高水準で推移している。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」等にもとづき、業種毎の調査・分析などを通じた施策の実効性確保や、曖昧な雇用で働く就業者も含めた長時間・過重労働対策の強化が求められる。
  6. (6)厚生労働省「労働組合基礎調査」によれば、労働組合の推定組織率は2割に満たない水準で推移している。とくに正規雇用でない労働者の多くは未組織であり、集団的労使関係の及ばない労働者も多く存在している。
    法令上「過半数代表」が関与する制度は、労働関係法のみならず、多く存在している。改正労働基準法における時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の法整備等をはじめ、「過半数代表」が果たす役割の重要性は高まっている。しかしながら、会社側の指名をはじめとした不適切な方法による選出など、必ずしも職場の代表としての正当性が担保できていない。まずは、過半数代表者の適正な選出や運用が図られるよう厳格な対応を徹底するとともに、引き続き労働者代表法制などの労働組合のない職場における労働者の声を反映する仕組みについて検討が必要である。
  7. (7)DX・GXの推進など経済社会を取り巻く情勢が変化するなかにあって、これらの環境変化に対応し、働く者の雇用の安定とキャリア形成を図るためには、「人への投資」の拡充が不可欠である。
     AIやIoTなどの進展に対応した職業能力開発の質のさらなる向上と量の拡大が求められているほか、労働者もリカレント教育など働き続けながら、新たな知識や技術を習得することが必要となる。雇用形態や企業規模、障がいの有無等にかかわらず、希望する誰もが職業能力開発機会を確保できるよう、求職者支援制度の拡充を含め、セーフティネットとしての職業訓練を強化していく必要がある。
     また、指導人材の不足など人材面で課題を持つ中小企業等に対する相談援助などの支援策の拡充も求められている。
  8. (8)就業形態の多様化、IT化の進展、プラットフォームエコノミーの台頭等により、現行の「労働者」概念では捉えられない「曖昧な雇用」で働く就業者が増加している。「曖昧な雇用」で働く就業者のセーフティネットの脆弱性が顕在化する中、いわゆる「フリーランス新法」による取引適正化の進展や労災保険特別加入制度の対象業務拡大、安全衛生対策などの取り組みが行われているものの、従来の労働関係法令では対象とならない就業者の保護は喫緊の課題であり、社会の実態や就業形態の多様化などを踏まえた「労働者」概念の早急な見直しと拡充が求められる。
  9. (9)現在、「第14次労働災害防止計画」にもとづき、各種の取り組みが進められている。「個人事業者等に対する安全衛生対策」においては、一部省令改正が成立するとともに、健康管理ガイドラインが確認されるなど進展が見られる。引き続き「作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」や「労働者の健康確保対策の推進」などについて、企業規模や雇用形態に関わらず政労使で推進する必要がある。また、長時間・過重労働対策や、今後増加が想定される高齢労働者や外国人労働者への安全確保対策も確実に実行していくことが求められる。さらに、各種ハラスメントや職場のストレス、テレワークの普及などによる新たな課題も勘案したメンタルヘルス対策も必要となる。同時に、基礎疾患を抱えながら働く者への配慮を含め、「治療と仕事の両立支援」を制度としてあらかじめ整備しておくことも重要である。
  10. (10)2022年4月に有識者による「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」報告書がとりまとめられた。我が国では、既に労働審判員制度をはじめとした現行の労働紛争解決システムが有効に機能しており、個別労働紛争の解決に向けては、不当解雇を正当化しかねない制度の導入ではなく、既存の紛争解決システムの運用面での改善や、労働紛争を未然に防ぐための労働教育の実施などについて充実をはかるべきである。
  11. (11)近年、企業組織再編を行う動きが活発化するとともに、倒産や事業所の縮小・閉鎖なども数多く生じている。政府は、スタートアップ等の資金調達支援や債務整理にかかる制度の見直し等を進める一方で、事業再編時の労働者保護対策を強化する動きはみられない。倒産法制における労働債権保護の強化や、あらゆる事業再編時における労働者保護ルールの法制化が急務である。
  12. (12)2024年1月より厚生労働省の研究会において、労働時間規制や、過半数代表の課題等に関する議論がなされているが、労使自治の名の下で労働基準法制の緩和がなされることがあってはならない。労働者の命と健康を守るためには労働基準法の強行法規性を堅持しながら、労働者保護の強化をはかることが不可欠である。

 

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