- (1)年金は高齢者世帯収入の約6割を占め、約4割が公的年金収入だけで生活しており、老後の生活保障の柱である。他方、高齢化が加速度的に進み、給付と負担のバランスを確保することが大きな課題となっており、拠出者である労使の参画のもと、財政の持続可能性と給付の十分性を両立させることが求められている。
- (2)2024年財政検証では、労働参加の進展などにより、全体的には将来の給付水準(所得代替率)は上昇したものの、基礎年金の給付水準は2024年度の36.2%から2057年度には25.5%まで低下する見通しであり(過去30年投影ケース)、楽観的に受け止めるべきではない。基礎年金の給付水準の低下は、公的年金制度が持つ所得再分配機能や防貧機能を弱めるため、底上げが急務である。2025年年金制度改正では、2029年の財政検証において基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に必要な法制上の措置を講じることとされた。国会審議においては、基礎年金拠出金の算定方法の変更(現行の被保険者数の人数割に加え厚生年金積立金も勘案して計算)が前提とされており、今後の検討を注視する必要がある。
- (3)被用者保険の適用拡大が進められているものの、労働時間要件(週20時間)や個人事業所に関わる雇用人数要件などが残存しており、いまだ多くの労働者が適用外とされている。また、配偶者の働き方などにより適用が決まる第3号被保険者制度についても、廃止に向けた道筋は示されておらず、就労を阻害せず、働き方などに中立的な社会保険制度の構築が求められる。
- (4)年金積立金の運用について、基本ポートフォリオにおける株式の割合が5割とされたことなどによって、運用結果の変動幅が拡大し、国民の不安を高めている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のガバナンスについては、被保険者の意思を確実に反映する点で全く不十分な経営委員会の委員構成となっている。
- (5)企業年金制度については、実施企業が減少傾向にあり、特に、中小企業では実施率が低位で推移している。また、短時間・有期等労働者の多くは企業年金の対象とされていない。
- (6)社会的にESG(環境・社会(労働)・コーポレートガバナンス)責任投資の考え方が非常に重視されることから、労働組合としても取り組みの強化が求められている。
年金政策<背景と考え方>
1.就労を阻害せず、働き方などに中立的な社会保険制度を構築するとともに、すべての人が安心してくらし続けられるよう、基礎年金の基盤強化や所得比例年金・最低保障年金の創設など抜本改革を進め、真の皆年金を実現する。
- (1)第一段階の改革
①公的年金制度の充実と生活手当(仮称)の導入
a)年金制度における所得再分配機能の一層の強化と財源の確保を行いつつ、基礎年金の給付水準を改善するため、以下のとおり対応する
ア)高齢期の生活の基礎的部分を賄うものである基礎年金(老齢・障害・遺族)と障害厚生年金については、マクロ経済スライドの対象から外す。 イ)基礎年金における税財源の割合を段階的に引き上げる。引き上げに要する財源は、所得税の累進性の強化、資産課税の強化など所得再分配の機能強化を前提に、消費税の税率引き上げを含め確保する。 ウ)所得額に応じて、基礎年金(税財源分)を国(年金財政)に返金する制度(クローバック方式)を導入する。b)高齢期において安心してくらせる所得保障を実現するため、以下のとおり対応する。
ア)最低保障年金が確立するまでの間、低年金・無年金を解消することを目的として、年金生活者支援給付金制度を大幅に強化した「生活手当(仮称)」を導入し、低年金者には保険料納付済期間などに比例した加算を設け(生活手当Ⅰ)、働く意思がある無年金者などには最低額を保障しつつ保険料納付済期間等に比例した社会手当を支給する(生活手当Ⅱ)。なお、実施に際しては、地方自治体や日本年金機構が低所得者に対し免除申請を奨励するとともに、障がいのある人への手続き面での支援を充実する。 イ)生活手当Ⅱは、働くことを希望するすべての人に支給し、65歳以上を対象として高齢期の求職活動を支え一定の生活支援を行う「高齢者手当(仮称)」と、65歳未満を対象として就職準備支援を行う「求職者手当(仮称)」という二種類の手当を設ける。c)第3号被保険者制度を将来的に廃止する。廃止に向けて、第3号被保険者の生活実態の分析も含めた検討を行う会議体を早期に設置するとともに、以下のとおり対応する。
ア)まず、第3号被保険者を縮小するため、新たに第3号被保険者になることができない制度とする。次に、10年程度の期間を設けて、既第3号被保険者については以下の要件を満たさない場合、第1号被保険者となる。その際、世帯単位で見て低所得者への年金保険料の減免措置を設ける。 ・最初の5年程度の期間で、第3号被保険者の配偶者に「年収850万円未満」または「所得が655万5000円未満」との所得制限を設ける。 ・次の5年程度の期間で、前述の年収・所得要件に加え、第3号被保険者本人に、子ども(18歳の誕生日の属する年度末まで、または20歳未満で1級または2級の障害の状態にある婚姻していない子どもに限る)を養育する親との要件を設ける。 イ)以下の考え方にもとづく改正とともに、上記を経ても第3号被保険者である人については第1号被保険者に区分することで、第3号被保険者制度は廃止となる。 ・過去に第3号被保険者期間があった受給者の基礎年金は減額しない。 ・廃止時点で第3号被保険者である人、受給者ではないが過去に第3号被保険者であった期間がある人について、第3号被保険者としての加入期間は、保険料納付済期間として将来の基礎年金は減額しない。 ・公的年金制度における次世代育成支援の観点で、育児期間中の社会保険料免除措置を拡大(例:「子が小学校入学までの期間」など)する。 ・様々な事情により働くことができず無年金となる人、受給資格期間を満たしたとしても低年金の人に対しては、生活手当(仮称)などの加算で対応する。②すべての労働者への被用者保険の適用
a)就業形態や企業規模にかかわらず、すべての労働者の被用者保険への適用を行うため、以下のとおり対応する。
ア)短時間労働者に関する労働時間要件(週20時間以上)を撤廃する。 イ)当面期限を定めず適用除外とされている常時5人以上の非適用業種の既存個人事業所および、常時5人未満の個人事業所も対象とする。 ウ)企業規模要件は速やかに撤廃し、それまでの間は任意適用を促進する。 エ)学生除外要件については、学生は学業が本業であることを踏まえ、将来的な検討課題とする。 オ)被扶養者の年収要件も現行の130万円未満から給与所得控除の最低額未満とする。(「社会保障制度の基盤に関する政策」参照) カ)「曖昧な雇用」で働く人で労働者性が認められる場合は、確実に被用者保険を適用するとともに、社会実態にあわせて労働者概念の見直しを行い、被用者保険に適用される範囲を拡大する。 キ)複数就業者については単一事業所で満たさない場合に適用対象外となっている現行制度を見直し、単一事業所で満たさなくても複数事業所で満たす場合には被用者保険を適用する。b)所得比例年金の一元化に向けて、自営業者などの所得を捕捉する仕組みを確立する。
c)厚生年金の持続可能性を高め、世代間の公平性を確保するため、以下のとおり対応する。
ア)標準的な雇用労働者の所得代替率は、将来にわたって税・社会保険料を除く手取りベース50%を維持する。 イ)マクロ経済スライドの名目下限措置を撤廃し、経済状況にかかわらず、厚生年金(障害厚生年金を除く)の給付水準を調整する。d)高齢期における就労を阻害しないよう、就労収入にもとづく年金額の調整などについては、働き方に中立的な制度とする。
- (2)第二段階の改革
①すべての働く人が加入する所得比例年金制度の創設
a)多様な生き方や働き方に対応した所得比例の年金制度を実現するため、以下のとおり対応する。
ア)自営業者などの所得捕捉を徹底した上で、自営業者などが加入する所得比例年金制度を創設する。なお、創設時の保険料率、保険料負担については、加入者の合意をはかり決定する。 イ)自営業者なども含めてすべての働く人が同じ所得比例年金制度に加入する。公平性を確保するため、保険料は所得に応じて負担し、納付した保険料に応じて年金を受給する制度とする。②すべての人への所得保障の充実
a)最低保障年金の創設
ア)働く意思の有無にかかわらず、所得比例年金が一定額以下のすべての人に基礎年金と生活手当を組み替えた最低保障年金を支給する。最低保障年金の受給に際しては、保険料納付などにかかるインセンティブ低下を防ぐため、保険料納付済期間等に反比例する若干の給付制限を行う。ただし、保険料納付等の手続きを行うことができない理由があると認められる場合については、満額を支給する。 イ)最低保障年金については、マクロ経済スライドの対象とはせず、一定水準の所得代替率を維持する。2.公的年金に対する国民の安心と信頼を確保するため、公的年金の機能を強化するとともに、公平・公正な制度を確立する。
- (1)国は、財政検証の枠組みを以下のとおり見直す。
①年金財政の健全性を明らかにし、国民の信頼を確保するため、財政検証を毎年行い、その結果に基づき制度改正の検討を行う。その際、給付の十分性および所得再分配効果についてもあわせて検証を行う。
②財政検証の経済前提(物価上昇率、賃金上昇率、名目運用利回り)については、全要素生産性(TFP)上昇率をはじめとする前提条件について高齢化等の影響に十分留意しつつ、過去の実勢を踏まえて設定する。
③財政検証においては、政治的な影響を排除する。また、客観的に検証する場とともに、社会保障審議会年金部会に加えて拠出者が参画して議論する場を設ける。
- (2)国は、年金制度の抜本改革までの間、以下の措置を行う。
①将来の給付水準の確保を図るため、厚生年金について、デフレ下での年金受給者等への影響を検証した上で、マクロ経済スライドの名目下限措置を撤廃する方向で検討を行う。基礎年金は老後の生活の基礎的部分を賄うものとされていることから、財源を確保しマクロ経済スライドの対象から外す。また、障害厚生年金は障がい者の生活を支える重要な基盤であるため、調整率の設定は、障がい者の基礎率にもとづく方法に改める。
②基礎年金の給付水準の底上げにあたっては、基礎年金拠出金の算定方法について、現行の被保険者数の人数割に加え厚生年金積立金も勘案して計算する仕組みを導入することなく、被用者保険のさらなる適用拡大や保険料拠出期間の延長などにより底上げする
③支給開始年齢のさらなる引き上げは、低年金者の受給機会が損なわれるおそれがあるため、行わない。また、繰上げ受給可能な年齢については60歳を当面維持する。
④現行の40年納付に対する給付水準を基準に、保険料拠出期間を延長し、延長した年数に応じて給付額を増額する仕組みとする。そのため、延長した年数に応じて基礎年金拠出金算定対象者の年齢上限の見直しを検討する。
⑤年金受給資格期間が10年に短縮されたことを踏まえて、年金は長く保険料を納めれば受給額が増える仕組みであること、任意加入、保険料後納制度、合算対象期間(カラ期間)を利用して10年を満たす場合もあること等について、国民に対し効果的に周知する。
⑥標準報酬月額の範囲については、被用者保険内の所得再分配を強化するとともに、被用者保険の適用拡大を進めるため、最低賃金や健康保険の基準を念頭に下限を引き下げる。
⑦高所得者に対する年金課税については、総収入(賃金、事業所得、家賃、配当・利子等)にもとづくあり方を検討する。
⑧在職老齢年金について、就労に対する影響を検証した上で、以下のとおり見直すことも含めてあり方を検討する。
a)在職老齢年金非適用者(社会保険の適用要件を満たさない者、賃金以外の収入のある者)との公平性を確保するため、現行の在職老齢年金制度を廃止し、総収入(賃金、高年齢雇用継続給付金、事業所得、家賃、配当・利子等)をベースに、年金額を調整する制度に抜本的に改める。
b)在職老齢年金の支給停止額の算定に用いる総報酬月額相当額について、受給時における実際の賃金を反映する仕組みに改める。
c)働きながら年金を受給する者(65歳以降で総収入が一定額以上)の年金に対する一定の支給停止を行うが、支給停止となった部分については、部分繰り下げの扱いとし、繰り下げ額について一定の増額率を乗じたものを退職時から受給できる仕組みを検討する。
⑨第1号被保険者の育児期間における保険料免除措置の財源は、国民年金財政で負担することを基本としつつ、公平なあり方を検討する。
⑩遺族厚生年金について、以下のとおり見直す。
a)当面、遺族年金の支え手である被保険者の年収とのバランスをはかる観点から、年収850万円未満の遺族に支給される現行制度について、遺族となった者の年収に応じて、年収600万円程度から段階的に年金額を調整する仕組みに改める。また、適用認定については、毎年の年収をもとに認定する仕組みに改める。
b)遺族厚生年金の支給要件の男女差については、将来の遺族年金のあり方、方向性と整合性をはかりつつ、格差解消に向けて見直す。
⑪障害年金について、以下のとおり見直す。
a)障害基礎年金の支給を、障害厚生年金に合わせ3級障がい者からとし、給付水準を引き上げる。
b)障害認定審査の客観性と透明性を高め、確実に年金を受給できるようにする。また、障害認定に関する地域差を解消するにあたり、これまでの受給者に不利益を極力生じさせないように対策を講じる。(「障がい者政策」より再掲)
c)「特別障害給付金」の対象者の範囲を拡大することにより、20歳前の傷病者など無年金となっている障がい者の解消をはかる。
⑫失業中も障害年金や遺族年金等の受給権に結びつく納付要件を確保するため、厚生年金への「任意継続加入制度」を創設する。
a)継続加入期間の保険料負担は2年間を限度に猶予して、再就職後に追加分納する。
b)追納の保険料は、労使分、本人分(給付算定は半額)、免除制度(障害・遺族年金の対象)との3選択制とする。
c)追納期間は猶予期間の2倍(4年)以内とする。
⑬厚生年金の労使負担割合については、基礎年金の国庫負担割合の引き上げに合わせ見直す。
⑭国会の超党派による議論の場で、新たな税制改革と一体となった年金制度改革の合意形成をはかるとともに、速やかな検討を行う。
- (3)国は、年金課税の見直しに伴う税収増について年金財政に全額繰り入れる。
- (4)国は、独立行政法人や民間委託を含む年金事務費については全額国庫負担を基本とし、内訳などをねんきん定期便に記載して被保険者に対し公表する。
- (5)国は、教育機関と連携し、公的年金制度の特徴である皆年金、社会保険強制加入の意義、賦課方式など、年金教育・広報の充実に取り組む。
- (6)国は、人材育成のための各種研修や専門人材の派遣などの年金制度の導入に向けた国際協力を積極的に行うとともに、社会保障協定(適用調整、保険期間の通算など)の締結を進める。また、現行の外国人への脱退一時金について、在日後帰国する外国人に制度の周知を徹底するとともに、脱退一時金の要件及び支給率を改善する。
3.保険料拠出者である労使の参画等によって透明で公正な制度運営を行い、年金制度の信頼性を高める。
- (1)国は、年金記録問題の全面解決にあたる。
①年金記録問題は国が責任を持ち、年金記録が給付につながるよう、引き続き十分な業務執行体制を確保する。
②「ねんきんネット」等のツールを充実させ、被保険者、受給者への丁寧な周知活動を行うことにより「もれ」や「誤り」について心当たりがある場合の申し出を促す。
- (2)国および日本年金機構は、同機構の運営については、保険料拠出者である労使代表の参画、運営責任の明確化、信頼および利便性の向上を重視し、そのために必要な業務執行体制を確立する。
①社会保険の適用、徴収業務の確実な実施のため、業務の効率化・人員再配置を前提に、公権力行使業務が行える職員(正規職員)を含む人員を確保し、体制を強化する。
②国税庁をはじめとする関係省庁や関係団体との連携を強化しつつ、社会保険の未適用事業所に対する加入指導や職権適用を徹底するとともに、厚生年金の被保険者にかかる届出が確実に行われるよう事業主に対する指導を強化する。
③従業員の転退職による被保険者資格喪失の通知の際、年金保険料の未納や、未加入状態にならないように、注意喚起する。
④厚生労働省が個人情報保護の監督責任を負い、被保険者、受給者の個人情報が確実に保護される体制とする。
⑤被保険者や受給者が安心して利用できるよう情報セキュリティ対策を一層強化した上で、電子申請の利便性向上と利用促進をはかるとともに、年金相談等のさらなるオンライン化に取り組む。
- (3)国は、公的年金の年金積立金について、保険料拠出者である労使代表が参画する場で検討する体制を確立し、以下のとおり管理・運用を行う。
①厚生年金保険法等の規定にもとづき、専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ確実な運用を堅持する。
a)財政検証の前提条件等を抜本的に見直した上で再検証を行い、リスク性資産の割合を引き下げる方向でポートフォリオを見直す。
b)株式のインハウス運用は、公的資金による企業支配との疑念があるため、行わない。
c)積立金の取り崩しが必要になった際の年金給付に必要な流動性を確保するため、オルタナティブ投資はきわめて抑制的に行う。オルタナティブ資産への直接投資は、流動性の確保、カントリーリスクの回避等の観点から、行わない。また、投資一任の運用においても投資案件に対する一層のリスク管理を行うなど慎重な取り扱いを徹底する。
②GPIFの業務運営については、以下のとおりガバナンスを強化する。
a)GPIFにおいて、保険料拠出者である労使代表の意思の確実な反映を可能とするガバナンス体制を構築する。
b)経営委員会における経営委員の定数及びその配分について、保険料拠出者である労使代表の構成割合が過半数を占めるよう、速やかに検討を開始する。
c)国民に対する説明責任を果たす観点から、経営委員会の人選においては、年金財政や年金制度の専門家などを含めたバランスのとれた構成とする。
d)市場の公正性と国民の信頼性を確保するため、利益相反防止の規制を強化する。
e)国民の年金制度に対する信頼を高めるため、情報開示を強化するなど透明性を確保し、説明責任を果たす。運用上のリスクだけでなく、内部管理上のリスク管理を徹底し、公表する。経営委員会の議事録は、速やかに公開する。
f)四半期ごとの運用実績等を、被保険者および受給者に分かりやすく公表し、年金個人情報の定期的な通知の際にあわせて情報提供を行う。
g)自主的業務運営と責任の明確化をはかるため、役員選任の透明性を確保する。
③被用者年金一元化後も厚生年金・国民年金、共済年金の年金積立金の管理・運用業務を複数の主体に行わせる。
4.受給権保護の整った、将来にわたって安定的な給付を約束する企業年金制度を構築し、雇用形態や企業規模に関係なくすべての労働者が制度適用されるよう普及をはかる。
- (1)国は、企業年金の原資が賃金の後払いとしての性格を持つ退職給付であることを踏まえ、労使合意の尊重を前提に、長期にわたり確実に給付が保障される企業年金制度を確立する。
①企業年金の運営や重要事項の決定にあたり、労働組合が積極的に関与できるよう条件整備を行う。また、過半数労働組合がない場合を含め、加入者等の意思を尊重した運営がなされるよう、労使合同の委員会の設置など体制の構築を促す。
②すべての制度間の移換が可能となるようポータビリティを拡充する。また、確定給付企業年金(DB)間や、個人型DCからの受換のための基金等の規約の整備を促進する。
③受給権保護の強化をはかるため「企業年金基本法(仮称)」を制定し、企業年金の受給要件、受託者責任、情報開示の明確化、税制措置等に関する包括的な法整備をはかる。将来的には企業年金と退職一時金を包括する退職給付保護制度を確立する。
- (2)国は、企業年金が公的年金の補完機能を確実に果たすことができるよう、中小・零細企業の労働者や短時間・有期等労働者に対する制度の普及促進を抜本的に強化する。
①中小・零細企業に対しては受給権が確立された企業年金の導入にかかる支援を強化する。また、中小企業退職金共済(中退共)制度や総合型DBの普及をはかる。
②短時間・有期等労働者に対する企業年金制度の普及に向け、短時間・有期等労働者に対するモデル年金規約を整備し周知する。
③安定的な退職給付を確保し、企業年金のさらなる普及を促進するため、特別法人税は撤廃する。
- (3)国は、受給権保護の整ったDB制度のさらなる充実をはかる。
①代議員会や加入者による関与を強化するため、「運用の基本方針」の厚生局への届出を法令で義務づける。
②受給権保護のため、積立不足を防止する仕組みと支払保証制度を検討する。
③DBの財政基盤の強化のためリスク対応掛金の普及に向けて周知の強化をはかる。
④国は、DB併用の企業型DCの拠出限度額を「DCの拠出限度額からDBごとの仮想掛金額(掛金相当額)を控除した額」とする見直しが、既存の企業年金の縮小や廃止など労働条件の変更を強いることにならないよう、労使自治を尊重する。
⑤国は、リスク分担型企業年金の規約の承認にあたり、労使合意の内容や経過について審査を厳格に行う。
⑥リスク分担型企業年金について、資産運用に関する意思決定に加入者等の意思を反映させるため、労働組合等が参画する委員会の設置を法令で義務づけるとともに、以下内容の周知・徹底をはかる。
a)DBからリスク分担型企業年金への移行にあたり、運用結果による加入者および受給者の給付減額の可能性について、すべての加入者および受給者へ事前に十分な説明を行う必要があること。また、給付原資が基準ラインを下回る場合においては加入者等の3分の2以上の個別同意(加入者の3分の2以上で組織する労働組合の同意にて代替可能)を要すること。
b)再計算の結果にもとづく給付額への影響の可能性について、加入者および受給者へ説明する必要があること。
c)給付改善等の制度設計に関する新たな労使合意があれば、リスク分担型企業年金掛金額の変更が可能であること。
d)リスク分担型企業年金掛金額の設定にあたっては、労使による十分な議論を踏まえなければならないこと。
e)労働組合等が参画する委員会の設置を通じて、リスク分担型企業年金の運用の基本方針や資産構成割合など、資産運用に関する意思決定に加入者等の意思を反映させる必要があること。
f)給付額の改定に用いる調整率の算出方法や算出根拠となったデータなどを業務概況で周知する必要があること。
⑦企業型DCのマッチング拠出について、企業年金制度は退職給付であって事業主による拠出が基本であることの周知をはかる。また、企業型DCのマッチング拠出を導入している場合は、個人型DCとの違いや選択にあたっての留意点について、事業主による加入者への周知を徹底する。
- (4)国は、DC制度について、DBや企業型DCから個人型DCへの安易な移行を防ぐとともに、企業型DCの制度の充実をはかる。
①労働者の責によらずに生活困窮に陥った場合など明確な制約を設けた上で、運用指図者である場合を含め中途引き出しができるようにする。
②想定利回りや商品構成等について、設定後に定期的な見直しを行う際に、運用商品の利回りや手数料、従業員の運用見直し状況などについてモニタリングし、加入者の意思を尊重させるための労使合同の委員会の設置や労使協議等の定期的な開催と、加入者への情報提供を徹底する。
③運営管理機関の業務撤退や企業再編など、労働者の責によらない事由に伴い発生する資産移管手数料や必要な情報提供、手続きについては、運営管理機関や事業主が責任を持って負担・対処する。
④企業型DCについて、デフォルト商品を含め、商品提供のあり方については労使の判断を尊重しつつ、過度な収益確保に走らないようリスク・リターン特性を十分に検討して決定するよう周知をはかる。また、加入者の納得性を確保する前提で、実効性のある商品除外規定を整備する。
⑤企業型DCについて、事業主が導入時および導入後の継続的な投資教育を行い、その上で加入者本人が納得して商品選択を行うよう指導を強化する。
⑥従業員にDCの掛金として拠出するか、給与・賞与などとして支払われるかを選択させるDC(選択型DC)については、労働条件の不利益変更となること、企業拠出型に比べ公的年金や傷病手当金などの給付額が減額する可能性があることについての事業主による正確な説明の有無、労使協議の経過や内容等について厚生局での確認を徹底する。
⑦企業型DCのマッチング拠出について、企業年金制度は退職給付であって事業主による拠出が基本であるため、事業主拠出を超えない範囲で加入者拠出を認めるという現行の仕組みを維持する。また、企業型DCのマッチング拠出を導入している場合は、個人型DCとの違いや選択にあたっての留意点について、事業主による加入者への周知を徹底する。
5.年金基金(公的年金・企業年金)の運用にあたって、環境・社会・ガバナンスなどのESG課題を踏まえた責任投資の推進をはかる。
- (1)国は、年金基金(公的年金・企業年金)の運用に際して、責任投資(ESG投資)を推進する。
①連合「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」をもとに、公的年金および企業年金の運用に際し、投資判断に「環境・社会(労働)・コーポレートガバナンス」(ESG)など非財務的要素を考慮する責任投資を普及する。
②GPIFなど公的年金において、保険料拠出者である労使代表の参画のもと、責任投資に取り組む。
③公的年金においての投資(運用)目的は「専ら被保険者の利益のため」に他ならず、そのことについて運用受託機関や投資先企業と必ず共有をはかるよう促進する。
④企業年金において責任投資に取り組むにあたり、日本版スチュワードシップ・コードの受け入れや国連責任投資原則(PRI)、21 世紀金融行動原則の署名など、責任投資を促進させる取り組みとセットで展開する。
⑤企業年金において責任投資の促進をはかるため、厚生労働省が策定している規約例や運用ガイドラインにその考え方を盛り込む。
- (2)第二段階の改革