3.安心できる社会保障制度の確立(介護・高齢者福祉政策)

介護・高齢者福祉政策<背景と考え方>

  1. (1)介護保険制度は2000年に創設されて以来着実に普及し、サービス受給者数、介護保険の総費用は年々増加している。今後さらなる高齢化にともなう重度化の進行や高齢者の単独・夫婦のみ世帯、認知症の人の増加により、介護サービスに対する需要はますます増大するとともに、医療・介護ニーズをあわせ持つ高齢者の増加など必要な支援の多様化が見込まれる。
  2. (2)一方、少子高齢化が進行する中、とりわけ人材確保の面で、介護保険制度の持続可能性が揺らいでいる。さらなる処遇改善を継続的に行うことで、人材確保につなげることが不可欠である。また、訪問介護など在宅ケアを支えるサービスの確保や、介護予防・日常生活支援総合事業については、サービスの量や質の地域間格差を拡大させないようさらなる充実が欠かせない。介護が必要になっても安心してくらせる社会、介護と仕事の両立推進、「介護離職ゼロ」の実現に向けて、良質な保険サービスの給付と制度の持続可能性の確保の両立が求められている。
  3. (3)また、介護人材は慢性的に不足している。厚生労働省試算で必要とされている介護労働者数に実数が追いついていない。介護分野における有効求人倍率は全職業平均を大きく上回り、賃金も全産業平均と比較し依然として格差がある。介護人材の確保・定着、賃金・労働条件の改善は喫緊の課題である。また、外国人介護人材に係る人員配置基準上の取り扱いの見直し等が行われており、介護分野における外国人材の受入れに対して、サービスの質や労働条件の確保が課題である。
  4. (4)高齢者虐待の市町村への相談・通報件数や虐待判断件数は増加傾向にある。誰もが住み慣れた地域で良質な環境のもとで自分らしくくらし続けられるよう、虐待の防止とともに、成年後見制度等の権利擁護、認知症の正しい理解、本人や家族への支援体制の整備、在宅医療・介護の連携・充実が求められている。
  5. (5)介護保険給付は実質的に高齢者に限られており、年齢にかかわらず介護を必要とする人が必要なサービスを受けられる普遍的な制度とすることが大きな課題である。

 

1.地域包括ケアを推進し、利用者が安心して住み慣れた地域でくらし続けることのできるサービス提供体制を強化する。

    1. (1)国および地方自治体は、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域でくらすことができるよう、医療・介護・生活支援などが一体的に提供される地域包括ケアを全国的に推進するため、以下のとおり対応する。

      ①市町村(保険者)の介護サービスの総合的な推進機関としての役割を強化する。

      ②介護や地域生活にかかる総合的なコーディネーターとして、地域包括支援センターが地域のニーズに則し、在宅・施設介護の総合相談・支援、寝たきり・認知症予防対策、介護総合相談・ケアラー支援など、一定の水準を確保した機能を発揮できるよう、十分な財政支援と人材の確保の強化、業務の効率化を進める。

      ③地域が抱える課題把握や有効な地域資源の発掘に資するよう地域ケア会議を充実する。そのため、都道府県・市町村や地域の医療・福祉・介護等関係者の役割を強化すべく支援するなど、各地の特性に応じた対応を促す。

      ④事業所における家族や介護者等からの苦情や要望への対応が増加している実態を踏まえ、利用者がより適切なサービスが受けられるよう利用者と事業所の話し合いに対して斡旋や仲介等の支援を行う第三者機関の設置を検討する。

    2. (2)国および地方自治体は、在宅ケアを支えるサービスの充実に向けて、以下のとおり対応する。

      ①急性期医療から在宅医療、リハビリテーション、在宅介護への切れ目のない支援体制の構築に向けて、訪問診療・看護などの在宅医療、訪問介護・リハビリテーションなどの在宅介護を利用者の状態に合わせて組み合わせ、必要な時に必要なサービスを提供して在宅生活を支える体制を確保する。

      ②介護と医療を一体的なインフラとして提供するため、複合型サービスや人的連携など、総合的にコーディネートしていく仕組みを整備する。

      ③利用者のニーズ、QOLの確保に対応するため、看護師(専門看護師)の一定の医療行為、介護職員の一定の医療行為については、医療・介護ケアの基礎的インフラとして安全性の担保など一定のルールのもとで実施可能にする。また、医療類似行為も含め、公費による研修の整備および認証、責任の所在など法律による規定を整備する。

      ④限られた財源とサービスを効率的に供給するため、医療費の増大の抑制という観点からも、中間施設や在宅生活を支える小規模多機能型などの複合型介護サービスの供給量を拡大する。

      ⑤「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」など夜間サービスや訪問介護における利用者・介護労働者の安全を確保する観点から、職員の恒常的な複数名訪問のための支援を強化する。

      ⑥訪問看護ステーションの整備と大規模化を推進するとともに、キャリアパスのあり方などを検討し、看護師の確保を進める。

      ⑦要介護者が身近で迅速かつ適切な医療的処置を受けることができるよう、研修を受けた介護労働者の配置を評価する報酬とするとともに研修体制等を強化し、要介護者に安心の医療を提供できる体制を確保する。なお、その場合介護報酬上、医療行為を評価する。

    3. (3)国および地方自治体は、家族など介護者(ケアラー)の支援を強化するため、以下のとおり対応する。

      ①地域包括支援センターなどを拠点とした家族などの介護者への情報提供・相談支援、レスパイトケア、ヤングケアラーに対する生活支援や就学支援など、包括的な支援提供体制を整備する。

      ②仕事と介護の両立を行う家族など介護者の介護離職防止に関する相談窓口の充実など情報提供・相談体制づくり、介護休業制度の拡充と社会保険料の免除、家族の介護による経済的困窮者への金銭貸付制度など一定の経済的支援などを行う。

      ③職場における勤務時間の短縮など就業環境の整備を推進するとともに、働く場と地域包括支援センターなどをつなぐ機能を提供する。

      ④やむを得ず離職した人に対しては、個人情報保護措置を講じることを前提に介護離職者の登録制度を創設し、ハローワークや自治体などと連携しつつ地域包括支援センターを拠点に介護サービスやNPO、介護者のネットワークなどの様々な資源に関する情報提供や、離職者が持つ能力を地域や職場で活かせるようスキルの把握などにつなげ、再就職支援の契機をつくるといった支援を行う。

    4. (4)国は、要介護者の状態が軽度化したケースに対する介護報酬による適切な評価や、軽度化に向けた利用者ならびにケアマネジャーの動機付けを強化する仕組みを創設する。その際、心身の状態の改善が進みにくい要介護者の介護サービスの利用が妨げられることにならない仕組みを検討する。
    5. (5)国および地方自治体は、利用者本位で公正・迅速な要介護認定の実現に向けた取り組みを進める。

      ①全国統一の要介護認定基準にもとづき、客観的かつ統一的な認定が行われるよう、訪問調査員、認定審査会委員の公正・中立かつ適正な調査・判定の実施に資する研修の改善や調査指導員の養成を拡充する。

      ②認定希望者が合理的な理由なく介護予防・日常生活支援総合事業にかかる基本チェックリストに誘導され、要介護認定審査が受けられないことがないよう、運用の周知・徹底を行う。

    6. (6)国および地方自治体は、認知症の人を含め、高齢者が尊厳を保持しつつ希望を持ってくらすことができる社会の実現に向けて、以下のとおり対応する。

      ①地域包括支援センターが中心となり、地域の介護施設、保健所、医療機関との連携をはかり、認知症の予防と早期発見、治療、情報提供、家族への相談・支援などの包括的なサービス提供体制を整備する。

      ②本人の意思が尊重され、住み慣れた地域で良質な環境のもと自分らしくくらし続けられるよう、ICTやAIなど新技術を活用した在宅ケアなどを拡充するとともに、安易な精神病院入院や施設入所を回避し、早期の治療、生活、就労、移動支援など、地域の見守り体制づくりを行う。

      ③利用者の尊厳と生存権を尊重した看取り介護の改善をはかるため、自らが希望する介護について自分自身や周囲の家族などと話し合う「人生会議」の普及を徹底し、延命の可否を含め「利用者に最善の介護」を選択できる体制を整え、在宅や施設におけるターミナルケアを充実させる。

      ④若年性認知症を含めた認知症に関する理解促進に向けて、認知症サポーターの養成推進をはじめ、関係省庁が連携し、子どもや学生、若年層などへの啓発に取り組むとともに、事業主による従業員への理解啓発などを支援する。

      ⑤認知症の人やその家族が雇用継続されるよう、若年性認知症支援コーディネーターの配置を進めるとともに、事業主による就労上の配慮や、他の従業員の理解啓発などを支援する。

      ⑥認知症の予防と治療やケア技術に関する研究開発など認知症対策をより一層強化する。

    7. (7)国および地方自治体は、介護事業者の防火対策や消火設備の設置、防災訓練、事故発生時の避難訓練、罹災後や感染症発生後の速やかな事業活動再開に向けた業務継続計画(BCP)の策定に対する支援を強化するなど、総合的な安全対策を講じる。
    8. (8)自治体が事業者に対して行う指導監査を充実するため、労働法令遵守を含めた監査基準の明確化と人材確保・育成をはかり、国はそのための財政措置を行う。
    9. (9)国および地方自治体は、施設での身体拘束や虐待の根絶に向けて、以下のとおり対応する。

      ①すべての施設における虐待の発生またはその再発を防止するための措置(委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めること)、適切な対策の検討とその結果の従業者への周知徹底が行われているかを確認し、指導監督を徹底する。

      ②介護保険適用外の施設における身体拘束・虐待に対する行政指導を厳格化するとともに、市町村は地域における高齢者住居の実態把握を徹底する。

    10. (10)国および地方自治体は、利用者への虐待などハラスメントを根絶するため、高齢者虐待防止法について住民への周知をはかるとともに、事業者、介護労働者への研修、指導を充実、徹底する。また、利用者やその家族からの相談・通報に対し迅速に対応できるよう体制整備を行う。
    11. (11)国および地方自治体は、判断能力が十分ではない人の権利擁護を推進する。

      ①「市民後見人」の育成・支援を進める。また、後見実施機関(成年後見センター)をNPOや社会福祉法人への業務委託等により設置し、支援体制を強化する。

      ②成年後見人制度を利用した際に法的能力等において過度の制限を受けることがない仕組みに見直した上で、その利用にかかる費用負担を減らすとともに、同制度の周知や人員確保など権利擁護の体制を整備する。

    12. (12)国は、居宅介護支援について、利用者の自立支援や軽度化に資する質の高いケアプランの策定を促進する観点で、以下の通りの対応をはかる。

      ①ケアマネジャーの独立性を確保するため、独立型の事業所を報酬上評価するなど支援を行う。また、特定事業所集中減算は、優良なサービスの利用が阻害されるなど、利用者の便益を損なう懸念があるため、独立性の確保により利用者の囲い込みを生じさせない仕組みを検討しつつ見直しを行う。

      ②ケアプランの質を向上させるため、ケアマネジャーの研修内容をさらに充実させる。また、事業者に対する指導の徹底等により、研修を受講しやすい環境を整える。

      ③利用者の状態把握やサービス担当者会議などを十分行えるように、事務の簡素化や文書負担軽減を進める。

      ④管理者要件が原則として主任介護支援専門員となることから、その資格を取得しやすいよう、研修機会の充実などをはかる。

    13. (13)国および地方自治体は、高齢者の尊厳を守り、QOLの向上に寄与する観点から、高齢者の良質な住まいの確保に向けて、以下のとおり対応する。

      ①住み慣れた自宅で生活すること、やむを得ず施設入所の場合には個室ユニットを基本とし、自立的な生活と生活の場を確保する観点から、特別養護老人ホームや老人保健施設における多床室の新設は認めない。

      ②1ユニット定員の拡大がケアの質の低下と職員の過度な負担につながらぬよう、夜間・深夜の職員配置を確保するための指導を徹底する。

      ③サービスの質の確保を前提に、サービス付き高齢者向け住宅や優良賃貸住宅を整備するとともに、公営住宅などをリノベーションなどによる老朽化対策を講じたうえで活用する。また、全国にある空き家も積極的に活用する。

      ④施設入居に関しては、施設も居場所であり住まいとみなし、低所得者には社会手当として住宅手当を支給するなど、個人の住まい・居場所が確保されるよう体制を整備する。あわせて、住宅セーフティネット制度をより活用すべく、制度を積極的に周知するとともに登録手数料の平準化や居住支援協議会などによる支援強化などを行ったうえで、住居を失った人や失うおそれのある人が一定基準以下の所得である時に住居の現物支給ないし家賃補助などを行う。

      ⑤リバースモーゲージの活用や、低所得者に対する住宅給付の創設などを通して、利用者の負担の軽減と“居場所”確保をはかる。

    14. (14)国は、介護医療院について、長期療養と介護のニーズを合わせ持つ利用者の住まいを確保する観点で、以下の通りの対応をはかる。

      ①介護医療院は「生活施設」である観点から、最低でも一人あたり8㎡の床面積を前提とし、個室を基本とする。

      ②設備基準を満たせない介護医療院については、報酬の減額措置を検討する。

    15. (15)有料老人ホームなどについて、利用者が安心して生活できる住まいを確保する観点で、以下の通りの対応をはかる。

      ①国および都道府県は、未届老人ホームを無くすとともに前払金保全措置義務を確実に履行させるため、「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」に沿って有料老人ホームへの指導・監督を徹底し、利用者が安心できる住まいの整備を進める。

      ②国および地方自治体は、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどについて、入居に際して保証人がいない場合は、その代替として機関保証や成年後見制度を積極的に活用するとともに、入居者本人の意思に反して強制的に退去させないよう事業者に対して指導する。また、身元保証等高齢者サポートサービス事業者の監督体制を確立する。

    16. (16)国は、福祉用具について、利用者のQOLの向上や介護労働者の負担軽減に資するイノベーションのための支援に向けて、以下のとおり対応をはかる。

      ①福祉用具の貸与料金について、上限価格の設定による適正化を徹底するとともに、仕様や機能等に応じた客観的かつ公正な価格設定を行う体制を構築するなど、サービス提供への影響を把握しつつ公定価格化を含めて引き続き検討を進める。

      ②福祉用具専門相談員の質の向上・確保に向けて、より実践的なスキル取得のための実地研修等をカリキュラムに組み込むとともに、担当利用者件数の上限を設けることを検討する。

      ③保険収載にかかる手続きはデータにもとづき客観性と透明性を確保する。

    17. (17)国は、福祉用具について、利用者のQOLや介護労働者の負担軽減に資するイノベーションのための支援を行う。また、保険収載にかかる手続きはデータに基づき客観性と透明性を確保する。
    18. (18)国および地方自治体は、事業者指定について、以下の通り見直す。

      ①事業者の指定・更新要件に、労働関係法規の遵守と社会保険加入を追加する。

      ②在留資格「介護」または「特定技能1号」で働く外国人や技能実習生を含めた労働者について、賃金・労働条件が労働関係法規に違反している、または社会保険に加入させていない場合は、事業者指定の取り消しを行うなど、厳正な指導監査を実施する。

    19. (19)国は、地域の様々な人材を活用したネットワークを構築するため、自治体による地域支援事業の確実な実施を支援する。任意事業の介護給付費適正化事業、家族介護支援事業は必須事業とする。
    20. (20)国は、仕事と介護の両立支援を強化する観点から、職場における介護に関する従業員からの相談対応や法定および社内の両立支援制度の周知、介護保険制度に関する情報提供を徹底するため、事業主に対して「職業家庭両立推進者」の活用を促進する。(「男女平等政策」参照
    21. (21)介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」という)について、以下の通りの対応をはかる。

      ①国および地方自治体は、総合事業の展開について、各自治体の取り組み状況をモニタリングし、随時フィードバックを行う体制を構築し、サービス水準の底上げをはかる。

      ②地方自治体の財政状況によってサービス水準の格差が拡大しないよう、国および都道府県は必要な補填を行う。

      ③国および地方自治体は、総合事業にかかる基本チェックリストの運用については、要介護認定を受けるべき人が、窓口の主観的な判断によって省かれることのないよう、明確な運用基準を定める。

      ④国および地方自治体は、ボランティアの活動実態および就労状況を把握し、介護労働者との役割および責任範囲の違いを明確にするとともに、ボランティアについて適切な保護をはかる。

      ⑤地方自治体は、利用者の希望を尊重し生活実態を十分に踏まえ、いわゆる軽度の要介護者に対し、総合事業の利用を強要しないようにする。また、利用者のサービスへのアクセスを損なわないよう、多様な主体によるサービスの展開・普及を支援する。その際、安価な報酬によるサービスやボランティアの濫用によって労働者の賃金水準やサービスの質の低下を招かないようにする。

  • 2.介護労働者の労働条件や職場環境を改善し、介護を魅力とやりがい、誇りをもって働くことができる職業にし、介護労働者の安定的な確保をはかる。

    1. (1)国は、専門性をもつ介護労働者を安定的に確保するため、各年度の予算措置ではなく継続的な財源確保を行い、人材確保のための施策を引き続き講じる。
    2. (2)介護労働者の賃金・労働条件を向上し、介護職の魅力をさらに高めるために、以下のとおりの対応をはかる。

      ①国は、介護職員等処遇改善加算を現場の継続的な処遇改善とキャリアアップにつながる賃金制度の構築に結びつけるとともに、介護労働者の特定最低賃金の設定を含め、介護現場で働くすべての労働者の全産業平均との賃金格差を是正し、仕事に見合う賃金に引き上げる。また、加算をめぐる事務作業を簡素化するとともに、事業所に対する加算取得支援を行う。

      ②国は、介護職員等処遇改善加算の対象となるサービスと労働者を拡大し、介護職以外も含めた事業所全体の処遇改善をはかる。

      ③国および地方自治体は、事業者が介護職員等処遇改善加算を算定していることについて介護労働者への周知を徹底するよう指導する。また、現行の加算取得事業所が引き続き加算を取得できるよう、賃金体系の整備など雇用管理改善の支援を拡大する。

      ④国および地方自治体は、介護労働者のモチベーションを高めるキャリアアップの仕組みや、働きがいのある職場づくりを推進し、介護職のイメージを向上する。

      ⑤国および地方自治体は、介護福祉士の配置を介護保険サービスの指定要件および介護報酬の算定要件に位置づけ、専門職としての地位の向上、確立をはかる。そのための十分な移行期間および移行教育の実施と、受講しやすい環境の整備を行うとともに、事業主・研修受講者への支援を周知・拡充する。また、安全性の担保などのもとで一定の医療行為も実施可能な、認知症、障がいなどの専門的な介護について研修し認定を受けた介護福祉士の資格を導入し、育成する。さらに、介護福祉士教育の内容についても検討を行い、充実をはかる。

      ⑥国は、介護労働者の処遇改善やキャリア形成を促進するため、介護プロフェッショナルキャリア段位制度など、事業所における実践的なキャリアアップを推進する仕組みを報酬上評価する。

      ⑦国は、認知症や多様な障害に対応する専門的な介護など、より質の高い介護サービスや医療との積極的な連携を行うことのできる「認定介護福祉士」の教育・育成を促進する。

      ⑧国および地方自治体は、サービス提供責任者に対する能力開発プログラムの拡充や定期的な受講を義務づけるとともに、事業所による受講促進にかかる取り組みを評価するなど、キャリアアップの仕組みを整備する。

      ⑨ケアマネジャーを地域における介護サービスの推進体制の中核的人材と位置付け、キャリアを向上させる。

      ⑩国および地方自治体は、潜在的な専門職種資格の保有者に対して、個人情報保護措置を講じることを前提に登録制度を創設し、求人に関する情報提供や、保有者が持つ能力を職場で活かせるようスキルの把握、研修制度の整備、復職支援を行う。

      ⑪経験による技能の習得や新たな資格の取得が、外部労働市場においてもより高い労働条件につなげられるよう、社会的なキャリアアップの仕組みを創設する。

      ⑫専門資格を有する人材がその役割を十分に果たすため、要支援1の人などに対する軽度な支援については、資格の有無に関わらず、サービスの担い手を広く確保する。

    3. (3)国は、サービス提供を担う介護労働者の腰痛防止対策を講じるなど労働条件を改善し、安心して働ける職場環境づくりを進めるとともに、介護現場の生産性向上に向けて、以下のとおり対応する。

      ①介護労働者の資格取得時、入職時等における感染症教育を徹底する。また、特に小規模の事業所における安全委員会・衛生委員会の設置を推進し、心身の健康管理を事業規模によらず義務づける。

      ②介護労働者に対する利用者やその家族からのハラスメント防止対策の制度化など、労働環境を改善して離職防止策を強化する。

      ③事業者に対して、労働関係法規の遵守を徹底するとともに、「介護サービス情報の報告および公表」の運営情報項目に、労働者に対する健康診断、賃金、離職率、夜間・早朝を含む労働時間・勤務体制、労働関係法規の遵守状況、社会保険の加入状況、研修制度、キャリアアップなどの公表を義務化するなど、事業者の雇用管理の改善を促す仕組みを導入する。また、利用者に対する周知を強化し、活用を促進する。

      ④サービス提供責任者が本来の業務に専念し、「直行直帰」の訪問介護員が利用者に関する情報を共有化できる体制を構築するため、サービス提供責任者の配置基準を引上げる。

      ⑤テクノロジーを活用した場合の人員基準の緩和等については、施行後の実施状況の把握とともに実証データの収集を行い、利用者の安全への影響や介護労働者の負担増につながらないよう事業所を指導する。

      ⑥介護の行為などのデータを集積・分析し、認知症の行動・心理状況を予測・予防や新たな介護技術に反映する。

      ⑦AIにより適切なケアプランの作成を支援するとともに、介護の現場で必要となる記録や、行政に対する申請や報告などで、できるだけ入力作業が不要となるデータ端末を導入することなどにより、業務負担の軽減をはかる。

    4. (4)国は、在留資格「介護」および「特定技能1号」、経済連携協定(EPA)にもとづく介護福祉士、技能実習制度で働く外国人介護人材と利用者双方の人権擁護の観点から、以下の通りの対応をはかる。

      ①介護は利用者の身体・命にかかわる対人サービスであり、十分な意思疎通や正確な業務引継ぎ、緊急時の対応を確実に行える必要があることから、事業所における日本語能力の把握を厳格に行う。

      ②日本人との同等処遇を担保するため、事業所の指導・監査を徹底する。また、外国人労働者の人権擁護と継続的な就労の保障の観点から、事業所内外の相談窓口の拡充や、各事業所における雇用管理を徹底する。

      ③EPAにもとづき介護福祉士資格を取得した者について、事業所に対し、日本語能力の向上に向けた研修を継続的に実施するよう徹底する。指導や改善命令に従わないなど、問題があると判断された場合は、地方自治体等と連携し、事業指定の取り消しや在留資格「特定技能1号」による労働者、技能実習生の受け入れを認めないことなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で雇用されていた者の継続的な就労機会を確保する。

      ④技能実習制度は技能移転が本旨であることから、十分な研修体制を確保できない事業所による受け入れは認めない。また、技能実習生を受け入れる事業所は介護サービス情報の公表制度にもとづき公表する。さらに、指導や改善命令に従わないなど、問題があると判断された場合は、地方自治体等と連携し、事業指定の取り消しやEPA介護福祉士候補者、在留資格「特定技能1号」による労働者の受け入れを認めないことなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で実習を行っていた技能実習生の継続的な実習機会を確保する。

      ⑤在留資格「特定技能1号」の受け入れ事業所は、労働法令遵守をはじめ日常生活継続支援加算対象事業所であることなどを要件とする。また、不正が発覚した場合は、受け入れの取り消しとともに、介護保険法においても事業指定の取り消しなども含めて厳正に対応する。なお、当該事業所で雇用されていた者の継続的な就労機会を確保する。

      ⑥在留資格「特定技能1号」での滞在中に、在留資格「介護」に移行することも可能とされていることから、当該在留期間内における介護福祉士資格の取得を支援することについても検討する。

      ⑦技能実習「介護」における固有要件、在留資格「特定技能1号」に関する政府の受け入れ方針、介護保険法の履行確保の観点から、在留資格「介護」または「特定技能1号」や技能実習生にかかる労働者の受け入れ事業所に対する監督体制を強化するとともに、出入国在留管理、職業安定、介護保険の各関係政府部局および外国人技能実習機構並びに都道府県等が緊密に連携する体制を構築する。

    3.介護サービスを必要とする人が必要なサービスを負担可能な費用負担で受けられる介護保険制度に再構築する。

    1. (1)国は、要介護または要支援の事由を問わず、介護や支援が必要な時に受給できるよう、様々な人を対象とした総合的・普遍的な制度へ介護保険制度を発展させるため、以下のとおり被保険者・受給者の範囲を拡大する。

      ①介護保険制度の加入者の範囲を現行の40歳以上から18歳以上のすべての医療保険加入者に拡大する。その際、保険料の仕組みは所得に応じた応能負担とする。

      ②対人サービスを給付内容の基本としつつ、新たに加入対象となる者への反対給付として、被保険者による将来の介護予防・健康づくりに資する取り組みに対する給付の創設など、給付対象を拡大する。

      ③新たに被保険者・受給者となる若年者からの納得が得られるよう、丁寧な説明を実施する。

      ④障害者総合支援法にもとづく介護給付において、介護保険と共通するサービスについては介護保険で対応し、その他のサービスは引き続き障がい福祉施策により提供するなど、利用者の実情に応じた介護サービスを提供する。また、介助サービス、介護サービス、移送サービスなど財源や給付制度のあり方を早急に検討し、スケールメリットと障がい者独自の介助ニーズへの支援のあり方など、制度設計の見直しをはかる。

      ⑤若年障がい者への給付範囲拡大にあたっては、介護保険給付に加えて所得保障と就労支援策を講じるとともに、その納得が得られるよう、丁寧な説明を実施する。

      ⑥要介護認定の手続きについては、障がい者が現在受けているサービスを継続的に利用でき、必要な給付へのアクセスを損なわないようなあり方を検討する。

    2. (2)国は、介護保険にかかる給付のあり方について、以下の通りの対応をはかる。

      ①サービスの利用に対する給付割合について、負担能力に応じた負担としつつ、介護はサービスの利用が長期にわたることから7割給付を最低限とし、さらなる給付の引き下げは恒久的に実施しない。

      ②低所得者、生計困難者の負担実態を把握するとともに、現役並所得者等に対して行われた高額介護サービス費の上限引き上げや給付割合の引き下げによる家計への影響や、介護離職が増加していないかを、医療における負担と合わせて丁寧に分析し、生計維持に困難を来さぬよう、必要な措置を講じる。

      ③低所得者、生計困難者に対する社会福祉法人の利用者負担減免措置制度を拡充する。

      ④低所得者に対する補足給付について、高齢夫婦世帯の一方が介護保険施設の個室に入所した際に受ける居住費・食費負担の軽減措置を、多床室でも受けられるよう拡大する。

      ⑤ケアプランの有料化については、本来必要なサービスの利用が抑制されないよう、自立に資する適切なケアマネジメントの利用機会を確保する観点などから、慎重に検討する。

      ⑥生活援助中心型の訪問介護について、利用回数が一定以上のケアプランを市町村が検証する仕組みは、単身者を含む要介護者の在宅生活と家族の就労生活に影響を及ぼさないことを前提に運用し、利用回数に実質的な上限を設けることにならないように通知を徹底する。

    3. (3)国は、介護保険料のあり方について、以下の通りの対応をはかる。

      ①第1号被保険者(65歳以上)の所得段階別の保険料徴収について、保険料の段階決定の際の課税状況の認定を個人単位とするとともに、世帯主や配偶者への保険料の連帯納付義務を撤廃する。

      ②保険料の負担軽減措置の段階をさらにきめ細かく分けるなど、低所得者対策を拡充する。なお、低所得者に対する支援策が確立するまでの間は、保険料の滞納に対する給付制限について、特に悪質な場合を除き、凍結する。

    4. (4)市町村ごとの「介護サービス運営協議会」の設置、「介護保険運営協議会」への住民、利用者、被保険者、介護労働者の代表などの多様な主体の参画により、介護保険制度の運営のチェックを行う。地域のNPOなど地域福祉の担い手の参画により、地域における介護ネットワークを形成し、地域の介護資源や、情報交換、介護保険事業の参加型運営をはかる。
    5. (5)国および地方自治体は、地域包括ケアの推進に対し、利用者、医療保険者、被保険者の声が反映できる仕組みにする。
    6. (6)介護保険サービスと介護保険外のサービスを同時一体的に提供する、いわゆる混合介護については、利益の大きいサービスが優先され、介護保険サービスを必要とする人へのサービス提供が阻害される懸念があるため慎重に検討する。

     

    TOPへ