- (1)2020年12月、政府は「第5次男女共同参画基本計画」を閣議決定した。しかし、過去の基本計画で掲げられた目標の多くが未達成であり、それらの実現に向けた具体的な対策が急がれる。加えて、2003年に設定された「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」目標は、「2020年代の可能な限り早期に」と先送りされた。世界の潮流は2030年までの完全なジェンダー平等の実現(いわゆる203050)であり、これ以上の停滞は許されない。世界経済フォーラムが発表しているGGI(ジェンダー・ギャップ指数)の順位でも、日本は146ヵ国中118位(2024年)と先進国で最下位となっており、特に政治・経済分野での男女間格差が指摘され続けている。その背景には、政治をはじめとする社会のあらゆる分野でジェンダー平等に対する意識の低さがいまだぬぐえない状況がある。
2021年6月に改正された「政治分野における男女共同参画推進法」により政党や国・地方自治体の施策と責務が強化されたが、女性議員の数は遅々として増えない。政治分野における女性の参画をより積極的に推進するため、クオータ制導入へ向けた法整備が必要である。 - (2)「令和4年版働く女性の実情」によると、2022年の女性の雇用者数は2,765万人、雇用者総数に占める女性の割合は45.8%であり、ゆるやかな上昇傾向にある。女性の年齢階級別労働力人口比率をみると、25~29歳および30~34歳を底とするいわゆるM字カーブの谷の部分は浅くなりつつある。一方、女性雇用者数に占める雇用形態別の割合(役員を除く)をみると、「正規の職員・従業員」46.6%、「非正規の職員・従業員」53.4%であり、女性の正規雇用比率は、25~29歳をピークに低下しているL字カーブを描いている。
日本の男女間賃金格差は、長期的には縮小傾向にあるものの、そのスピードは緩やかである。2022年に女性活躍推進法の省令改正により、常時雇用する労働者数301人以上の企業に対し、「男女の賃金の差異」の情報公表が義務づけられたが、数値を公表するだけではなく、手当を含む賃金制度に加え、評価や昇格・昇進といった運用面を含めて要因分析し、是正に向けて取り組むことが必要である。
女性活躍推進に関する情報は、将来の業績予想や投資判断の際の有効な指標となり得る。男女が共に働きやすくなることが、多様なバックグラウンドを持つ人が会社に増えることにつながり、新しい取り組みやイノベーションが生まれるきっかけとなると考えられている。多様な人材、特に優秀な人材を引き付ける力や、意思決定や判断に多様性を浸透させることが、価値を高める上でも重要となってきている。
女性が直面している様々な困難が解消され、働きがいを持てる就業環境の整備は急務であり、女性活躍推進法のさらなる周知・点検の徹底と定着、中小企業への浸透など、法の実効性を高める必要がある。 - (3)男女がともに仕事と生活の調和を実現するためには、働き方を見直し、男性も含めた労働時間の短縮や、仕事と育児や介護等の両立支援に向けた環境整備が不可欠である。2022年4月より三段階に渡って施行される改正育児・介護休業法は、男性の育児休業取得を促進させるための拡充策として「出生時育児休業(産後パパ育休)」を創設した。
しかし、固定的性別役割分担意識と男性の長時間労働は、依然として男性の育児や家事への参画を阻んでいる。男性の育児休業取得率は13.97%で、2020年の7.5%と比較すると上昇傾向にあるが、育児休業の取得期間は2週間未満が5割を超える。そのような中、未だ女性労働者の半数が第1子出産前後で退職している。
一方、介護の状況を見ると、家族の介護・看護のために離職した労働者は、年間約10万人で推移しており、働きながら介護をする男性も増えている。また、介護離職者の再就職は3割であり、その多くが非正規雇用となっている。さらに、育児と親の介護を同時に担う「ダブルケア」を行う人口も25万人と推計されており、男女ともに30歳から40歳代の働き盛りの世代がこの問題に直面している。それらの状況の改善は喫緊の課題であり、男女がともに仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)をはかることができるよう、実態やニーズに応じたさらなる法整備が求められている。 - (4)2019年6月、ILOは第108回総会において「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」に関する条約と勧告を採択した。あらゆるハラスメントの根絶は今や国際的な課題となっている。
日本の現状は、「令和5年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況について」によると、全体の相談件数は167,158件、その内、セクシュアル・ハラスメントに関する相談が7,414件、パワー・ハラスメントに関する相談が60,053件、マタニティ・ハラスメントに関する相談が1,756件と、ハラスメントに関する相談件数は高止まりしている。
2020年6月には改正労働施策総合推進法、改正男女雇用機会均等法等が施行され、2022年4月からはパワー・ハラスメントの防止措置義務が全事業所に義務化された。ハラスメントは「行ってはならない」との責務規定が法制化されるなど、ハラスメントの抑止効果が期待される。しかし、ハラスメントが蔓延する現状に鑑みれば、ハラスメント行為そのものを禁止することが重要であり、さらなる法整備に向けて早期に取り組む必要がある。
なお、職場以外でも女性に対する差別発言や性的指向・性自認(SOGI)に関する問題発言などが頻発しており、あらゆるハラスメント対策を求める声が高まっている。G7広島サミットを契機として2023年6月にLGBT理解増進法が制定されたものの、同法は差別の禁止を規定するものではなく、極めて不十分な内容である。法の履行確保のため、施行状況を継続的に確認・検証する仕組みを構築し、差別の禁止を含めた法改正に向け、当事者と連携して取り組む必要がある。 - (5)国連で採択された「持続可能な開発目標・SDGs」に係る施策を総合的かつ効果的に推進し、目標を達成させていく必要がある。貧困や不平等をなくし、年齢や性別、障がいの有無などにかかわらないディーセント・ワークの実現に向け、女性のエンパワーメント、女性に対するあらゆる形態の差別や暴力の根絶などをめざす目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組みを中心に位置づけることが重要である。
そのうえで、国際的な連携をはかり、条約などの取り決めを遵守する姿勢を示すべきである。女性差別撤廃条約にもとづく性差別禁止、特に雇用の全ステージにおける直接・間接差別の禁止に関する法制度の充実が必要である。また、「雇用及び職業についての差別待遇」に関するILO第111号条約や、2021年6月25日に発効した「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」に関するILO第190号条約を早期に批准すべきである。さらには、ILO条約勧告適用専門家委員会が日本政府に強く求めている同一価値労働・同一賃金の原則の実現による均等待遇の確保や、性やライフスタイルに中立な税・社会保障制度の実現による格差是正、貧困の解消が強く求められている。
加えて、日本は、国連女性差別撤廃委員会から再三の勧告を受けているにもかかわらず、選択的夫婦別氏制度を導入するための法改正が実現していない。この制度については、国民世論で実現を望む声が高いにもかかわらず、「第5次男女共同参画基本計画」では極めて消極的な記述にとどまっており、民法における男女差別の解消に向けて引き続き運動を展開する必要がある。
また、2024年5月に成立した改正民法(家族法)の国会審議において、監護者指定が必須でないために親権行使が滞る可能性や、協議離婚時の親権者の定めなどに関して適正な協議がなされない恐れなど、数多くの問題や懸念が明らかとなった。政府は、これらの問題や懸念、国会における修正内容、附帯決議を重く受け止め、2年以内とされた施行までの間に、改正法が真に子の福祉に資するものとなるよう、関係府省庁・関係機関で連携して必要な検討を進めるとともに、国民や現場への十分な周知や啓発活動に努める必要がある。
横断的な項目|男女平等政策