- (1)経済社会の変化等により影響を受ける労働者が安心して就労できるよう、雇用調整助成金や産業雇用安定助成金なの活用などにより雇用を守りながら、雇用創出効果の高い分野に施策を集中し、産業政策と雇用政策を一体的に推進することが重要であり、同時に、パート・有期・派遣による雇用から正規雇用への転換促進、就労支援策の拡充、最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大、若年者雇用対策の強化など、重層的な積極的雇用対策や社会的セーフティネットの整備に一層取り組む必要がある。雇用保険を財源として、失業等給付や各種助成金など「雇用のセーフティネット」が維持されているが、その財源の枯渇化が懸念されている。今後の雇用情勢の悪化などにも耐えうるよう、雇用保険の積立金財高については、一般会計からの繰り入れなどを通じて一定量をつねに確保するとともに、引き下げられた失業等給付の国庫負担を雇用保険制度発足時 の水準(1/4)へ戻す必要がある。
- (2)政府は3か年の集中対策として進めてきた就職氷河期世代支援プログラムについて2年延長した。各施策の検証分析をふまえた効果的な支援としていくことが重要である。求人の開拓や、資格の取得などを含めた教育訓練をより充実させるとともに、個人のニーズに沿った就職に向けたマッチングを強化し、若年層が長い職業生活を安心して働き続けられるよう、社会全体で若年雇用対策に取り組むことが重要である。
高年齢者雇用安定法の改正を受け、今後、高齢者の雇用はさらに進展することが見込まれている。就労を希望する労働者の増加や、雇用と年金の接続の観点からも、雇用形態にかかわらず希望するすべての労働者への70歳までの雇用確保が求められる。一方で、健康上の理由や家族介護などで継続雇用を希望することが難しい者に対する社会的セーフティネットの整備など、残された課題の解決も必要である。
2022年10月、障害者雇用促進法などからなる障害者総合支援法等改正法案が成立した。改正法では、連合が求めてきた事業主責任による能力開発支援や、障がい特性等に配慮した週20時間未満の短時間雇用の推進、企業ニーズに応じた助成金の拡充が実現した。また、2024年4月以降、段階的に法定雇用率が引き上げることとなった。
引き続き、雇用と福祉の連携強化や、職場における障がい者の差別禁止と合理的配慮の提供、「働きづらさ」をかかえる労働者が、手帳を取得していなくても、就労困難性を判断して法定雇用率の対象にするなど、ソフト面・ハード面の双方から「働きやすい」環境整備を進めるとともに、法定雇用率の達成をめざし、さらなる支援が必要である。 - (3)コロナ禍による入国制限により増加率は鈍化したものの、日本で働く外国人労働者数は、過去最高を記録した。外国人技能実習制度における労働関係法令違反および人権軽視などの問題は依然として後を絶たず、コロナ禍による外国人労働者の解雇、雇止めなどの問題も明らかになっている。
一方、2019年4月より施行された「特定技能」制度は、技能実習法とあわせて見直しの議論が行われる予定である。日本で働くすべての外国人労働者の人権や権利が保障されるよう、外国人技能実習法を含め、外国人労働者政策として総合的な検討および体制整備を行うべきである。 - (4)日本で働く外国人労働者数は、過去最高を記録した。外国人技能実習制度における労働関係法令違反および人権軽視などの問題は依然として後を絶たず、外国人労働者の解雇、雇止めなどの問題も明らかになっている。
2022年11月、技能実習生制度および特定技能制度の見直しに向け、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議のもとに、有識者会議が設置された。日本で働くすべての外国人労働者の人権や権利が保障されるよう、外国人労働者政策として総合的な検討および体制整備を行うべきである。 - (5)コロナ禍において、テレワークをはじめとする柔軟な働き方が多くの企業で導入・活用されるなど、労働者の働き方は大きく変化している。テレワークや副業・兼業などの働き方は労働者にとっての利便性やニーズがある一方、労働時間が把握しづらく、過重労働や健康障害につながることが懸念される。更なる労働時間管理の徹底が求められる。
パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間は、業種によるバラつきはあるものの、引き続き2000時間を下回ったが、過労死等の労災支給決定件数は高水準で推移している。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」等にもとづき、業種毎の調査・分析などを通じた施策の実効性確保や、曖昧な雇用で働く就業者も含めた長時間・過重労働対策の強化が求められる。 - (6)厚生労働省「労働組合基礎調査」によれば、労働組合の推定組織率は2割に満たない水準で推移している。とくに正規雇用でない労働者の多くは未組織であり、集団的労使関係の及ばない労働者も多く存在している。
法令上「過半数代表」が関与する制度は、労働関係法のみならず、多く存在している。改正労働基準法における時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の法整備等をはじめ、「過半数代表」が果たす役割の重要性は高まっている。しかしながら、会社側の指名をはじめとした不適切な方法による選出など、必ずしも職場の代表としての正当性が担保できていない。まずは、過半数代表者の適正な選出や運用が図られるよう厳格な対応を徹底するとともに、引き続き労働者代表法制などの労働組合のない職場における労働者の声を反映する仕組みについて検討が必要である。 - (7) DX・GXの推進など経済社会を取り巻く情勢が変化するなかにあって、これらの環境変化に対応し、働く者の雇用の安定とキャリア形成を図るためには、「人への投資」の拡充が不可欠である。
AIやIoTなどの進展に対応した職業能力開発の質のさらなる向上と量の拡大が求められているほか、労働者もリカレント教育など働き続けながら、新たな知識や技術を習得することが必要となる。雇用形態や企業規模、障がいの有無等にかかわらず、希望する誰もが職業能力開発機会を確保できるよう、求職者支援制度の拡充を含め、セーフティネットとしての職業訓練を強化していく必要がある。
また、指導人材の不足など人材面で課題を持つ中小企業等に対する相談援助などの支援策の拡充も求められている。 - (8)就業形態の多様化、IT化の進展、プラットフォームエコノミーの台頭等により、現行の「労働者」概念では捉えられない「曖昧な雇用」で働く就業者が増加している。コロナ禍を契機とし、「曖昧な雇用」で働く就業者のセーフティネットの脆弱性が顕在化する中、いわゆる「フリーランス新法」による取引適正化の進展や労災保険特別加入制度の対象業務を拡大するなどの取り組みが行われているものの、従来の労働関係法令では対象とならない就業者の保護は喫緊の課題であり、社会の実態や就業形態の多様化などを踏まえた「労働者」概念の早急な見直しと拡充が求められる。
- (9)政府の「第14次労働災害防止計画」にもとづき「作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」や「多様な働き方への対応」、「労働者の健康確保対策の推進」、「個人事業者等に対する安全衛生対策の推進」などについて、企業規模や雇用形態に関わらず政労使で推進する必要がある。また、働き方改革を受けた長時間・過重労働対策や、今後増加が想定される高齢労働者や外国人労働者への安全確保対策も確実に実行していくことが求められる。さらに、いじめやハラスメントを含む職場の人間関係によるストレスやコロナ禍におけるテレワークの普及などによる新たな課題も勘案したメンタルヘルス対策も必要となる。同時に、新型コロナウイルスによる重症化リスクが高いとされる基礎疾患を抱えながら働く者への配慮を含め、「治療と仕事の両立支援」を制度としてあらかじめ整備しておくことも重要である。
- (10)有識者による「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」報告書がとりまとめられた。我が国では、既に労働審判員制度をはじめとした現行の労働紛争解決システムが有効に機能しており、個別労働紛争の解決に向けては、不当解雇を正当化しかねない制度の導入ではなく、既存の紛争解決システムの運用面での改善や、労働紛争を未然に防ぐための労働教育の実施などについて充実をはかるべきである。