「辞めさせてもらえない」「休めない」学生から悲鳴 大事なのは話し合いと相談

アフターコロナで人手不足感が強まる中、アルバイト学生から「退職させてもらえない」「休ませてもらえない」「長時間残業させられる」といった相談が目立つようになった。中には学業に支障が出た、体を壊してしまった、という声も…。学生たちが希望に沿ったシフトや勤務時間で働き、学校やサークル活動とバイトを両立するには、何が必要だろうか。

残業で体を壊し1週間入院 反省を就職活動に生かす

神奈川県内に住む大学4年の男性(22歳)は、1年生の秋に自宅近くの物流倉庫でアルバイトを始め、わずか数ヵ月で体を壊してしまった。

バイト先とは週3回、午後6時~10時までの勤務という契約で書面も交わしたが、ほどなく午前0時過ぎまでの残業が常態化した。残業を前提として大量の業務を課せられるようになり「翌朝5時まで働き続けたこともあります」。
当時はコロナ禍で、授業はオンラインだったが、講義が始まっても起き上がれず、布団の中で受けたこともたびたびあった。睡眠不足で抵抗力が弱ったのか、12月に風邪をひくと扁桃腺が腫れあがって38度を超える熱が続き、1週間以上入院するはめに。
男性は、入院をきっかけに働き方を見直し、職場に「もう残業しません」ときっぱり伝えた。その後も職場からは「残業してよ」と言われたが、長くとも1時間程度の残業にとどめた。2年生からは労働問題を学ぶゼミに入り、就職活動でも残業時間などを踏まえて企業を選んだ。

「ワークルールを知らなかったら、長時間労働が当たり前の企業に入り、会社の命令に唯々諾々と従ってしまったかもしれない。学んだことが糧になりました」

「学業に支障」学生の労働相談、高校生の深夜労働も

連合の労働相談窓口にも、学生から「辞められない」「休みをもらえない」といった相談が多数寄せられている。

・希望の休みを取れない。学業がままならないので退職したいが、雇用契約期間が残っている。(10代男性・ドラッグストア勤務)

・自動車教習所に行くので辞めたいと申し出たら、教習所の予約を取り消してくれと言われた。(21歳女子大生・販売業)

・パワハラを受けたことを理由に退職を希望しているが、退職させてもらえない。(20代女子学生・スポーツインストラクター)

労働基準法では18歳未満の若年者に対して、原則として午後10時~午前5時の深夜労働を禁じている。しかし、午後10時以降も残業させられているという高校生の声も相次いだ。

・手続き上は22時に退勤したことにして、その後も働かされる。午後3時~午前0時半まで休憩なしで勤務したこともあり、精神的にきつく学業にも支障が出ている。(10代女子高生・焼き肉店勤務)

・平日は午後10時を過ぎても働くことが多く、土日もすべてシフトを入れられて、体力的に本当につらい。(10代女子高生・すし店勤務)

このほか給与明細や、働く条件を示す「雇用条件通知書[i]」を渡されていない、通知書の時給が求人広告よりも低いなどのトラブルや、残業代の未払い、パワハラに関する訴えも見られた。

人手不足、職場は組織の見直しで対応を

嶋﨑 量(しまさき ちから)弁護士
神奈川総合法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。若者の労働問題やワークルール教育の実践など含め、働く人や労働組合の権利を守るために活動してい る。

帝国データバンクが今年4月、都内の約2000社を対象に実施した調査によると、パート・アルバイトなど正社員以外の働き手が「不足」だとする企業の割合は31.2%と、ほぼコロナ禍前の水準に戻っている。中でも学生アルバイトの主な受け皿である飲食店(88.9%)が突出して多かった。需要の急回復に、働き手の供給が追い付かないことが主な理由だ。

また、労働問題に詳しい弁護士の嶋﨑量氏は「学生アルバイトは今や多くの職場で、補助的業務ではなく基幹業務の担い手です。このため『シフトに入ってもらえないと、現場が回らない』という店からの圧力も、以前とは比較にならないほど強まりました」と解説する。

しかし今後も労働人口の減少が避けられない中、学生バイトにシフトを強要するのは、組織にとって一時しのぎの策でしかない。嶋﨑氏は「使用者は、学生は学業が優先であると改めて認識し、試験や行事などでシフトを抜けることも前提とした営業時間の設定や、労務管理の仕組みを整える必要があります」と指摘している。

生活のため働く学生 安易な「辞めちゃえば」は禁句

一方、学生を取り巻く経済環境は、物価や学費の値上がり、コロナ禍での世帯収入の減少などによって厳しさを増している。全国大学生活協同組合連合会の調査によると、2013年に月平均7万2280円だった大学生の仕送り額は、2022年には6万7650円に減った。日常生活で気にかかることも、「生活やお金のこと」を挙げる学生が47.4%と学業(46.6%)を上回り、最も多かった。

「サークル活動や海外旅行、留学などのためにアルバイトしていた方が多い40代以降の大人たちと、現在の大学生の境遇は全く違います」と、嶋﨑氏は強調する。

「仕送りが減る中、生活費、時には学費までアルバイトで稼ぐ学生も増えています。一方で大学側は、学生の単位認定基準として、出席を厳しくチェックするようになりました。バイトをやめたら生活できないが、授業も疎かにはできないという板挟みの状態なのです」

実際、連合の労働相談には「一人暮らしだが、ひとり親家庭で金銭的な支援も受けていない。パワハラを受けてバイトをやめて収入が半減してしまった」(10代専門学校生・飲食店勤務)といった、切迫した訴えもあった。

「大人が学生アルバイトの問題について、自分たちの経験から『そんなひどい職場なら、辞めればいい』と安易に考えるのは禁物。辞めるに辞められない彼ら彼女らの事情を理解し、真剣に向き合うべきです」

「学業優先」「書面を出して」雇い主に要望を伝え、話し合う

嶋﨑氏は、学生が職場での不当な処遇から身を守るために、最も重要なのは「雇い主と話し合って働き方を決めること」だと考えている。

「小中高と校則に従い管理されてきた若者が、雇い主の言葉を『正解』と考え従ってしまうのは無理もありません。学生たちには細かい労働法の条文を教えるより、自分の権利を守るために雇い主と話し合っていいのだ、という意識を植え付ける必要があります」

その上で、学生には以下の点が大事だとアドバイスする。

・アルバイトを始める際、雇い主に「学業を優先する」とはっきり言う。「基本的には月火水の3日が勤務可能」「金曜日はゼミがあるので入れません」といった細かい勤務日も伝えよう。

・労働条件通知書で、労働時間や勤務日、シフトの決定方法などを確認する。連合の労働相談には、「代わりを見つけなければバイトを休ませないと言われた」との相談も寄せられているので、シフト変更の手続きもチェックしておくべきだ。

・労働条件を書面で示されない、あるいは通知書の記載があいまいな時は、雇い主と話して、具体的な内容を盛り込んだ文書を発行してもらえるよう交渉しよう。文書で残すことは、その後「シフトに入って」「入れません」というトラブルの防止にもつながる。

学生はバイトを始めてからも、夏休みの希望やテストの日程、授業の都合で勤務日の変更が必要な場合など、その都度雇い主に伝えて話し合うことが大事だ。もちろん希望を通すだけでなく、無断欠勤や遅刻をしないなどの誠実な対応も求められる。

バイト先との交渉は社会人の「予行演習」 困ったら専門家に相談を

アルバイト時代に雇い主と対話する習慣を身に付けることは、社会に出て働く時の「予行演習」にもなるという。

「新卒社員も、長時間の残業を命じられるなど、アルバイトと同じような悩みを抱えがち。学生のうちに要望を伝える訓練をしておけば、就職後も職場との交渉に生かせますし、たとえ失敗しても、バイトなら正社員の仕事を失うよりは傷が浅くてすみます」

もう一つ、学生に限らずすべての働き手にとって重要なのが「悩んだら専門家に相談する」ことだ。親や友人に相談しても、ワークルールの正確な知識を持つ人は少ない。学生にとっては敷居が高いかもしれないが、組合の相談窓口や、労働弁護団の無料電話相談を頼るのが、問題解決の近道になる。

また連合は「働くみんなにスターターBOOK」を発行し、それを動画にした「ワークルールRAP」も発信している。

「スターターBOOKは、働き手が最低限知っておくべきワークルールや相談先が盛り込まれていて、社会人になってからも役立ちます」

最後に嶋﨑氏は「大人たち」にも、こう呼びかけた。

「学生アルバイトでも、職場の悩みを相談していいのだと、もっと若者へ発信してほしい。特に労働組合は、学生をトラブルから救うことで、将来の組合参加も促せるかもしれません。若者への支援を『未来への投資』と認識し、今後さらに力を入れるべきでしょう」

(執筆:有馬知子)


[i] 従業員を採用する際、企業は従業員に対して働く条件を書面で明示しなければならないと定められています(労働基準法第15条第1項)。

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