- (1)地域包括ケアのさらなる推進に向けて、良質で切れ目のない医療提供体制を構築するため、以下の対応を行う。
①地域で医療の質を低下させることのないよう、平時から感染症の発生に備えた対策を講じるとともに、医療機関の機能分化と連携、医療と介護の連携を推進する。
②医療機関の機能分化にあたり、急性期を脱した患者への医療や、高齢者の容体急変時の医療などを担う病床を確保するとともに、在宅医療や訪問看護を拡充する。
③第8次医療計画および地域医療構想の推進においては、地域実態に即して必要な医療提供体制を確保できるよう、国は都道府県の同計画・構想の実施状況を定期的に検証し、必要な施策の見直しを行うPDCAサイクルを確立するよう徹底する。また、各医療機関の医療機能を詳細に把握できるよう、病床機能報告制度におけるレセプトデータの分析・活用を拡大する。
④都道府県は地域医療構想の実現に向けて病床転換や病床数の調整を行う場合、医療機関の設置主体にかかわらず、域内の全ての医療機関を対象に協議を行う。その際、病床の統廃合にともなう雇用問題が生じないよう対策を講じる。
⑤国は、医療提供体制に対する被保険者や住民の意見を反映させるため、都道府県における医療計画の策定や「地域医療構想調整会議」への被保険者や住民の参画を促進するよう指針などの徹底をはかる。
- (2)地域医療構想にもとづき、地域医療支援病院の設置を推進するとともに、病院については医療圏単位に教育の機能、高度先進医療を実施する機能、政策医療を担う機能、「家庭医(仮称)」などを支援する機能などを地域実態に即して確保する。また、高額医療機器の共同利用を促進する。
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(3)外来機能の明確化・連携を進めるため、以下の対策を講じる。
①「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う病院(紹介受診重点医療機関)を明確化する議論に被保険者や住民の参画を促進する。
②外来機能報告制度は、各医療機関の果たす機能が的確に報告されるよう、都道府県を支援・指導するとともに、報告内容に見合った医療の提供状況を点検する仕組みとする。
③紹介状なしで受診する場合等の定額負担については、例外的・限定的な取り扱いとしたうえで、適切な受診行動を促すため、各医療機関の機能についてわかりやすく周知するよう徹底する。また、再診の患者や生活困窮者、医療資源の少ない地域の国民などの受診機会が妨げられないよう配慮する。 - (4)在宅療養支援診療所・病院を地域における病診連携の中核的医療機関として位置づけ、病院や訪問看護ステーション、介護保険施設、居住系サービスなどとの連携により、切れ目なく安心して医療が受けられる在宅医療提供体制を構築する。
- (5)救命救急センターと他の医療機関との連携を強化し、救急医療を拡充する。救急を担う医療機関においては、救急に対応する医師や看護職、コメディカルの常時複数配置を義務づける。また、ドクターヘリ運用施設の増設など、体制を強化する。
- (6)精神科入院については、地域移行の推進による入院日数の短縮と精神病床の計画的な削減、社会的入院の解消、医療内容の改善、必要な医師・看護師の確保など、早期相談・治療・支援ができる体制を整備する。また、精神保健福祉士(PSW)の配置や専門的研修を受けた看護師が参画する精神科リエゾンチームの普及など、専門職による支援を拡充する。
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(7)リスクの高い出産や容態急変などに対応できるよう、医療機関の機能分担と連携強化、救急医療や産科・小児医療体制を確立するとともに、地域間の差、医師・看護師などの不足を解消し、良質で安全・安心の周産期医療を提供できる体制を確立する。
- (8)女性医師が妊娠・出産・子育てなどを理由に離職することなく働き続けられる職場環境づくりのため、短時間勤務の推進や復職研修の機会拡充、宿日直・時間外勤務の調整などの配慮を強化するよう、医療機関に対して指導を行う。また、院内保育の充実や復職研修中に利用可能な保育の確保など、円滑な受講を促進するための条件整備を行う。
- (9)初期医療や病診連携の調整などの役割を担う「家庭医(仮称)」の認定制度を構築し、在宅療養支援診療所に「家庭医(仮称)」の配置を義務化するなどして、外来にかかる病院・診療所の役割分担を明確化する。また、新たに開業する医師は、一定期間以上の救急医療、へき地医療での臨床経験などを開業の必須要件とする。
- (10)「家庭医(仮称)」は、24時間の緊急応需体制を複数医による連携や地域の他医療機関との連携体制を構築することで確保しており、かつ訪問診療を行う総合診療専門医であることを要件とする。総合診療専門医を積極的に養成する観点から、当該認定を受けた者が一定期間「家庭医(仮称)」として従事した場合に奨学金の返済を免除するなどの支援を講じる。
- (11)医師の質の向上をはかるため、医科系大学の「医局講座制」、教育、研究のあり方について検討を進める。また、医師国家資格は専門性や知識を保つために5年ごとの更新制とし、「更新時研修」を義務づける。更新しない場合は資格停止も含めて検討する。
- (12)専門医療の質を確保する観点から、診療所の保険医療機関の指定時における標榜科は専門医認定を受けた診療科に限る。
- (13)地域における医師の偏在を是正するため、都道府県毎に国が定めた医師数の目安を超える地域での保険医の登録を認めない。なお、病院勤務医の場合は当該制限の対象外とする。
- (14)地域における診療科の偏在を是正するため、国は各圏域の人口等を勘案しつつ都道府県毎の診療科別医師数の目安を定める。目安を超える診療科については保険医療機関の指定を行わない。なお、(12)の保険医数が目安を超えていた場合であっても、当該診療科の医師数が目安を下回っていた場合には、指定を行う。
- (15)地域における医師・診療科の偏在を是正するため、国は地域医療支援センターの機能強化や地域医療研修の拡充、医科系大学の地域枠で入学した学生が卒業後も当該地域で医療を担う仕組みの構築、地域枠の定員拡大、医師少数区域における一定期間の勤務経験を認定された医師に対する評価の拡大など必要な支援を行う。また、都道府県は、医療対策協議会と地域医療支援センターの連携による取り組みを着実に実行する。
- (16)医師臨床研修制度について、すべての臨床研修病院の研修プログラムの質を向上させるため、全国共通の評価委員会を設置する。また、2024年度からの時間外労働の上限規制の適用を踏まえ、 医療機関等による時間外労働の実態把握、36協定の適正な締結、医師労働時間短縮計画の作成・見直し、研修プログラムの改訂等の対応を支援し、研修医が研修に専念できる労働環境を確保する。
- (17)安全で質の高い看護の提供を確保するため、国および都道府県は以下の施策を講じる。
①医療の安全確保のため、連合「看護職員の夜勤・交代制勤務のガイドライン」を踏まえつつ、労働時間の改善や勤務間インターバルの確保など、医療現場で働く労働者の健康確保に対する指導・援助等を強化する。
②看護職員の離職防止に向け、医療機関における労働環境の改善やマネジメントの向上、ワーク・ライフ・バランスの確保を進めるため、連合「看護職員の夜勤・交代制勤務のガイドライン」を踏まえつつ、夜勤交代制勤務の回数制限など労働時間管理を厳格に行う体制の確保を医療機関に指導する。また、患者やその家族等からのハラスメント抑止に向けた対策を強化する。
③都道府県ナースセンターや看護師等免許保持者の届出制度の周知をはかるとともに、潜在看護師を対象とする復職研修の機会を拡充するため、研修実施医療機関を支援するとともに、院内保育の充実や復職研修中に利用可能な保育の確保など、円滑な受講を促進するための条件整備を行う。
④「医療のお仕事 Key-Net」の周知をはかるとともに、離職している医療従事者が、希望すれば本格的に復職できるよう、医療機関等による研修機会の拡充と労働環境の整備を支援する。
⑤高度急性期から慢性期まで、医療機能に応じた看護の提供と夜間の人員体制の確保を考慮した看護職員の需給計画を策定する。また、進捗状況を検証しながら看護職員の養成、定着、離職防止の取り組みを着実に実行し、適切な看護配置と看護職員の確保を着実に推進する。
⑥看護師養成課程を統合して看護制度の一本化を実現する。それに向けて、准看護師の移行教育を直ちに行い、准看護師養成制度を即時廃止する。また、効率的で受講しやすい内容や勤務時間の保障など、労働環境・条件の整備をはかる。
- (18)研修の充実をはかるなど、医療従事者が専門性を発揮して的確な医療を提供する「チーム医療」体制を確立する。
- (19)看護師の「診療の補助における特定行為」は、当該研修を受講した看護師が行うことを基本とし、受講者の同意と十分な研修時間の確保、研修中の欠員補充を前提に研修制度を実施する。また、「診療の補助における特定行為」をめぐる医療事故における責任のあり方について研究を進める。さらに、研修受講への財政支援を充実するとともに、修了した看護師の職務に相応しい賃金・労働条件の向上をはかる。
- (20)看護補助者が行う補助業務の内容と医療行為との区分けを明確にする。医療機関は、看護補助者に医療行為を行わせることのないよう、法令を順守した体制を確保するための雇用管理を徹底する。また、看護補助者に対する教育・訓練体制の確立、業務マニュアルを策定する。
- (21)地域医療介護総合確保基金は、地域医療構想の達成、医療・介護の連携推進、研修中の欠員補充を含む人材確保の事業に優先活用されるよう促すとともに、基金事業の進捗を検証し、PDCAサイクルによる効果的な活用を徹底する。
- (22)都道府県は医療勤務環境改善支援センターを通じて、医師労働時間短縮計画の策定・見直しを支援するとともに、医療機関で働くすべての医療従事者の勤務環境改善のための支援に主体的に取り組む。また、同センターの運営において、労働組合の参画を推進する。また国は、同センターによる人材確保、離職防止、復職支援の取り組み成果を検証し、医療機関の勤務環境と雇用管理の改善に向けて、PDCAサイクルによる取り組みを徹底する。
- (23)オンライン医療(診断等)の実施状況を検証したうえで、医療安全の確保を前提とするオンライン医療(診断等)など、医療分野におけるICTの活用を推進するための法令等を整備するとともに、医療機関による設備導入を支援する。
- (24)災害があっても医療機関あるいは在宅で安心して医療を受けられる体制を整えるため、以下の施策を講じる。
①DMAT(災害派遣医療チーム)による救命・急性期医療の対応や、DPAT(災害派遣精神医療チーム)および「心のケアチーム」によるメンタルケアに加え、感染症、慢性疾患、精神疾患など慢性期医療にも対応できる医療チーム体制を平時から整備する。
②災害時でも地域住民に対する医療・介護サービスを提供できるよう、広域的な医療と介護の連携体制を確保する。
③災害時の医薬品・医療機器・医療材料の安定供給と流通体制の確保に向けて、国、都道府県、市町村、企業、卸業者の連携を平時から強化する。
④都道府県は、関係団体と連携し、「災害医療コーディネーター」および「地域災害医療コーディネーター」の設置を推進し、国はこれを支援する。
⑤国は、すべての医療機関に非常用電源装置の設置を義務付けるなど、停電対策の推進とそのための財政支援を行う。また、大規模災害発生時における医療機関への優先的な燃料供給体制を構築するとともに医療機関における事業継続計画(BCP)の策定を進める。
⑥災害により機能停止した医療機関に受診していた患者が、他の医療機関で速やかに診療や処方箋の交付を受けられるよう、個人情報保護とデータのバックアップ体制を確保しつつ、都道府県をまたいだ電子カルテの共有化を進める。
⑦在宅でも安心して医療機器を使用できるよう、たん吸引機、人工呼吸器、酸素発生器、腹膜透析機器、輸液、中心静脈栄養および経管栄養のポンプなど在宅用医療機器のバックアップ電源の普及を進めるとともに、レンタル機器の確保と提供体制、患者への情報提供体制の確保を進める。
⑧大災害や停電下での地域における人工透析の提供体制を確保するため、水および透析液を備蓄した透析医療機関の計画的な整備や自家発電装置の長時間化、発電車や小型発電機の貸出体制への支援、電力供給の優先要請を行い、患者への情報提供を確実に行う。
⑨原子力発電所、核関連施設における事故に対応し、ヨウ素剤、放射性セシウム体内除去剤を備蓄し、確実に提供される体制を構築する。
3.安心できる社会保障制度の確立|医療政策