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- (1)2020年12月に施行された改正交通政策基本法では、法の目的として「交通が地域社会の維持・発展へ寄与するよう行わなければならないこと」、「国土強靭化の観点を踏まえた我が国の社会経済活動の持続可能性の確保」「人材の確保(これに必要な労働条件の改善を含む。)の支援」が盛り込まれた。また、2021年5月に閣議決定された「第2次交通政策基本計画」では、「誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保」「我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化」「災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現」の3つを柱に、持続可能で強靱、高度なサービスを提供する「次世代型の交通システム」へ転換するとしている。
- (2)第2次交通政策基本計画にもとづき、地方自治体、交通事業者をはじめ、多様な主体が連携・協働して交通の維持・強化や自然災害・老朽化・重大事故対策を講ずる必要がある。とりわけ、人口減少・少子高齢化が進む地域における公共交通について、地域のあらゆる関係者が緊密に連携して、真に必要とされる輸送サービスのあり方を議論し、その維持・確保をはかることが求められる。
- (3)訪日外国人旅行客は、コロナ禍における水際対策の徹底により2019年の年間3,188万2千人から、2021年には年間24万6千人に激減した。一方で、政府は2022年6月から外国人観光客受け入れを再開し、同年10月には検疫措置の見直しとともに入国者数の上限の撤廃や個人旅行の解禁など、入国制限を大幅に緩和した。また、海外からの旅行者も含めた移動手段の最適化へ向けた「MaaS(マース)」(注1)の構築、人口減少・少子高齢化や訪日外国人旅行客に適応した地域公共交通網の形成・再構築も進められている。
- (4)官民ITS構想・ロードマップを踏まえた、次世代ITS(注2)による交通渋滞対策・交通事故ゼロ、環境負荷を低減した自動車(二輪車等を含む)の開発・普及、モーダルシフトによる輸送の効率化などにより、環境への負荷が小さい交通・運輸体系をさらに発展させていく必要がある。
- (5)自動運転化技術については、2022年4月に成立した改正道路交通法により、限定地域でレベル4(注3)の車両を利用した公道上での移動サービス(特定自動運行)が可能となる。また、鉄道車両においても自動運転の実現に向け、一部の路線で運転士以外の係員が乗務するGoA2.5(注4)の実証運転が行われている。実用化に向けて開発が急速に進む中、引き続き、事故発生時の責任の所在を含めた法整備や社会ルールの構築、およびその周知を早急に進める必要がある。
- (6)2020年に成立・施行された改正道路法では、国による地方管理道路の災害復旧等を代行できる制度の拡充、バス・タクシー・トラック等の事業者専用の停留施設(特定車両停留施設)、および磁気マーカ等(自動運行補助施設)の道路附属物としての法定化、歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度、および特殊車両の新たな通行制度の創設がはかられた。これらの各制度の利活用促進に向けた支援や環境整備など施策の推進が求められる。
- (7)2016年の軽井沢スキーバス事故を踏まえて2017年4月に導入された貸切バスの事業許可更新制により、期限(原則5年)を迎える事業者のうち1割以上が退出しており、不適格事業者退出の仕組みが一定の効果を上げている。しかし、今なお無理な運行指示などを背景とした悲惨な事故が発生している。輸送の安全確保は各交通モード共通の課題であり、参入段階でのチェック体制のさらなる強化や監査の徹底、更新制度の厳格な運用が重要である。また、契約上認められる運賃の範囲は、旅行会社と交わす「運送引受書」に記載が義務づけられたが、運賃を抑えたい旅行会社と安くても定期的に仕事が欲しいバス会社の関係から安値競争は続いている。安全をきちんと担保できる適正な運賃を収受するとともに、安全対策を含めた品質の底上げに向け、貸切バス事業者安全性評価認定制度(セーフティバス)を取得したバス事業者が選ばれるよう市場環境の整備が必要である。
- (8)自動車運送事業における運転者不足が深刻となっている。国土交通省が創設した「働きやすい職場認証制度」は、職場環境改善に向けた各事業者の取り組みを「見える化」することで優良事業者の運転者不足解消をめざす取り組みであり、その周知と申請・認証事業者の拡大が急務である。また、高卒新規就職者のトラック乗務のため2017年に新設された準中型免許に続いて、2022年5月から「受験資格特例教習」の修了を要件に中型以上の第一種、および第二種免許取得の年齢要件を19歳(普通免許保有1年以上)に引き下げる特例が創設された。職業ドライバーが安全運行を続けながら長期に働くためにも、新免許制度の導入の前提である、運転者、とりわけ若年運転者に対する各モードの事業法の体系の中での教育訓練や、定期的な適性診断など、行政と業界の連携による総合安全対策の着実な実施が求められる。さらには、改正貨物自動車運送事業法にもとづく標準運賃の徹底やその恒久化、そして安全を維持するための費用の確保にむけた適正運賃・料金の収受により、早期に運転者の賃金・労働条件改善を進めなければならない。
- (9)改正タクシー特別措置法にもとづく供給削減措置が十分に機能せず、運転者不足により稼働しない遊休車両を保有し続けている状況にあるため、同法の実効性ある運用が求められる。国土交通省は課題や利用者ニーズの多様化に的確に対応するため、タクシー革新プラン2016にもとづく「事前確定運賃」「相乗りタクシー」「変動迎車料金」「定額タクシー運賃」など需要喚起と運行効率化による事業者の生産性向上の検証を行ってきた。引き続き、利用者のニーズに応えられるタクシーサービスを進化させていくことが求められる。他方で「ライドシェア」は、運行管理や車両整備等についての責任主体、安心・安全といった利用者保護やドライバーの労働者保護等の観点で、厳格に対応していく必要がある。また、外国人観光客受け入れの再開にともなう訪日旅行客によるレンタカー利用と事故や、白タクの利用について、交通法規や通行規制等の遵守、および違反した場合の罰則について外国人利用者に対する説明や環境整備が必要である。
- (注1)MaaS ~「Mobility as a Service」の略。自動車や自転車、バス、電車など、多様な交通モードを1つのサービスとしてとらえ、出発地から目的地までの移動にかかわる検索・予約・決済などをオンライン上で一括して提供する次世代モビリティ。小売・宿泊・観光・病院など多様なサービスやMaaS相互間の連携による移動の高価値化も含む。
- (注2)次世代ITS ~自動走行システムの高度な安全性を確保するため、近接する車両や歩行者等の間で互いに位置・速度情報等をやり取りする高度運転支援システム。
- (注3)レベル4自動運転~自動運転のレベル区分の段階で、レベル3までは運転または監視のためドライバーを必要とするが、レベル4からはシステムによる運転(今次改正法による自動運転で必要とするのは遠隔監視者のみ)となる。
- (注4)GoA(Grades of Automation)~鉄道の自動運転技術における自動化レベル。GoA2.5は、緊急停止操作、避難誘導等を行う運転免許を有しない係員が列車の前頭に乗務する形態の自動運転。