近年、物価高や人手不足等による倒産が相次ぐほか、グローバル化や技術革新の進展などによる企業組織の再編が活発化している。そうした中で、政府は企業の資金調達の円滑化などを目的として、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」等(2025年3月7日閣議決定)を国会に提出した。この法案は、動産や債権を担保にとる譲渡担保のルールを整備するものである。なかでも、在庫商品などの財産をまとめて担保にとる集合財産譲渡担保権(図1)では、借り手企業が倒産に至った場合に担保権者が先にすべて回収してしまうと、賃金等の労働債権の原資がなくなる懸念がある。そのため、労働債権などを保護するための新たな仕組みが法案に盛り込まれた(図2)。この仕組みは、倒産時などにおいて、これまで金融機関などの担保権者の取り分であった金銭の一部を、未払賃金などの原資として破産財団(※)に加えることを義務化して労働者保護につなげるものである。
しかし、いまだ倒産時の労働債権の優先順位が低いという課題は残っており(図3)、抵当権や担保権に労働債権を優先させる制度を早期に整備すべきである。
また、組織再編時の労働者保護に関しては、企業価値担保権の創設を踏まえて厚生労働省での検討が開始された。会社分割では「雇用の引き継ぎ」「労働者への通知」「労働者・労働組合等との協議」などのルールが法律で定められている一方で、事業譲渡では、雇用や労働条件に大きな影響が及ぶ懸念があるにもかかわらず、こうした法的なルールが整備されていない。組織再編全般を対象に、労働組合等への事前の情報提供や協議の義務づけ、労働契約の承継など労働者保護ルールの法制化を早急に行うべきである。
※破産財団:破産手続を進める弁護士等が管理・処分できる財産(=破産企業に残された財産)