2024年4月から全業種で時間外労働の上限規制の適用が開始された。しかし、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業では年間総実労働時間が2,000時間超であるほか、様々な業種で長時間労働者が一定の割合を占めているのが実態であり、長時間労働の是正は未だ道半ばである(図1)。また、過労死・過労自死事案も発生しており、労災請求件数でみると、脳・心臓疾患は横ばい、精神障害では上昇傾向が続いている(図2)。加えて、36協定には、時間外・休日労働に歯止めをかける役割を果たすことが求められるが、その締結当事者である過半数代表者は会社からの指名などの不適切な方法による選出がいまだに多い(図3)。
そうした中、厚生労働省は、働き方改革関連法の5年後見直しの議論を開始した。労使自治の尊重の名の下にデロゲーションの拡大を求める向きも一部でみられるが、労働者の命と健康を守る強行法規としての労働基準法の役割を堅持することが重要であり、働き方の多様化を理由として規制緩和につなげるべきではない。なお、解雇の金銭解決制度は、不当な解雇を拡大しかねないことから断じて導入すべきではない。
企業規模や業種にかかわらず、過労死等をなくし、誰もが安心して働き続けられる社会の実現に向け、集団的労使関係の強化と長時間労働の是正に向けた法制度の実効性確保の取り組みを両輪として進める必要がある。そのためには、時間外労働の上限規制をはじめとする労働時間規制や、勤務間インターバル制度などの労働からの解放規制の強化、労働組合の活性化と過半数代表者の選出の厳格化・適正化などを進めていくべきである。加えて、労働者概念の見直しと拡充をはかり、より多くの働く者が法の保護を受けることができるようにすることが必要である。
4 雇用の安定と公正労働条件の確保
