「仕事の世界」で守られるべき最低限の基準が国際労働機関（ＩＬＯ）の10の中核的労働基準（中核条約）である。しかしながら、日本は10条約のうち、第111号条約（差別待遇（雇用・職業））および第155号条約（職業上の安全及び健康）を批准していない。
この間、「ＩＬＯ創設100周年決議」（2019年6月、衆参両院にて全会一致で採択）のほか、日・ＥＵ経済連携協定第16章「貿易及び持続可能な開発」や「ビジネスと人権」に関する行動計画（2020年10月）にも中核条約の批准に努力する項目・文言が盛り込まれている。
昨今、各国で中核条約に違反する国や企業の行動に厳しい視線が注がれ、生産過程で人権侵害を助長する原材料・産品の調達・貿易を規制する動きが広がっている。これに伴い、世界では人権デュー・ディリジェンスの義務化・法制化に向けた動きも加速しており、米・英・仏・独・蘭・豪などが既に法制化している。日本でも、政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」（2022年9月）が策定・公表され、尊重すべき人権の範囲に中核条約が含まれた。
とりわけ、第111号条約については、ＩＬＯ加盟国のほとんどが条約を批准しているにもかかわらず、日本では性にもとづく区別を設ける規定や公員の政治的行為を一律的に制限する規定などが批准の課題となり、未だに批准に至っていない。ＩＬＯの主要加盟国でありながら、中核条約の未批准がある状態では、日本は「人権尊重などに後ろ向き」との評価を世界から受けかねない。
政府は、日本が差別や人権の軽視を許さない国であることを国内外に示す意味でも、第111号条約の早期批准に向け、課題となっている法令の改正に着手するなど、具体的かつ実効性のある取り組みを行うべきである。
