地域別最低賃金は2023年度に全国平均で41円引き上げられ、全国加重平均は1,004円に達した。しかし、この水準では年間2,000時間働いても、いわゆるワーキング・プアと呼ばれる年収200万円程度に過ぎない。これは国際的に見ても低位にとどまる(図1)うえ、地域間の額差も大きく広がっている(図2)。
春季生活闘争で大幅な賃上げが実現している中、これを社会全体へ浸透させ日本経済のステージ転換をはかるには、継続的な賃上げに加え、非正規雇用や有期・契約等で働く人のセーフティネットとしての機能を果たすためにも最低賃金を確実に引き上げることが必要である。
こうした情勢を踏まえ、連合は「一般労働者の賃金の中央値の6割水準をめざす」とする新たな中期目標を確認した¹。この水準は、いわゆる相対的貧困ラインを念頭に、EU指令等で採用されている基準を意識したものである。2023年度改定後の日本の同比率は47.8%²程度だが、新たな中期目標を2035年までに達成するためには、毎年1%ポイントを目途に改善する必要がある。公労使、ひいては社会的な合意形成に向けた真摯な議論を積み重ねる必要がある。
最低賃金の水準を継続的に改善するには、政策面での後押しも欠かせない。特に中小・零細企業における支払い能力を向上させる各種施策の拡充と十分な予算確保が必要である。
そのうえで、最低賃金引き上げの効果を確実に波及させるには、最低賃金の制度趣旨や改定額の周知の徹底、実効性の確保が重要である。最低賃金の履行確保のための要員増強をはじめとする監督体制の抜本的強化とともに、違反事業所の積極的な摘発や罰則の適用強化などが必要である。また、法定最低賃金の改定額を踏まえ、発注済の公契約の金額を見直すなど、官民一体の取り組みも重要である。
1 EUが2022年に発令した最低賃金に関する指令では、一般労働者の「中央値の60%」と「平均値の50%」を国際的に共通して用いられる指標となる基準値とし、最低賃金を定めている各国の適正水準への引き上げを促している。
2 2022年度賃金構造基本統計調査と2023年度改定後の地域別最低賃金の全国加重平均額を用いた連合試算。なお、一時金相当分は便宜的に同調査における「年間賞与その他特別給与額」の平均値を算入した。