現状に対する基本認識、政策・制度要求の7つの柱

1.現状に対する基本認識

(1)日本の経済社会の現状と課題

 日本経済は、景気の回復局面が続いており、2019年1月には戦後最長の景気拡大期間を更新したとされている。また、2017年度の企業収益は過去最高となり、有効求人倍率や完全失業率といった雇用指標も良好な水準で推移している。それにもかかわらず、働く者の多くは景気の回復を実感できていない。
 連合も2014春季生活闘争から毎年賃上げを実現し、雇用者報酬総額は増えているものの、実質賃金の伸び悩みが続いている。税や社会保険料の負担の増加などもあり、勤労者世帯の実質可処分所得は景気回復前とほぼ変わらない水準で推移している。また、非正規雇用で働く労働者数の増加をはじめ、雇用の流動化と不安定化、中間所得層の地盤沈下、貧困の固定化といった格差が深刻化し、男女間格差の改善も遅れている。
 加えて、少子化を伴いながら急速に高齢化と人口減少が進み、とりわけ全人口に占める生産年齢人口の割合が大きく減少しているため、労働力不足がすでに不可避かつ継続的になっており、人手不足感が年々高まりを見せている。また、地域社会や家族の支え合い機能の弱まりと相まって、社会保障が担う機能の重要性は増しているが、国と地方の厳しい財政状況は地域における生活の維持・向上と社会保障の持続可能性に暗い影を落としている。
 さらに、第4次産業革命をはじめとする技術革新の加速化は、多大な経済効果と生活者の利便性向上といった期待も大きい反面、従来型職種における雇用の大幅減少や個別化による格差拡大の可能性が危惧されている。また、温暖化をはじめとする気候変動や災害の激甚化、グローバル経済下における諸課題とあわせて、多くの国民が将来に対する大きな不安を抱えている。
 これらの様々な課題に対し、経済社会がどのような影響を受け、今後どのような対策が必要なのか、持続可能性と包摂性を考慮した中長期的な観点からの政策とその実現が求められる。

(2)健全な議会制民主主義と二大政党的体制の実現に向けて

 2012年12月に発足した第2次安倍政権は、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」のいわゆる三本の矢からなる経済政策方針を掲げ、その後、「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」の新三本の矢、一億総活躍社会の実現、働き方改革など、これまでの政策運営の総括もせずに新たな政策を打ち出したが、実体経済の改善には総じて結びついておらず、地方経済にも波及していない。
 また、現政権においては、官邸に過度に権力が集中し三権分立のバランスが崩れた結果、民主主義のプロセスが蔑ろにされる場面が散見されている。加えて、公文書の改ざん・隠蔽や裁量労働制のデータ問題、毎月勤労統計調査の不正問題などに象徴されるように、国会の行政監視機能も著しく低下している。こうした行政府や立法府の状況は、有権者のさらなる政治離れを招きかねず、そのためにも、行政の信頼性・透明性の確保や政治改革の断行は急務である。
 今後、社会の不確実性が増す中で、数々の課題に対処していくためには、多様な国民の声を代表する国会が熟議を尽くし、社会的合意形成をはかるプロセスが求められる。そのためにも、与野党が党派を超えて行政監視機能も含めた国会の役割を正常化させ、健全な議会制民主主義を取り戻すとともに、野党においては働く者・生活者の視点から将来の社会像を見据えた政策を国民に示し、政策で切磋琢磨する緊張感ある二大政党的体制の構築をめざす必要がある。一方、国民一人ひとりが主権者たる意識をもち、民主主義のさらなる成熟をめざさなければならない。

(3)「働くことを軸とする安心社会 -まもる・つなぐ・創り出す-」へ向けて

 連合は、「働くことを軸とする安心社会」-働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件の下、多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型社会-をめざしている。加えて、持続可能性と包摂性を基底に置き、年齢や性別、障がいの有無、国籍などにかかわらず多様性を受け入れ、互いに認め支え合い、誰一人取り残されることのない社会、すなわち「つづく社会・つづけたい社会」の実現をめざしている。
 アベノミクスの、強者をより強くし、自然とその富が全体に浸透するというトリクルダウン型の政策理念のもとでは、この目標達成は困難であり、すべての働く者のくらしの底上げ・底支え、格差是正、貧困の撲滅を着実に前進させるボトムアップ型の政策こそが求められている。
 また、人口減少・超少子高齢化や第4次産業革命をはじめとする変革の波に対応するべく、人的投資の促進やワークルールの改善、セーフティネットの充実、多様な働き方を幅広く選択できる雇用システムの確立などを通して、ディーセント・ワークの実現と同時に、多様な「人財」の活躍とそれを互いに許容する包摂的な社会の構築に資する政策を推し進めていく必要がある。

2.2020~21 年度の2年間に取り組むべき課題

(1)誰もが働くことの安心感を抱くことができるためのワークルールとディーセント・ワークの確立

 公正かつ良好な労働条件のもとで安心して働き続けられることは、すべての国民に保障されている当然の権利である。多様な価値観を持つ労働者の活躍を促進するために「多様で柔軟な働き方」が進められているが、そこで生み出された富の人材への分配の不均衡を放置したままに、不十分なワークルールの下での労働や、やむをえず兼業・副業をせざるをえない低所得・長時間労働の拡大などを招くことは許されない。雇用形態にかかわらず、均等待遇の実現や、労働時間規制や解雇ルールなどの働く者の健康・安全や雇用を守るためのワークルールを維持・強化させる必要がある。
 こうしたワークルールが徹底され、すべての働く者に保障された上で、子育て・介護と仕事の両立や、ライフスタイルに合わせた多様な働き方が可能となるよう、ディーセント・ワークの確立をめざす必要がある。
 さらに、若者や女性、障がいを持つ人々などに対する就労支援、職業能力開発支援などを通じて、すべての人々の社会参画を促し、意欲と能力を引き出すことができる環境整備が必要である。また、性別や雇用形態、家計経済状況などによる所得や就業機会、教育機会などの格差の是正に向けて、参加保障と重層的かつトランポリン型のセーフティネットの一層の強化が求められている。

(2)分厚い中間層の復活に向けた適正な分配の実現

 日本社会を再び活力あるものにしていくためには、日本において最も重要な資源である人的資源について、その可能性を拓き、育て、自ら働いて人間らしい生活を営むことができる「中間層」として再び厚みを増し、活性化させていくことが必要である。最貧層への対策のみならず、幅広い低所得者対策を考えるべきである。
 そのためにも、質の高い雇用の創出、最低賃金も含めた労働処遇条件の向上、税による所得再分配機能の強化などを通じて、ワーキングプアなどの貧困の解消や格差是正、くらしの底上げ、底支えを確実に前進させなければならない。また、再分配においては、経済社会の支え手となる現役世代、特に低所得層において、自身のキャリア形成や子どもの教育などの人的投資を十分に行えるよう支援することを重視した取り組みが必要である。

(3)全世代支援型社会保障制度のさらなる構築に向けて

 高齢化の進展や世帯人数の減少、非正規労働に従事する人などの増加が見込まれる一方、家族や地域、職域における支え合い機能が低下する中、社会保障に対するニーズは今後これまで以上に高まる。他方、社会保障制度は少子高齢化の進行により持続可能性の確保という大きな課題に直面している。しかし、持続可能性の確保のために給付抑制と負担増を進めるだけでは、国民の将来不安はむしろ高まりかねない。
 団塊ジュニア世代や就職氷河期世代が高齢期を迎える2035年に向けて、社会保障と税の一体改革後の社会保障制度の新たなグランドデザインとその実現に向けた道筋を、労使、国民の社会対話によりつくり上げるとともに、国と地方の財政健全化に向けた抜本策を明示していくことが必要である。
 そして、真の「皆保険・皆年金」を確立することによりすべての人に医療・介護・年金が保障され、さまざまな生きづらさを抱える人に必要な支援が提供されるよう、「全世代支援型」社会保障制度の再構築をさらに推し進め、持続可能な共生社会の実現をめざすことが必要である。

(4)持続可能で包摂的な社会の実現に向けて

 地球規模の課題である温暖化をはじめとする気候変動、大気汚染などの自然環境破壊や資源不足は、人類の生存可能性と社会の持続可能性にとって喫緊の課題であり、近年の自然災害の大規模化、激甚化への影響も指摘されている。
 グローバル経済下での課題である、貧困・格差、分断社会などの課題への対応も含めて、SDGsの目標達成は重要であり、これまで以上に幅広く様々な主体と積極的に連携し、持続可能で包摂的な社会の実現に向けて取り組む必要がある。

3.政策・制度要求の7つの柱

 勤労者が安心、安全を実感し、安定したくらしを営むためには、連合がめざす「つづく社会・つづけたい社会」を実現することが不可欠である。そのためには、上記のような雇用と生活の諸課題の一つ一つを解決していかなければならない。2020~21年度の2年間は、「つづく社会・つづけたい社会」の実現目標とした2035年を見据えながら、足もとの社会・経済情勢や現状の問題点を踏まえて、横断的な項目(男女平等政策、中小企業政策、非正規雇用に関わる政策)を含む29分野の取り組み課題について、以下の7つの項目を柱とした政策の実現・前進をめざす。

(1) 持続可能で健全な経済の発展

 持続可能で健全な経済の発展のためには、包摂的な社会の構築を進め、社会を支える分厚い中間層の復活と経済社会の自律的成長を取り戻すことが不可欠である。そのために、経済政策では、経済成長や雇用の創出・安定化、生活・将来不安の解消に資する施策への優先的・重点的予算配分、為替レートの適正化・安定化や持続的な成長軌道への復帰につながる適切な経済財政・金融政策、財政健全化に向けた財政構造の抜本改革を実施する。また、税制では、所得再分配機能の強化や消費税率引き上げの着実な実施等により、「公平・連帯・納得」の税制改革を実現し、くらしの底上げ・底支え、格差是正をはかる。産業政策では、新たな内需型産業の拡大・創出、外需の取り込み、中小企業支援を進めるとともに、イノベーションによる新たな価値の創出に向けた研究開発、設備投資、人材育成への支援などを通じて、持続的な産業の発展、安定的な雇用の確保につなげていく。地域活性化政策では、地域産業の振興と安定的な雇用創出のため、事業活動を一体的に支援する環境の整備が求められる。そのために産官学金労言のネットワーク構築と、それらを活用した地域の自主性・主体性が発揮されるまちづくりを進める。産業やくらしに密接に関連する資源・エネルギー政策については「連合の新たなエネルギー政策について」(2012年9月中執確認)を踏まえて対応する。

(2) 雇用の安定と公正労働条件の確保

 雇用の質の劣化や労働条件の低下などにより格差が広がり、労働者の二極化が進む今日、労働者保護ルールの維持・強化はより重要性を増している。すべての働く者の労働時間を把握したうえで長時間労働を是正するとともに、あらゆるハラスメントの根絶に向けて、ハラスメントの禁止規定を含めた実効性ある対策を講じる。また、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保するとともに、高齢者や障がい者にも配慮した職場環境の実現に向けた取り組みを推進する。加えて、請負など雇用関係に依らない働き方の拡大に対して、労働者保護のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまう就業者に対する適切な保護が必要である。社会の変化や流れを的確にとらえつつ、すべての労働者のディーセントワーク実現の観点から公正な労働条件を担保すべく法の整備と遵守に取り組んでいく。

(3)安心できる社会保障制度の確立

 急速な高齢化と少子化、人口減少、地域の過疎化、地域や家族、職域による支え合い機能の低下、生活と仕事の両立の社会的要請の高まりなどにより、社会保障に対する需要はこれまで以上に高まっており、また、今後さらに高まることが見込まれる。社会保障制度が将来にわたってくらしの安心の基盤としての機能を発揮するためには、社会保障制度の機能強化が必要である。また、医療・介護・福祉等のサービスが確実に利用できるためには人材確保が極めて重要である。一方で、持続可能性の確保の課題も直視しなければならない。そのため、医療・介護・保育等を必要とするすべての人が負担可能な費用負担により確実に利用できるよう、人材など提供体制の確保と、財政基盤の強化をはかる。また、だれもが高齢・障がい等のリスクに対応した所得確保が保障されるよう、基礎年金の生活保障機能の強化とあわせ、すべての雇用労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金)適用の徹底、企業年金の普及を進める。

(4)社会インフラの整備・促進

 社会インフラについては、人口減少・超少子高齢社会を迎える中、社会構造の変化に対応しつつ、環境負荷低減への対応や激甚化している災害への備えを強化するなど持続可能な社会基盤を構築していくことが重要である。そこで、国土・住宅政策では、地域の特性や住民生活に配慮するとともに、既存社会資本の長寿命化・老朽化対策に重点をおいた社会資本整備をすすめる。また、交通・運輸政策では、最新技術の活用等により一層の安心・安全を確保するとともに、環境負荷低減への対応、生活基盤としての地域公共交通の維持・再整備を行っていく。ICT政策では、災害時に強く、生活の質の向上に資するICT技術の利活用を推進するとともに、近年重要性が高まっているサイバーセキュリティ対策を強化する。

(5)くらしの安心・安全の構築

 行き過ぎた経済合理性の追求がくらしの安心・安全にさまざまな歪みをもたらした反省や、グローバル化の一層の進展を受けて、SDGsがめざす「環境と社会・経済の統合的向上による持続可能な社会の実現」に向けた取り組みを進めていく。環境政策では、気候変動への対応として、各種温室効果ガスの削減と温暖化への適応、さらに、それら温暖化対策による雇用など地域社会・経済への負の影響を最小化するための「公正な移行」の具現化に取り組む。食料・農林水産政策では、食料自給力の向上による食の安全保障を強化する。加えて、供給者の担い手の確保とともに、6次産業化の推進によって、農林漁業の経営基盤の再生と新たな雇用創出をめざす。消費者政策では、消費者の安心・安全の確保ならびに倫理的な諸費者行動の促進の観点から、悪質商法被害の防止・救済、消費者教育等を推進するとともに、食の安全について科学的根拠にもとづいた対応をすすめる。防災・減災政策では、これまでの甚大な自然災害の教訓を活かし、ソフト・ハード両面からの体制整備を強化していく。

(6)民主主義の基盤強化と国民の権利保障

 民主主義の基盤を強化し、国民一人ひとりの権利を保障していくことは、経済社会の中長期的な安定のためには欠かせない課題である。その解決のために、政治改革では、国民の立場に立った選挙制度、政治不信を払拭するための実効性ある政治資金規制、多様な意見の反映と充実した審議が行われる国会・地方議会へと改革する。行政・司法制度改革と地方分権改革では、国と地方の役割や権限の見直し、財源保障の充実を通じ、地域の自主性を尊重した公共サービスの提供体制を拡充するとともに、その前提となる公務員の自律的労使関係を確立し、民主的で透明・公正な公務員制度改革を実現する。また、手続きの透明性や国民への説明責任が担保された国民にわかりやすい司法制度をめざす。人権・平等政策では、人権侵害からの救済と差別の撤廃、性の商品化やDV、児童虐待などのあらゆる暴力からの人権保護を強化する。教育政策では、すべての子どもの教育機会を保障するため、社会全体で子どもたちの学びを支え、将来を担う人材を育成するための政策を強化する。

(7)公正なグローバル化を通じた持続可能な社会の実現

 平和で安定した国際社会は、世界の労働者が安心・安全な生活を維持するための前提条件である。また、平和、人権、自由、民主主義、独立を基盤とし、社会対話を通じて世界中のすべての労働者がディーセント・ワークを確保できる公正な社会の実現が求められている。そのため、軍縮、核兵器廃絶など国連の取り組みの強化、多国籍企業における中核的な労働基準の遵守、未批准のILO中核条約の早期批准、SDGs達成に向けた取り組みの強化を通じて、すべての労働者にディーセント・ワークの機会が提供され、さらに持続可能で包摂的な国際社会の構築をめざす。

以上

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