近年、グローバル化や技術革新の進展などによって、企業組織の再編を行う動きが活発化するとともに、倒産や事業所の縮小・閉鎖なども数多く生じている。
特に倒産時は労働者にも大きな影響が及ぶが、加えて事業譲渡でも一部の事業を譲渡する場合には、契約次第で雇用や労働条件に変動が生じるおそれが大きい(図1)。その際の労働者保護ルールは法的拘束力のない「事業譲渡等指針」にとどまるなど、労働者保護に関する法整備は2000年以降停滞したままである。
一方で、政府は、企業の資金調達の円滑化などを目的として、動産・債権を担保とする譲渡担保ルールの明確化に関する検討を継続するほか、「事業性融資の推進等に関する法律案」(2024年3月15日閣議決定)を国会に提出した。この法案では、企業の総財産(労働契約を含む)を担保とする「企業価値担保権」を創設するとしている(図2)。企業にとって資金調達手段が増加する一方、広範な担保権を背景とした担保権者等(金融機関等)による経営関与や、企業が返済不能に陥り総財産を売却する場合の事業譲渡によって、労働者の雇用や労働条件に悪影響が及びかねない。
労働者保護の強化に向け、労働者の雇用等を維持した一体的な事業譲渡が原則であることの明確化や、担保権者等による経営関与の防止、労働組合等との協議の義務づけ等が必要である。
あわせて事業再編全般を対象とする労働者保護ルールの法制化に向けた検討を早急に行うべきである。また、倒産時についても、労働債権の優先順位は高くなく(図3)、その回収に充てる財産がほとんど残らない実態があるため、労働債権を抵当権や担保権より優先させる制度を早期に整備するべきである。
4 雇用の安定と公正労働条件の確保
