新シリーズ 「職場から始めよう運動」取り組み事例ファイル
[File.4]連合長野[信州大学「労働法務実習」]労働法を学ぶ学生が労働組合結成・団体交渉を模擬体験!

シリーズ第4回は、連合長野が信州大学経法学部で行っている「労働法務実習」(担当教員:成田史子経法学部総合法律学科教授)を密着取材。今年度、学生が模擬体験するのは、県内の中小企業の社員として、連合長野への相談をきっかけに労働組合を結成し、会社に要求書を提出して団体交渉に臨むというストーリー。

労働組合として、労働法を学ぶ学生たちに伝えたいことは何か。実習に参加した学生たちは、それをどう受け止めたのか。白熱した「労使」のやりとりを含め、密度の濃い実習の様子をお伝えする。

連合長野

1990年結成。約11万人の組合員が加盟する長野県内最大の労働団体。県内10カ所に地域協議会を開設し、地域に根ざした顔の見える活動を実践。また、行政、経営者団体、NPO団体、教育機関、メディアなど、地域の様々な関係先とのつながりを大切にしながら、災害支援(「長野県災害時支援ネットワーク」)や就業支援、フードバンク支援など、多彩な地域貢献活動を行っている。信州大学経法学部における「労働法務実習」は2015年から継続中。

信州大学

長野県唯一の国立総合大学。医学・工学・農学・繊維・人文・経法・教育などの学部があり、地域の産業や行政を支える人材を輩出。経法学部では、経済学と法学を横断して地域や社会の課題を学ぶ教育にも力を入れている。

「労働法務実習」(連合長野編)レポート

「信大電気工業労働組合」の結成大会と団体交渉を実習(同労組と「信大電気工業株式会社」は実習用に設定した架空の労働組合と企業)

働くルールづくりに参画する

信州大学経法学部の「労働法務実習」は、総合法律学科の法務実習科目。労働法と実務のつながりを学ぶ実践型授業として、長野労働局による労働行政の実習、連合長野による集団的労使関係の実習が組み込まれている。

今回取材した実習は、民間企業で働く社員が労働組合を結成し、団体交渉を通じて労使でルールづくりや労働環境改善に取り組むという設定。まず、初回の講義(7月27日)で、設定企業の労働時間や年間休日、組織図、労働慣行、賃金表などの情報を示して課題分析を行い、要求書を作成。続く実習(8月31日)では、午前中に結成大会、組合結成通知・団体交渉申し入れ、暫定労働協約に関する模擬団体交渉を行い、午後は、「要求書」を基に労使双方の立場で模擬団体交渉のロールプレイング。

実習を担当する連合長野のメンバーは、根橋美津人会長、竹村進事務局長、戸井田学久副事務局長、五味哲哉組織アドバイザー、徳武秀明組織アドバイザー、町田康子部長、新井将史職員の総勢7名。学生は、担当教員である成田史子教授のゼミ生を中心に12名(学部3年生)が参加した。

開講の挨拶で根橋会長は「働くことには、生活の糧を得るためや自己実現のためだけではない、社会的な意義がある。人は、働くことを通して社会とつながり、社会を支えている。そのことを実感できるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現していくために必要なのがワークルールであり、その形成において最も重要なのは、働く当事者が参画すること。実習では経営者の論理でルールが決められている会社において、働く者がルールづくりに参画する手法として労働組合を結成し団体交渉を行う。その実務を学んでほしい」と投げかけた。

演習1-労働組合結成大会 
それは現実に職場で起きている問題

演習1は、信大電気工業労働組合結成大会。舞台となる信大電気工業株式会社とは、どんな会社なのか、主な概要を見ておこう。

▶従業員約20名。同族経営で株式は社長が100 %所有。社長は「リーダーシップがある」と自認し、座右の銘は「社員は家族」。労働組合なし。親睦団体「友の会」(社長・専務・常務を除く全社員・パート社員が加入)があり、「友の会代表者」は都度常務が任命。主な活動は「飲み会」だが、労使協定の締結、就業規則の作成・変更時の意見聴取などは「友の会代表者」が対応。
就業時間は8:00〜17:00、年間休日125日、定年65歳。賃金は年功型、昇給は基準が不明確。成果主義賃金への見直しが検討されているとの噂あり。賞与は社長が決定。製造部では、毎朝7 時30 分よりクリーン活動(屋内外清掃)を実施しているが、自主出勤扱い。時間外労働は自己申告制。営業職にはみなし残業代として営業手当3万円を支給しているが、出張や外回り時の労働時間の取り決めが不明確。製造部では、有給休暇取得にあたって代わりの作業者を探すことが求められ、事実上取得困難。一方で、閑散・繁忙に応じて会社が指定する計画年休が年間5日ある。同じ部署で社内結婚したら女性が異動する、妊娠したら配置転換になるという慣行がある。秋から産休を取得する社員の夏の賞与が大幅減額。セクハラや指導・教育と称した必要以上の叱責があり、心の健康に不安を持つ社員が増えている。◀

こうした職場の問題について改善したいと上司に相談しても解決に至らないことから、ある社員が連合長野の労働相談にアクセス。会社を良くするには、労働組合を結成し会社側と交渉していくことが有効だとのアドバイスを受け、職場の仲間に呼びかけ、社員全員の同意を得て結成大会を準備したという流れ。進行の戸井田副事務局長は「これは架空の設定ではなく、連合長野に寄せられる労働相談をもとに現実に職場で起きている問題をピックアップした」と解説する。

2人以上集まれば自由に結成できる

さて、演習1のポイントは「労働組合の結成は難しくない」ということ。日本では、2人以上の働く仲間が集まれば自由に労働組合を結成できる。この権利(結社の自由・団結権)は憲法でも認められていて、役所などへの届け出や会社の承認も必要ない。ただし、労働組合として活動していくには、組合規約など民主的な仕組みを整備する必要がある。

信大電気工業労働組合の模擬結成大会は、連合長野のスタッフが実演。「結成大会議案書」が配布され、議長に選出された町田執行委員が議事を進行。連合長野の根橋会長(本人)の来賓挨拶の後、五味執行委員長が経過報告。「会社は社長のワンマン経営で社員の言葉は聞き入れられない。現場には問題が多いのに、それを経営に伝える機会がない。会社に我々の気持ちを伝えるため、そしてより良い労働条件・労働環境にするために、活動を進めていきたい」と語った。

続いて、第1号議案「組合規約」を提案。名称や組合の構成、所在地を明記し、目的や活動、平等の原則、組合員の権利と義務、定期大会や臨時大会の要件、執行委員会の役割や会計等についての規定を確認。「争議および闘争体制」として「ストライキを行う時は全組合員の投票を保障できる期間を設け、直接無記名投票で組合員の過半数の賛成を得なければいけない」との項目も盛り込まれた

続いて第2号議案は、活動方針の提案。組合活動を積極的に進めるために、和をもって団結を深め、常に行動の鑑とすべき運動の基本原則(①原点を忘れない、②現実的であること、③組合民主主義を守る、④つねに進歩すること、⑤相互信頼の努力)を確認。「対立ではなく、互いに姿勢を正して信頼関係を築く」という労使関係のあり方が示された。第3号議案の予算、第4号議案の役員選出も拍手で確認され、信大電気工業労働組合が成立。補講として、組合を民主的に運営するための組合規約についてのポイント解説も行われた。

演習2-労働組合結成通知と団体交渉申し入れ
会社は団体交渉を拒否できない

演習2は、労働組合結成通知と団体交渉の申し入れ。委員長が社長に結成通知書と団体交渉申し入れ書を手渡すシーンを実演。事前に組合結成を知らされていなかった社長は「組合なんて私は許可していない」と抵抗したが、正当な理由なく会社が団体交渉を拒否することは、不当労働行為(労働組合法7条)にあたる。委員長が「組合を結成したのは、組合員の意見をまとめて会社に伝えるため。労使が協力して、職場をより良くしたいという思いから」だと説得し、社長も書面を受け取った。

演習3-暫定労働協約交渉
ユニオンショップ協定とチェックオフ

演習3は、暫定労働協約交渉。結成後初の交渉で最大のポイントになるのが、ユニオンショップ協定(組合員であることを雇用条件とする労働協約)と、それを前提とするチェックオフ制度(組合費の天引き徴収)を認めさせることができるかどうか。

日本の労働組合には、ユニオンショップ制と、オープンショップ制(自由加入)の2つの仕組みがあるが、組合側は「従業員の総意をもって会社に意見を届けたい」と前者を要求。戸井田副事務局長は「労使交渉の結果、労働条件改善が行われる時、それは組合員だけでなく未加入者にも適用される。このフリーライダー現象を避けるためにもユニオンショップが望ましい。組合にとっては交渉力・組織力の強化、財政安定化につながるし、会社にとっても交渉窓口を一元化したほうが安定した労使関係を築きやすくなる」と解説。

暫定労働協約交渉でもう1つ争点になったのは、就業時間中の組合活動だ。組合は、「社外で行われる上部団体の会議等への参加を認めてほしい」と要求したが、会社は「社内での会議は認めるが、社外での組合活動については、組合が賃金の補填を行うべき」と主張。ここは継続協議となり、午前の部が終了した。

演習4-団体交渉
要求書は『困っている』という労働者の声

午後スタートの演習4は、要求書に基づく団体交渉。参加学生は1班・2班に分かれ、設定企業の概要を読み解きながら作成した要求書を提出し、団体交渉に臨んだ。まずは、ウォーミングアップとして要求の各項目について、背景や根拠を説明。労働組合側、会社側の立場をそれぞれ体験した上で、優先項目を3つ選び、信大電気工業労働組合として、会社側(連合長野)と本格交渉へ。

1班の優先項目は、①妊娠・結婚を理由とする不利益の禁止、②労使交渉の相手は労働組合に一本化し、友の会は任意加入団体とする、③時間外労働等の客観的な管理。

会社側は「母性保護規定や母性健康管理措置で妊婦の負担軽減措置が義務づけられている。それに基づく異動だ」と弁明。組合は「業務の変更等は本人の申し出を尊重すべき。最近、秋から産休に入る予定の女性社員から夏の賞与を大幅減額されたと聞いたが、これも妊娠を理由とする不利益な取り扱いではないか」と反論し、従業員が安心して出産・育児ができる環境を整えることは、会社にとって重要な課題だ」と訴えた。

続いて「友の会」については、民主的に選出されていない代表者が「過半数代表者」の機能を担ってきたことは法令違反の疑いも。友の会の存続にこだわる会社に対し、組合は交渉の一元化を強く要求し、「労働組合を唯一の交渉団体として認める」との回答を引き出した。時間外労働については「残業は申告制で申請しづらい雰囲気があり、未払い残業が発生している」実態を説明。会社は「残業は上司から指示があった場合のみ行うことを徹底した上で、どういう管理が適切なのか検討したい」と回答。

委員長は「今までの会社の体制や、働き方、労働環境について『困っている』という労働者の声が使用者に届いていないという思いの表れが、この要求書だ。労働組合として、組合員の切実な声を受け止め、会社に伝え、改善していく活動を続けていきたい」と決意を述べた。

学生による組合執行部が交渉(手前)
連合長野竹村事務局長(左奥)・徳武アドバイザー(中央奥)・根橋会長(右奥)が使用者を演じる

労働時間を把握できていないことは大問題

2班の優先項目は、①全部門で時間外労働手当支給、②クリーン活動や会社が参加を指示した研修会を労働時間とみなす、③結婚・妊娠を理由とする不利益取り扱いの禁止。

組合の「営業部の営業手当3万円はみなし残業代とされているが、これは何時間分の残業を想定して設定したのか」との質問に対し、会社は「営業手当はずっと3万円。不満は聞いたことがない。営業職の労働時間は裁量に任せている」と回答。組合が「会社が労働時間を把握できていないことは大問題。過労死ラインを越えていないか、確認する必要がある」と指摘すると、会社も「長時間の残業はワーク・ライフ・バランスや心身の健康確保、パフォーマンスの低下という面でも問題がある。対応策を検討したい」と態度を改めた。続いて製造部で行われている始業前のクリーン活動について、組合は「実質的には仕事。就業時間に組み入れるか、清掃業者を入れてほしい。労働基準法では作業服に着替える時間や朝礼も労働時間に含まれる」と主張。会社は「従業員が自主的に行っていると認識していたが、実態を把握し対応を検討したい」と回答した。同じ部署で結婚すると異動になる慣行」については、つねに「女性だけ」が異動になる場合は男女雇用機会均等法違反であることを確認。白熱したやりとりが続いたがタイムアウト。戸井田副事務局長が講評を行い、実習プログラムを終了した。

竹村事務局長は「今日の実習を通して、労使交渉の根拠となる労働法制の重要性を再認識し、労使交渉で大切なのは互いにWin-Winになれる着地点を見出していくことだと実感されたと思う。社会に出たら、今日の実習が役立つ場面があるかもしれない。職場で疑問に思ったり不安に思ったりすることがあれば、必ず声を上げてほしい。そして、柔軟に様々な課題に向き合い、働きやすい職場をつくっていってほしい」と締めくくった。

実習を終えて

「労働法務実習」を通じて、学生たちはどう受け止めたのか、連合長野は学生たちに何を伝えたかったのか、改めて参加学生と根橋会長にインタビュー。

【実習参加学生インタビュー】
働く人たちの本当の声を聞くことができるのは労働組合

信藤賢治さん(左)、中里優さん(中)、高橋風太さん(右)(経法学部3年)

—労働法務実習を選択された理由は?
信藤 成田教授の労働法ゼミに所属していて、労働基準監督署と連合長野による実習が受けられると聞いて履修しました。実は祖父が労働組合に関わっていて、職場の問題や生活の不安を、労使交渉を通じて改善していった経験を幼い頃から聞いていましたので、実際の団体交渉を体験してみたいという思いもありました。
中里 同じく成田教授の労働法ゼミに所属しています。1、2年生の頃は、憲法、刑法、民法などを中心に学んでいて、労働法を学ぶ機会は少なかったのですが、よく考えてみると、社会に出た時、最も身近なのは労働法ではないかと思ったんです。生活の基盤である労働に関わる労働法を知ることは、絶対に必要なことだと思い、労働法のゼミを専攻しました。そして、それが実務の場面でどう使われているのかを知りたいと今回の実習を履修しました。
高橋 私はゼミには入っていないのですが、社会人として労働法は知っておくべきだと思っています。将来は公務員をめざしていますが、その実務について学べる機会があるのなら、学んでおきたいと履修しました。

双方が納得できる着地点を模索
—今日の実習に参加されていかがでしたか? 
高橋 労働組合の立場で要求書をまとめて、会社側の連合長野のみなさんと交渉しましたが、会社はそう簡単には要求を認めてくれない。労働組合として、労働法をしっかり身につけて根拠を示していく必要があるのだと学びました。また、どこまで互いに歩み寄れるのか、その着地点をみつける作業も難しかったです。労働組合の主張を一方的に押し通すのではなく、対話を続けることこそが、労使関係をより良いものにしていく上で重要であると感じました。
中里 労働組合の結成大会から、要求書提出、団体交渉まで体験できる実習というのはなかなかないと思うのですが、実際に交渉をどう進めればいいのか、戸惑う部分も多かったです。実際の労使交渉は、法的な理論だけで決着できるものではないと思います。労働組合には職場の声を集めた切実な思いがあります。会社にも経営的な判断があります。どの要求も理論と感情が入り交じっていて、どこまで理論で通せばいいのか、感情を優先すべきところはどこか、その判断が難しかったですね。
信藤 実習を通じて、実際に法律が実務に落とし込まれていく過程を経験できました。「不当な労働条件をどのように改善すべきか」「その達成に向けて企業側にどのような戦略を持って交渉に臨むべきか」、そして「譲れない主張とトレードオフできる条件をどう設定するか」という判断が非常に難しく、現実の労使交渉の厳しさと深さを、身をもって実感しました。また、要求を実現するには、労働法の知識のみならず、経営者側の主張にも耳を傾け、その立場や事情を理解した上で妥協点を見つける交渉力が重要であり日頃から労使の信頼関係を築いておくことが大事だと思いました。貴重な機会をいただいて感謝しています。

身近で切実なハラスメント問題
—労働法制で特に関心がある分野は?
信藤 私は、高校時代から、労働法、特に外国人労働、非正規雇用労働について関心を持っています。特に技能実習生などの外国人労働者が非常に劣悪な環境で働かされているというニュースを見て、外国人も同じ人間であり、等しく人権が尊重されるべきだと強く思いました。どうすれば、その人権を守ることができるかを考えた時、日本で働くすべての人に平等に保障されているのが労働法だと思い、経法学部に進学しました。非正規雇用労働と外国人労働は重なり合う課題でもあるので、今後もその問題解決に向けて学びを深めていきたいと思っています。
中里 働く人たちにとって身近で切実なハラスメント問題です。セクハラやパワハラの問題は、中高生の頃から広く認知されるようになりましたが、大学で法律を学び始めてから労働法においても重要な分野であると知りました。職場でどんなハラスメント対策が求められているのか、考えていきたいと思います。
高橋 私もハラスメント分野です。労働法の中でも、労働時間など労働基準に関することは明確な規定があるのですが、ハラスメントなど当事者間の問題は、その事例をどう客観的に解釈するか、判断基準をどうするのか、難しい問題があると思います。ハラスメント対策を進める上でも、今日実習で学んだように、労働のルールづくりに、働く者の立場から意見が反映されるよう参画していくことが大事だと思います。

第1の役割は労働者の人権を守ること
—労働組合は必要だと思いますか?
高橋 会社に対して、一個人でモノを言うのは勇気が必要だし、一人だと無視されるかもしれない。でも、労働組合なら、みんなの意見を集めて発言できるし、会社もその要求を無視できない。会社を良くし、働きやすい職場にするために、労働組合は必要だと思います。
中里 労働組合は必要だと思います。理由は、職場の本当の声を聞くことができるのは、やはり労働組合だと思うからです。経営者が従業員に声を聞こうとしても、身構えたり、遠慮してしまうことがあると思います。でも、労働組合に対してなら、職場の問題点やおかしいと思うことを率直に伝えられる。同じ働く者の立場で、会社に対して問題を訴えてくれる労働組合があれば、働く人たちが意見を言いやすくなり、職場環境の改善につながっていくと思います。
信藤 労働組合は必要だし、もっと拡大していかなければならないと思っています。労働組合の第1の役割は労働者の人権を守ること。そして、個人では声を上げることが難しい場合であっても、労働組合を結成すれば対等に交渉できるという労使関係の仕組みは大切にしていくべきだと思います。さらに連合の政策実現の取り組みも重要だと思います。働く人や生活者の立場から、安全や平和や福祉を求めていく時、その政策をまとめる組織が必要です。連合がその旗印となり、社会における労働組合の存在感がもっと高まっていくことを願っています。

【連合長野根橋会長インタビュー】
社会とつながり、社会を支える、「働くこと」の意義を伝えたい

若者や女性に選ばれる信州地域に
—長野県内の雇用・労働をめぐる課題は?
人口減少、若者や女性の県外転出について強い危機感を持っています。⻑野県の⼈⼝は、2001年の約222万⼈をピークに減少が続き、2024年には200万⼈を切り、2050年には160万⼈以下になると推計されたことから、2024年12月に「私のアクション!未来のNAGANO創造県民会議」(略称:県民会議)が発足。阿部守一知事を筆頭に県内の大学、企業、金融機関、経営者団体、NPO、連合長野が参画するほか、個人参加も募り、オール信州で人口減少対策を進めています。
連合長野として特に問題意識を持っているのは、若者や女性に選ばれる地域づくり。県民会議では、若者の社会参画促進や固定的な性別役割の解消、共育てができる働き方や多様性・人権の尊重などを掲げていますが、労働組合としてできることは何か。その観点から、長野県の誇る産業の魅力の発信とそれを支える技術人材・技能人材の育成、安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。今年2月の地方版政労使会議では、持続的な賃上げと適正な取引環境の実現、生産性向上と付加価値創出、誰もが働きやすい職場環境づくりに取り組むことを「共同宣言」として確認しました。

—信州大学での「労働法務実習」のきっかけは?
2015年に労働法ゼミの学生と対話する機会があり、連合長野としてインターンシップを受け入れました。その交流をきっかけに、労働法の先生から、長野労働局と連合長野が協力する形で実習授業(アクティブラーニング)ができないかという話になり、連合長野として信州大学と「覚書」を締結し、2015年度後期から「臨床法学」という名称で実習を始めたんです。以来10年間、様々な工夫をしながら労働法務実習を続けてきました。2018年からは長野大学でも年に1回講義の時間をいただいています。松本大学との連携も進行中です。

ウィークタイズが安心や希望につながる
—労働法務実習を通じて学生たちに伝えたいこととは?
単なる労働組合活動の紹介ではなく、「働くこと」の意義について伝えたいと考えてきました。連合が提起する「働くことを軸とする安心社会」のビジョンが描くように、私たちは「働くこと」を通じて社会とつながり、税金や社会保険料を納めて社会を支えています。だから、「働くこと」とは何かという問いかけから始め、社会に出て安心して働くためにはワークルールが重要であり、そのルールや政策は、働く者が参画することでより良いものに変えていけると学んでもらえるようにしています。

もう1つ、連合や労働組合とはどんな存在かも伝えています。人と人とのつながりには、血縁や職縁などのストロングタイズと、地域や中間団体などのウィークタイズがありますが、東京大学の玄田有史教授(副学長)は「自分の知らない情報や経験を持っている人とゆるくつながることで、新しいヒントや刺激を得ることが希望を見いだす上でとても大切だ」と説いています。まさに連合には、産業や企業を超えて働く人たちが緩やかにつながっていけるという強みがある。そんな連合の役割についても理解を深めてもらえればと思っています。

—10年間、実習を続けてきて感じる変化とは?
「働くこと」をめぐる価値観は、この10年で大きく変わったと感じます。学生のみなさんに、毎年「あなたにとって良い会社とは?」という質問をしてきました。かつては「賃金」を重視する学生が多かったのですが、最近は圧倒的に休日・休暇やワーク・ライフ・バランスを重視する学生が増えています。

これは、職場の労働組合にとっては新たに入社する組合員の意識が変わってきているということ。組合活動もアップデートしていかないと、共感されなくなります。例えば有給休暇を自由に取れるようにするには、単に権利として主張するだけでなく、職場で互いの仕事をカバーできる能力開発や人材育成を求めていく。そんな柔軟な発想をもって労働組合の側から働きやすい職場づくりを進めていくことが必要になっています。大学での実習は、私たちにとっても貴重な社会対話の機会。今後もアップデートしながら継続していきたいと思います。

(取材・文:落合けい)

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◇「職場から始めよう運動」とは
連合がすべての働く者の処遇改善をめざして2010年から始めた運動。「仲間を増やす」ことは労働組合活動の基本。でも、何から始めればいいのか分からないという現場からの声を受けて、「まずは同じ職場で働く非正規雇用の仲間の課題に向き合おう」とスタート。パートタイマー・契約社員の組合加入や処遇改善、関連企業での労働組合結成、ワークルール教育など様々な取り組みが積み重ねられ、「取り組み事例集」の作成などを通じて共有してきたが、もっと広くタイムリーに発信していくためにRENGO ONLINEでシリーズ化している。