「連合アタッシェ」に聞く(カンボジア編)【最終回】
47歳でアタッシェに
労働組合の経験を生かし、カンボジアの労働問題に取り組む

連合は外務省との人事交流の一環として、労働組合のメンバーを各国大使館に派遣している。「連合アタッシェ」と呼ばれる派遣員は、海外でどのような役割を果たしているのだろうか。
第8回目は、カンボジアに派遣された安藤賢太さん(イオンリテールワーカーズユニオンから派遣、現在UNI-LCJに勤務)に話を聞いた。47歳と比較的高い年齢での赴任となったが「経験の蓄積があったからこそ、役に立てたこともある」と語る。
連合アタッシェとは
連合を通じて労働組合の役職員を、各国の在外公館に派遣する制度で、1981年に創設された。アタッシェ制度は各省庁の職員や民間企業の社員らにも導入されており、該当者は外務省で語学や外交の研修を受けた後、原則3年間の任期で各国に送り出されている。

在留資格の問題を担当 送り出し機関から情報収集
-赴任までの経緯をお聞かせください。
実は入社当時から海外勤務を希望しており、単組で連合アタッシェの制度を知った時、「行きたい」と思っていました。ただ派遣されるのは、30代~40代前半の人が多いと聞いていたので、年齢的に難しいのではないかとも考えていました。
UAゼンセンに出向して8年目、次のステージを模索していた時に、上司にダメもとで「アタッシェに行きたい」と伝えてみました。「本気か?」と3回確認されましたが、自分の意思を示したことで推薦してもらえることになりました。
カンボジアは、イオンの店舗が出店する際に何度か出張し、労働組合の立ち上げや人材育成に関わったことがありました。現地の人々の穏やかな雰囲気や、生活のしやすさといった良い面だけでなく、国としての課題もある程度は知識として持っていたので、派遣先に決まった時には嬉しかったです。
-大使館では、どのような業務を担当していましたか。
在カンボジア日本大使館は、大使館員が約30人と中規模なため、アタッシェは複数の仕事を兼務しています。私は経済班と広報文化班に所属し、経済班では労働関係全般を担当しました。
主な仕事は技能実習や特定技能など、外国人労働者の在留資格制度に関する情報収集です。このため、現地で実習生候補を集めて育成し、日本へ送り出す「送出機関」の関係者と定期的に会合を開くなどして、関係構築に努めました。技能実習制度に換わって2027年4月から始まる育成就労制度に関しても、日本・カンボジア二国間の覚書締結に向けた調整などに携わりました。
当時策定中だった育成就労制度の方向性などを現地に周知するため、法務省の担当者に講師を頼み、送出機関の関係者を対象としたオンライン説明会を開いたこともあります。またカンボジア人を日本に留学させる国費留学事業も担当し、年間40人程度を日本へ送り出しました。


「家族の人生変えたい」労働者の言葉に涙 武力衝突に衝撃受ける
-お仕事の中で、印象的だった出来事は何でしょうか。
送出機関の研修施設を視察した時、自分と家族の人生を変えるため、日本へ渡ろうとしている多くの若者に出会いました。また2人の子どもを抱え、夫の借金を背負うことになったという女性もいました。「家族の生活を良くしたい」「親に大きな家を買ってあげたい」という彼ら彼女らの話に思わず涙し、日本で何とか幸せをつかんでほしい、と願うこともしばしばでした。送出機関が、母語であるクメール語が書けない農村の若者を寮に滞在させ、日本語の読み書きを教えるなど、育成に多くの手間と時間、コストを掛けていることも記憶に残りました。

もうひとつの印象的な出来事は、2025年5月に起きたタイとカンボジアの武力衝突です。タイに働きに出ていたカンボジア人130万人のうち90万人が帰国し、緊急に雇用の受け皿が必要になりました。そこで大使館として、ILOと連携して雇用マッチング事業と職業訓練事業を提案し、カンボジア政府に資金援助などを行いました。
友好関係にあると思っていたタイとカンボジアの武力衝突は、私自身にとっても大きなショックで、戦争はいつ起きるか分からない、と痛感させられました。多くの労働者が移動し雇用創出が求められるという点では、組合活動も深く関わります。日本の労働組合も対岸の火事と考えず、平素からシミュレーションしておくべきだと感じました。
-ご苦労や悩みなどはありましたか。
特定技能や育成就労などの制度は日本で作られており、私たち大使館員は基本的に、制度設計には関与できません。このため、送出機関側から制度の改善要望などがあっても、反映するのが難しいというジレンマがありました。
日本の制度は、多くの外国人が集まることを前提に、日本語能力や職種によって人材を絞り込む仕組みだと感じます。しかし円安などもあり、日本はすでに多くの人に「選ばれる国」ではなくなりつつあります。こうした現状を直視し、送出機関や外国人労働者自身の声も反映して、制度設計を見直す必要もあるのではないかと思います。
また業務のひとつに、送出機関や日系企業の苦情・相談対応もあったのですが、「必要な行政手続きが何か月も進まない」と相談があった時、大使館員の私が行政機関に問い合わせたら、手続きが進み始めたことがありました。この時は困りごとを交渉で解決する「組合マインド」が役立ったと思ったのですが、大使館内からは「行政手続きはカンボジアの国内問題であり、大使館として過度に介入しすぎてはいけない」との指摘も受けました。その後は、まずは相談者に自助努力で解決をめざしてもらい、本当に理不尽な場合だけ間に入るなど、慎重に行動するようになりました。
豊富な経験が役立った 年齢気にせず挑戦を
-現地の生活はいかがでしたか。
現地はイオンの店舗があって日本の商品もかなり流通しており、日本食レストランもたくさんあります。物価も日本と同程度で治安もおおむね良く、非常に生活しやすかったです。
またカンボジアの公館は人間関係も良く、同僚とは休日、一緒にサウナやゴルフに行ったり、ホームパーティーに招かれたりしました。日本人コミュニティも親密で、メーカーや銀行、商社など、普段あまり接する機会のない職種の駐在員と情報交換できました。さらに国費留学事業では、日本の留学経験者が集まる「カンボジア元日本留学生協会」と連携し、日本語でダジャレを飛ばす明るいメンバーたちと仕事をする機会にも恵まれました。また長期休暇では、外務省研修のクラスメートが赴任する国を訪ねて回りました。現地で出会った人々や同期のアタッシェとの人脈は、人生の大きな財産になったと思います。

-組合で培った経験は、アタッシェの仕事に役立ちましたか。また逆にアタッシェの経験を、組合にどのように生かしていきたいと考えていますか。
組合で培った「人間関係を築き、人の話を聴く」という姿勢は、アタッシェとしての情報収集に大いに役立ちました。過去にUAゼンセンでカスタマーハラスメントの法制化などに関わり、政策決定プロセスや予算の流れ、政治家や官僚の考え方をある程度理解していたことも、二国間協議や送出機関とのやり取りに生かせたと思います。日本の労働環境を基軸にして、カンボジアの労働問題をクリアに把握することもできました。
このように年齢を重ねて得た経験があったからこそ、役割を果たせた面も大きいので、希望する人は年齢を気にせず、アタッシェに手を挙げてもらいたいです。
日本は過去長い間、カンボジアにとって最大の支援国であり、日本への留学経験者が経済界や学術分野、政界で多数活躍しています。こうした経緯から、多くのカンボジア人が日本に感謝と尊敬の思いを抱いている様子を見て、アジア諸国の信頼を得ることの大切さを強く感じました。
今後は現地での経験を生かし、外国人労働者を取り巻く問題に関わることで、近隣諸国と良い関係を築くことに、微力ながら貢献したいと考えています。
(文 有馬知子)