家族を頼れない若者を、どう支える?
困難を抱えた人に寄り添う「ゆずりは」

東京都国分寺市にある「ゆずりは」は、児童養護施設などの「社会的養護」を卒業した若者や、虐待によるトラウマなどの生きづらさを抱える人々を支援する団体だ。所長の高橋亜美さんに、若者たちをどのように支えてきたか、そして何が課題かを聞いた。

ゆずりは所長の高橋亜美さん

貧困や暴力から逃れ「その日を生き抜く」を支援 男性の相談も増加

「ゆずりは」が設立された2011年当時、児童養護施設などで暮らす子どもたちは、18歳で卒業するのが一般的だった。しかし10代の若者が、頼れる家族もなく自立した生活を営むのは難しく、貧困や望まない妊娠・出産など、困難な状況に陥る人が後を絶たなかった。また家庭で暮らしていても虐待を受けるなどして、親を頼れない若者たちもいた。

「ゆずりは」はこうした人々のSOSを受け、生活保護の申請や通院に同行したり、住まいの確保をサポートしたりしている。
「暴力から逃げだして今夜寝る場所すらなく、やっとの思いで「ゆずりは」にたどりつく人もいます。まずは命を守り安全に生活するための、最低限の基盤を整えることが活動の大きな柱です」

活動のもう一つの柱が、安心な場を提供することだ。相談者がおしゃべりしたりお茶を飲んだりと、思い思いに過ごせるサロンも開いてきた。

支援団体の中には、若年女性やシングルマザーなど特定の層を対象とした組織もあるが、「ゆずりは」は緊急性の高い相談に応じてきた経緯もあり、あらゆる属性の人を受け入れている。最も多いのは20代~30代だが、10代後半から40代、50代まで、幅広い年齢の人から相談が寄せられるという。近年は男性の相談が急増しており「全体の6割くらいと、女性を上回るほどです」。

「男性を支援対象に含める団体があまり多くないため、属性を問わない「ゆずりは」に相談が集まっているようです。また近年、男性でも支援を頼っていいという風潮が少しずつ広がっていることも、相談が増えた一因かもしれません」

それでも男性の場合、社会にはいまだに「強くあるべきだ」というプレッシャーも大きい。例えば親から虐待を受けた男性が、居所を知られないよう住所の閲覧制限手続きをしようとすると、担当者に「現在は被害を受けていないのだから(制限しなくても)大丈夫でしょう」などと言われることが少なくない。
「ましてや警察では、被害を訴えても『過去にこだわらず、親と話し合え』などと説教されることがしばしばです」

社会の理解が得づらい分、「ゆずりは」で「今までつらかったですね」と共感された時の安心感は大きく、サロンなどに積極的に顔を出す人も多いという。

支援する側からフラットな立場へ 「働く」が関係を変えるきっかけに

相談者は性別も年齢も多様だが、親や家族と安心できる人間関係を築けずに育った結果、就労や日常生活に困難を抱える点は、多くの人に共通している。
「苦しい時は助けを求め、安心できる場所で休んでいい。自分の受けた傷や痛みを大切にしながら、その人自身の人生をもう一度生きてほしい」と、高橋さんは話す。

ただ「もう一度、自分の人生を生きる」ことは容易ではなく、長期間の伴走を必要とする人も少なくない。
「生活保護を受け続けて20代、30代と年を重ね、働けない自分を社会のお荷物だと責め続けてしまう人もいます。それを見ると、私たちの支援のあり方が、かえってその人の持つ生きる力を弱めてしまってはいないか、と自問自答することもあります」

長く支援を続けると、相談者との関係性に、ある種の息苦しさが生まれることもある。過去に安心を奪われ続けてきた人と、安心な関係を築くことは時に難しく、お互いの距離が近くなりすぎてしまうこともある。支援する側には、相談者に寄り添うほど、関係性が煮詰まっていくというジレンマがあった。
「支援する側とされる側、という関係が固定化され、不健全なやり取りが生まれてしまった。本来なら相談者とは、最も『出会えてよかった』という関係であり続けたいのに、傷つけ合う場面も出てきたのです」

こうした中で高橋さんらスタッフの、支援に対する考え方を少しずつ変えたのが、「働く」という営みだった。

「ゆずりは」はフルタイムでの就労が難しい人たちに、自分のペースで働いてもらえるよう、ジャム作りや販売、農作業などの場を設けている。参加者はジャムの売れ行きが悪ければ「マルシェに出店しては」と提案したり、客の目を引くようラベルを変えたりと、さまざまなアイデアを出してくれた。農園で一緒にイチゴを採る時は、立場など関係なくともに汗を流し、協力し合った。

「ゆずりは」で作られたジャムをホームページhttps://yuzuriha.theshop.jpで紹介・販売

高橋さんは次第に「相談者は支援されるばかりではなく、自分の足で立ち、幸せになる力を持っている」と実感するようになった。
「とにかく生きてもらうため、してあげられることは何でもする、という設立当初の支援から、人として取るべき距離をきちんと取って対等に接し、本人たちが持つ力を引き出す、という考え方に変わってきました」

変化の象徴とも言えるのが、2025年にオープンさせた2つ目の拠点「ながれる」だ。カフェスペースやレンタルキッチンなどを設け、これまで団体と接点のなかった人にも開かれている。ふらりと立ち寄った人が「支援はできないが歌なら歌える」「みんなで料理ならできる」と、新しいことを始める場面も出てきたという。
「支援する側・される側という立場を超え、多くの人に関わってもらうことで、福祉の世界に生きる私たちからは、生まれてこないようなケアのあり方を見つけたいのです」

「ゆずりは」ホームーページ
https://www.acyuzuriha.com/

「ながれる」ホームページhttps://nagareru.acyuzuriha.com

社会的養護からこぼれ落ちる若者 受けられるケアに格差も

2024年に施行された改正児童福祉法によって、社会的養護の年齢制限が弾力化され、18歳以降も必要に応じて施設などに留まれるようになった。施設の卒業生ら、困難を抱えた若者に対する支援事業(アフターケア)も法制化された。

ただ、教育虐待や精神的なネグレクト、性虐待など外からは見えづらい被害を受けるなどして、社会的養護を受けられないまま18歳を迎えた人たちについては「アフターケアの対象ではあるものの、十分な支援を提供できているとは言い難い」と、高橋さんは言う。

「見えづらい被害」の場合、本人も虐待を受けていると認識できず、声を上げられないことも多い。例えば成績が下がった時、親に食事を抜かれたり罵倒されたりしても、それが「教育虐待」だとは自覚できないのだ。

こうした被害者がある程度の年齢に達し、「ゆずりは」に「これ以上親といるのは耐えられないが、大学は続けたい」といった相談を寄せる。社会的養護の経験のない人たちからの相談件数は、経験者の相談を上回る勢いだという。

しかし本人が18歳を超えていると、公的な支援は極めて限られてしまう。また、親を介さずに奨学金を得るための手続きひとつとっても、虐待の被害証明を求められるなど多大な労力がかかり、若者がひとりで対応するのは難しいという。
「学校に通い続けるために夜の仕事を始め、結局学校を続けられなくなってしまう女の子たちもたくさん見てきました。制度を使えば学びを諦める必要はないし、私たちがサポートすると、もっと多くの人に伝えたいです」

高橋さんは、生きづらさに苦しむ若者を少しでも減らすためには、学校教育などを通じて子どもたちに「何が被害か」を具体的に教えることが大切だと考えている。
「子どもたちが早い段階で『被害を受けた』ことを自覚し、周りの大人に相談できるようにすることが重要です。相談することは親に『バツ』をつけるのではなく、親子ともに支援につながれるチャンスであることも、きちんと伝えてほしい」

また高橋さんは、労働組合に「生きづらさを抱えた人たちが働けるようになることを、応援してほしい」と要望した。
「働くことは、その人の『生きていてもいいんだ』という思いを育み、カウンセリングや服薬などを超えて、回復を支援することもあります。どうすればともに働ける環境をつくれるかを一緒に考え、知恵を貸してほしいです」


■困難を抱えた若者のためのクラウドファンディングにご協力ください!

地域課題の解決に取り組む組織・団体のネットワーク「ユニバーサル志縁センター」は11月15日まで、連合のプラットフォーム「ゆにふぁん」を通じて、困難を抱えた若者を支援するためのクラウドファンディングを実施している。寄付金は若者支援団体への助成や、若者に働く場を提供する「体験就労プログラム」の運営に充てられる。 生きづらさを抱えた若者たちが当たり前に学び働き、生活できる環境を整えるため、ぜひ温かいご支援をお願いいたします。

詳しくは、「貧困・虐待などで親を頼れない若者に支援を届ける|若者おうえん基金」
クラウドファンディングページ(https://readyfor.jp/projects/wakamono2026)をご覧ください 

(執筆:有馬知子)