社会対話と国際連帯で
世界に新しい道を

今年6月にフランス・エヴィアンで開催された「G7サミット(主要国首脳会議)」に先駆け、5月5日、G7議長国であるフランスのITUC(国際労働組合総連合)加盟5つのナショナルセンターとOECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)が共催して「2026年L(レイバー)7サミット」をパリで開催。中東情勢が緊迫化し、G7各国の政治的分断や格差などが広がる中、ITUC、ETUC(欧州労働組合連盟)、議長国フランスの労働大臣・貿易大臣、欧州委員会上級副委員長、OECD(経済協力開発機構)、WTO(世界貿易機関)、IEA(国際エネルギー機関)、ILO(国際労働機関)などの代表を交えて、ディーセント・ワーク、不平等、地政学的変化、公正な移行、貿易などをテーマに直接対話を行った。
このL7サミットに合わせて、OECD-TUACのヴェロニカ・ニルソン事務局長と芳野友子連合会長との対談が実現。緊迫化する中東情勢とその世界経済への影響、民主主義と多国間主義の危機、平和の実現に向けて労働組合が取るべき行動、イノベーションとジェンダー平等・多様性尊重との関係などについて語り合った。
(季刊RENGO2026年夏号転載)

ヴェロニカ・ニルソン
OECD-TUAC事務局長

〈Veronica Nilsson〉  政治経済学修士(ストックホルム大学)。
2010年から2016年まで、ETUC(欧州労働組合連盟)で副事務局長などを歴任。2017年フリードリヒ・エーベルト財団シンガポール事務所、2019年OECD雇用・労働・社会問題局、2022年OECD-TUAC事務局長代行を経て、2023年6月OECD-TUAC事務局長に選出。

■ OECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)
OECDはマーシャルプラン(ヨーロッパ復興計画)や世界経済発展への貢献、開発途上国の援助、多角的な自由貿易の拡大を目的に1961年に設立された国際機関(本部:フランス・パリ)で、日本を含め38カ国が加盟。その諸活動に対する助言を行うことを目的に労働組合の代表からなるTUAC(労働組合諮問委員会)と、ビジネス界の代表からなるBIAC(経済産業諮問委員会)が設置されている。TUACにはOECD加盟国の50以上の組織から約5000万人が加盟。連合やAFL-CIO(アメリカ)、DGB(ドイツ)、TUC(イギリス)などのITUC主要加盟組織のほか、ITUC未加盟組織も加盟しており、事務局はパリに置かれている。G7/G20サミットやOECD閣僚理事会などの国際討議に対し、TUACとITUCが連携して労働組合の意見などを取りまとめ、提言している。連合は、TUACの副会長組織として積極的に活動に参画している。

■ L(レイバー)7サミット
G7サミットやG7雇用労働大臣会合に対し労働組合の意見などを反映させることを目的として、OECD-TUACが議長国のナショナルセンターと共催する形で毎年開催。G7各国のナショナルセンターやITUC、ETUCなどの代表が参集し、政策議論や首脳への要請などを実施している。
2026年のL7は、5月5日にフランス・パリで開催。「世界的な不均衡に対処する貿易政策の成功には労働者の権利が不可欠」とする提言を行った。

連合会長 芳野友子

<進行> 齋藤 亮
連合総合国際政策局長・ILO労働者側理事

緊迫する国際情勢の中での国際労働運動

武力ではなく対話による解決を
齋藤 長期化するロシアのウクライナ侵略、ミャンマーの民主化勢力の弾圧に加え、今年はじめにはアメリカのベネズエラへの軍事進攻、2月末にはアメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃が行われました。中東情勢が緊迫化し、世界経済にも深刻な影響が広がっています。現下の国際情勢について、どのように見ていますか。
ニルソン これらの紛争を深く憂慮しています。私たちは今、たいへん不確実な時代に生きています。一部の国家元首は、自分たちが解き放った力の大きさを過小評価しているか、あるいは気にも留めていないのかもしれません。しかし、その代償を払わされるのはいつも労働者であり、一般の市民です。中東での戦争がどのような結果をもたらすかは現時点では分かりませんが、OECDはすでに世界経済の成長率の見通しを下方修正しました。ホルムズ海峡の封鎖は、すでに世界の数百万人の労働者の生活に深刻な影響を与えており、早期に開放されなければ、世界的な景気後退・経済危機を招くと懸念しています。
芳野 戦争で最も深刻な影響を受けるのは、最も脆弱な立場にある人々です。いかなる理由であれ、主権国家への武力行使は明らかに国連憲章や国際法に違反する行為であり、連合はITUCとともに、一刻も早く、武力ではなく対話による解決がなされることを求めています。

労働組合は民主主義社会の礎
齋藤 平和の実現に向け、労働組合としてどのような行動が求められますか?
ニルソン 労働組合にとって、平和の追求は民主主義を擁護することからはじまります。私たちの社会と労働組合にとって最大の脅威は、過去数十年の間に非常に強大化した反民主的かつ権威主義的な勢力です。いくつかの国で政権を握ったポピュリスト政党や極右政党の指導者たちは、民主的な制度を弱体化させ、解体しはじめています。こうした制度を築き上げるには何年もかかる一方で、私たちは、それらがいとも簡単に破壊され得るかを目の当たりにしてきました。労働組合は民主主義社会の礎です。私たちには、労働組合が過去1世紀以上にわたって懸命に闘い、勝ち取ってきた権利を堅持していく大きな責任があります。歴史が示すように、民主的な制度が解体されれば待っているのは戦争です。
芳野 「平和と真の民主主義なくして労働運動なし」という先人の教えは不変です。大国が声高に発信している「武力による平和」には断固として反対です。「対話による平和と真の民主主義なくして労働運動なし」を深く胸に刻んだうえで、国際労働運動全体として、平和の実現と民主主義を守る取り組みが一層重要になっていると強く感じています。ITUCは「中東における即時の緊張緩和、すべての軍事行動の停止、そして平和的な交渉への復帰を求める。国際法は尊重されなければならない。戦争は決して労働者の利益にはならない。労働者が求めているのは、終わりのない爆撃や報復攻撃ではなく、平和、民主主義、ディーセント・ワークだ」との声明を発しています。連合はこれを全面的に支持します。そして、労働組合の国際的な連帯をさらに強化し、対話による平和の実現のために声を上げていきたいと思います。
齋藤 この情勢下でのL‌7サミット開催の意義とは?
ニルソン L7サミットは、労働組合リーダーが世界で最も影響力のある各国政府と対話を行う重要な場であり、その対話は民主主義を守るうえで極めて重要です。今回、L7代表団は、G7に対し、平和、国際協力、国際法の尊重を求めるとともに、不平等に対抗するため、ディーセント・ワークと団体交渉権を促進する各種政策や、国際労働基準にもとづく公正でルールに則った貿易を支える政策を求めました。これらの要求にG7がどう対応するか、今後問われることになるでしょう。
芳野 労働組合は、意見が違う仲間の主張にも耳を傾け、対話を通じて合意形成していくことを大切にしてきました。その意味でも、L7、L20、ILOといった社会対話の枠組みや対話と多国間主義による国際課題へのアプローチは非常に重要だと考えています。L7では、これまで不平等や格差への対策を重視して提言してきましたが、戦禍が拡大し民主主義や多国間主義が揺らいでいる現状に対しても、労働組合の立場から「ピース! ノーウォー!」のメッセージを発信することができました。世界の平和と安定に向けた国際社会の緊密な連携をはかるうえでも、今回のL7は非常に意義深いものになったと思います。

戦争が世界経済と世界の労働者に与える影響

世界の労働者に深刻なダメージ
齋藤 紛争や戦争は地域にくらす人々の生命や生活を脅かすだけでなく、世界の多くの人々にも影響を及ぼします。世界経済・貿易の観点から特に懸念される点は?
ニルソン 2000年以降、世界経済は次々と危機に見舞われました。2008年のリーマンショック・世界金融危機、2020年の新型コロナウイルス感染症パンデミック、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー危機…。これらは世界各国で生計費高騰を招き、OECD加盟国の大半において、実質賃金は依然として2021年の水準を下回っています。貿易障壁や関税がさらなる圧力をかけ、サプライチェーンを混乱させていますが、その影響の全容はまだ明らかになっていません。こうした状況に加えて中東での戦争も起きました。この戦争の一日も早い終結を願っていますが、長期化することになれば、世界経済に長く暗い影を落とすことになるでしょう。
芳野 米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃は、日本の春季生活闘争の最中に発生しました。労使交渉への影響を懸念し、加盟組合に緊急調査を行ったところ、原材料の供給制限・価格高騰による生産・出荷調整や停止などが多数報告されました。連合として日本政府に対し「緊迫が続く中東情勢から国民生活を守るための緊急要請」(4月24日)を実施しましたが、戦争の一日も早い終結を願わずにいられません。
世界の原油や天然ガス輸送の多くがホルムズ海峡を通過し、日本も原油の大部分を中東からの輸入に依存しています。事態が早期に解決されなければ、物価高騰など広範かつ長期にわたる苦境が世界の労働者や市民の生活に直接的かつ甚大な影響を及ぼす深刻なリスクがあります。サプライチェーンの混乱もまた、企業活動に対し長期にわたる悪影響を及ぼすことになると危惧しています。
齋藤 今年のL7サミットは、G7貿易大臣会合を目前に控えたタイミングで開催されました。昨年来、トランプ関税による世界経済の混乱も続いていますが、政府に対し、どのような政策を求めたのでしょうか。
ニルソン 各国政府が取るべき最も緊急の措置は戦争に終止符を打つことですが、「言うは易く、行うは難し」の状況です。L7サミットにおける議長国の労働大臣、貿易大臣らとの対話においては、より公正な労働市場の実現とワーキングプアの解消を求めました。また、各国政府に対しては、団体交渉と賃金引き上げの支援、ディーセント・ワークの確保、積極的な労働市場政策と生涯学習への投資を求めました。これは、人口構造の変化(高齢化)、グリーン・トランジション、デジタル・トランジションという観点から極めて重要です。ちなみに、世界不平等研究所(World Inequality Lab)によると、2000年以降、上位1%が新たに生み出された富の41%近くを独占したのに対し、下位50%が獲得したのはわずか1%にすぎません。このデータは、格差の拡大は不可避なものではなく、意図的な政策選択の結果であり、是正可能であるというTUACの立場を裏付けるものだと考えています。
芳野 何よりもまず、L7各国の労働組合は、早期停戦と事態の平和的解決をはかるための外交的努力をそれぞれの政府に強く求めるべきです。そのうえで、原油供給の混乱や価格の変動が広範な経済的影響を及ぼしていることから、これらの問題に対処するための措置が求められます。今後も動向を注視していかなければなりません。
ニルソン 公平で持続可能な貿易のためには公正競争の確保が不可欠です。L7は議長国であるフランス政府から、B7(使用者団体代表団)との交渉を踏まえた具体的な考え方の取りまとめを要請されました。あわせて「洪水や熱ストレスなどの極端な気象現象が雇用や労働安全衛生に及ぼす影響への適応」に関する共同ガイドラインについても交渉を行いました。

ジェンダー平等とイノベーション

ジェンダー平等は経済成長の礎
齋藤 2023年のG7広島サミットでは「ジェンダー平等に向けて努力する」ことが首脳宣言に盛り込まれ、その後のG7サミットでも引き継がれています。これはL7からも強く働きかけたものですが、国際的な視点から、日本のジェンダー平等の現状についてはどう見ていますか?
芳野 2023年のL‌7で、日本政府に対し世界から後れをとることのないよう、ジェンダー平等・多様性尊重の政策を確実に推進することを求めるメッセージを伝えました。それから3年、日本政府が掲げてきた「指導的地位に女性が占める割合を30%程度に」という目標は達成されておらず、女性たちが切実に求めている選択的夫婦別氏制度の導入さえ実現していません。それどころか、今年3月に閣議決定された第6次男女共同参画基本計画には、適正な審議を経ず、突然「旧氏の単記も可能とする法制化を含めた基盤整備の検討」が盛り込まれました。
ニルソン 夫が妻の姓を名乗ることが珍しくない国の出身である私としては、日本で夫婦同氏のルールがあり、大半は女性が自分の姓を変えているという事実に驚いています。日本で初めて女性が首相になったことで、ジェンダー平等政策の推進がはかられることを期待したいと思います。もし高市首相がこれを推進しないのだとしても、芳野会長のような女性たちが先陣となり、女性たちのためのジェンダー平等への道を切り拓いてくれることを願っています。
芳野 日本政府は今般、17分野の戦略的投資を促進することを目的とした「成長戦略」を取りまとめ、さらに「女性活躍・男女共同参画の重点方針(いわゆる女性版骨太の方針)」の策定が進められています。ジェンダー平等とイノベーションの関係については、どうお考えですか。
ニルソン 男女の均衡が取れた職場の方がより良い成果をもたらすことを証明するのに十分な調査結果がすでにあると思います。政府は、伝統的に男性が支配的な分野への女性の参画を積極的に推進すべきですが、それだけでは不十分です。女性が積極的に参画し、意見を述べるよう奨励されなければなりません。また、介護や医療など、すでに女性が多数を占める分野は、経済活動に不可欠であるにもかかわらず、しばしば過小評価され、成長戦略から排除されているという事実を認識することも重要です。OECDの言葉を引用するならば、「ジェンダー平等は、道徳的・法的な義務であるだけでなく、急速な社会・経済的変革の時代における経済成長の礎でもある」のです。
芳野 日本政府は重点投資対象とする17の戦略分野における女性活躍推進を重点的に取り組むことを掲げていますが、戦略分野の職場は圧倒的に女性が少ないため、将来のキャリア形成や働き方に不安を感じているとの声が寄せられます。理工系の女性採用を拡大すれば良いというものではなく、定着や活躍を見据えた職場の環境が重要です。人工知能(AI)についてはG7で議論されていますし、日本の「戦略分野」の1つとして注目されていますが、TUACのAIに対する立場は?
ニルソン AIの開発と導入を進めるうえでの課題は、長期的に社会に利益をもたらすだけでなく、その過程で人権の尊重を確実に保証するように行えるかという点です。AIは労働条件を改善し、生産性を向上させ得ますが、リスクへの対策は十分ではありません。最近のOECDの調査によると、アルゴリズム管理ツールの利用に関して、回答した米国の管理職の57%が、健康と安全に与える影響について懸念を表明しています。職場におけるAIの開発・導入に関する決定にあたっては、労働者・労働組合に対する情報提供や協議・交渉を行うことを義務化すべきです。この点については2024年、L7とB7が共同声明に合意し、適切な規制枠組みの構築を求めるとともに、AIの発展を形作り、不平等をなくすうえで社会対話が果たす役割を強調しました。OECDもまた、労働市場におけるAIの利用に関する法的枠組みの策定に取り組んでいるところです。
芳野 連合も、多様な人財の参画により、発想や議論が広がり、研究開発や業務における新たな価値創出やイノベーションが生まれていること、誰もが働きやすい環境が生産性と組織全体のパフォーマンス向上につながっていることを訴えています。一方で、ジェンダー平等・多様性尊重に逆行する動きもあります。
ニルソン 平等や多様性といった価値観に対する反発、そして有力な政治指導者が社会正義の追求に対して公然と攻撃している現状を懸念しています。しかし、だからこそ、ジェンダー平等の経済的根拠を強調することが重要だと考えます。国際的には、各国政府がILO第111号条約(職業上の差別禁止)や第190号条約(労働における暴力とハラスメントの撤廃)を批准することが必要です。
芳野 残念ながら、日本はILO第111号条約、第190号条約ともに未批准ですが、連合は早期批准に向けて引き続き全力で取り組んでまいります。
齋藤 示唆に富む対話となりました。本日はありがとうございました。