現場の強みを生かし被災地支援
基幹労連のボランティア「JBUパワーバンク」

7月の熊本地震や8月の千葉豪雨など、今年も国内各地で災害による被害が相次いでいる。鉄鋼や造船、非鉄、建設などの産業別労働組合である基幹労連の「JBUパワーバンク」は、組合員が災害支援のスキルを習得した上で、ボランティアとして被災地に入り、復旧・復興を支援する組織だ。今年は熊本地震と千葉豪雨を受け、7年ぶりに出動する予定だ。現業に携わり労働安全衛生に対する意識が高い組合員が多い、という産業の強みを生かし、今回も被災地を支えようとしている。
東日本大震災にボランティア派遣 10年前の熊本地震も
JBUパワーバンクは2007年の設立以来、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など多くの被災地にボランティアを派遣しており、メンバー登録者は3500人を超える。基幹労連事務局次長の伏見隆太郎さんは、設立の経緯について「産別としての強みを発揮して社会に貢献し、組織の一体感も醸成できる活動を模索した結果、災害ボランティアに行きつきました」と説明した。
メンバーになるには、2日間の「基礎講座」の受講が必須だ。またメンバー登録後もスキルを維持するため、各都道府県に配置している基幹労連県本部・県センターで年に1回ほど「基本教育・訓練」が行われており、リーダー候補者に対しては、より高度な内容の「上級講座」も実施している。
基礎講座の内容は、災害に関する知識やボランティアとしての心得、実際の活動の流れなど多岐にわたる。「避難所に3000人が避難しているが、確保できた食料は2000食。あなたなら食料を配りますか?」といった実践的なグループワークや、ロープの結び方、新聞紙スリッパの作り方などの実習もある。

中央副執行委員長の小松﨑雄一さんは「知識を持たずに現場に入るのと、実際に起こりうる混乱や支援のジレンマなどをある程度理解した上で入るのでは、貢献できる度合いが大きく違ってきます」と話す。
基幹労連の加盟組合は、製造現場を持つ組織が大半を占めるため、パワーバンクのメンバーにも現業を担う人が多数含まれている。職場の労働安全衛生の取り組みをボランティア活動に活かせる点も、パワーバンクの強みだという。「例えば製造現場も被災地も、暑くても長袖着用が必須な点は共通しています。被災地で軽装で作業すると、がれきなどでけがをするリスクが高まりますし、豪雨災害などでは、化学薬品を含む汚泥が肌に触れ、火傷のような症状を起こす恐れもあります」(伏見さん)
また個人ボランティアの場合、「切りがいいところまでやってしまおう」などと考え、つい休憩の間隔があいてしまうこともあるが、現業に携わる人は、定期的に休憩を取ることの大切さもよく理解している。講座でも過去の活動をもとに「猛暑の時は10分~15分の作業に対して、15分以上の休憩を取るべき」といった知見を共有している。
活動経験者の柴山亜沙美さんは「講座では『被災地に迷惑を掛けないことが活動の基本』だと叩き込まれます。休憩を取るなどして自分の身を自分で守ることは、結果的に熱中症や過労を予防し、被災地に負担を掛けないことにつながります」と語った。 さらにメンバーの中には、高温の工場での仕事や、危険を伴う作業に従事する人もいる。こうした中で「普段の業務を通じて現場に潜む危険を察知し、回避に必要な対策を取れるメンバーが多いことも、安全かつ効率的に作業する上での大きな力になっています」と、小松﨑さんは指摘した。



「組織力」で被災地に貢献 傾聴も大事な活動
パワーバンクはこれまで、災害現場で大きな役割を果たしてきた。「東日本大震災の被災地では、一緒に作業した自衛隊から『明日もこの現場に来てほしい』と言われました。手前味噌ではありますが、私たちの活動が自衛隊に評価してもらえたことはすごく誇らしかったです」と、伏見さんは語る。
効率的な活動の源となっているのが、リーダーが集団を統率して作業を進める「組織力」だ。現地のボランティアセンターとのやり取りや諸手続きの際は、パワーバンク側の窓口を一本化し、被災地側の負担軽減を図っている。さらに活動地への移動や宿泊先の確保、作業分担、メンバーの体調管理などもパワーバンク内で完結させ、「被災地に迷惑を掛けない」ことを徹底している。

例えば2018年、岡山・広島などを襲った西日本豪雨災害のボランティアは、連日40度近い猛暑の中で作業が進められた。現地で事務局を務めた渋澤厚子さんは「リーダーの指導のもと、15分ごとに休みを取るなど作業スケジュールがしっかり守られていました。また工場勤務などで暑さに慣れている人も多く、無事に活動できました」と話す。
この時ボランティアに参加した秋山和義さんによると、普段製造現場にいるメンバーの1人が、被災家屋の床下にたまった汚水を見て「ポンプを使おう」と提案し、道具も調達してあっという間に排水してしまったという。「何日も排水できなかった床下の水を、機転を利かせてすぐに抜いてくれた。現業で培った知識と課題解決の力は、被災地でも大いに役立っていました」(秋山さん)
活動経験者である柴山さんと渋澤さん、秋山さんは、「被災者に『ありがとう』と言ってもらえた時、お役に立てたと実感します」と口をそろえる。柴山さんは、東日本大震災の際に宮城県に入り、家の片付けなどを手伝ったが「高齢のため重いものを運んだり、高い所を掃除したりするのが難しい人が、『自分ではなかなかできなかった。ありがとう』と言ってくれた時、やって良かったと思いました」と話した。
ボランティアの役目は、がれき撤去や片付けのような力仕事に留まらない。渋澤さんは「東日本大震災の被災地に派遣された女性の中には、被災したおばあさんの話をひたすら聴き続け、とても感謝された人もいます」と語る。被災者の心に寄り添うことも、重要な活動のひとつなのだ。
一方、2016年の熊本地震では、小松﨑さんらが先遣隊として被災地に行き、活動のニーズを聞いて回った。しかし現場の混乱などからなかなか活動地が決まらず、目の前にがれきがありボランティアの出動準備も整っているのに、支援に入れないというジレンマも生じた。それでも小松﨑さんは「私たちが勝手に活動をしたら、かえって被災地の足を引っ張ってしまいます。役に立つためには、受け入れ側の体制が整うのを辛抱強く待つことも大事だと学びました」と振り返った。


組織の一体感醸成にも役立つ 課題はモチベーション継続
パワーバンクは、普段は単組に分かれて活動する組合員に、産別労働組合としての一体感を醸成する役割も果たしているという。
「実際の支援活動はもちろん、基礎講座もさまざまな加盟組合から参加者が集まって一緒にグループワークなどにも取り組むので、『他の組織の人とつながって、情報交換などができて良かった』といった声を多数いただいています」(伏見さん)
近年は、2019年の栃木県での豪雨災害を最後に、出動のない期間が続いていた。災害の初期段階は、原則として日帰りできるメンバーを派遣するため、被災地の近隣にメンバーがいない場合等、活動が難しいといった事情からだ。また受け入れ先の状況によっては、基幹労連としてパワーバンクを派遣するのではなく、連合ボランティアに参加するなど、別の形での支援を選択することもある。
こうした中で伏見さんは「各都道府県の『基本教育・訓練』の受講などを通じて、活動の間が空いても『災害が起きたらいつでも出動する』というメンバーのモチベーションを維持することが課題だと考えています」と述べた。

講座の事務局を担当する谷口昌英さんは、「どこで災害が起きてもメンバーを派遣できるよう、登録者を増やして全国各地に配置することも必要です」とも話す。また災害発生直後は多くのメンバーが手を挙げるが、活動が長期化するほど、職場を長期間離れることへの気兼ねなどから、希望者が減ることも課題のひとつだ。小松崎さんは「企業にも、ボランティア休暇の整備などが求められていると感じます」と話す。
今年は7月の熊本地震と8月の千葉豪雨を受けて、7年ぶりに出動することになった。小松﨑さんは「組合員のボランティアをしたいという思いは高まっていると感じます。私たちも組合員のニーズに対応できるよう、安全に活動するための環境整備を進めます」と話した。


(執筆:有馬知子)