神保事務局長の頂の景色【2】
「わが事として平和の尊さを考える」

本内容は季刊「RENGO」2026年春号から連載がスタートした「神保事務局長の頂の景色」(2026年夏号)を再掲したものです。
連合事務局長としての率直な思いを綴った当コラム。どう受けとめられるのか不安でしたが、「頂の景色、読みましたよ」と声をかけられたり、お手紙をいただいたり…。メーデーに参加していた若手組合員からは「労働組合のノルムを変えるのは時間がかかると思いますが、頑張ってください」との激励もいただきました。誌面を通してのコミュニケーションがこんなに嬉しいものだとは! 感謝です。

武力ではなく外交を重視した紛争解決を
さて、2月28日にアメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃を行ってから3ヵ月、戦闘終結に向けた協議は難航し緊迫した状況が続いています。
今年のメーデー中央大会では、参加者全員で「PEACE NO WAR」のパネルを掲げ、その翌日の4月30日には、芳野会長がニューヨークの国連本部を訪ね、「核兵器廃絶と恒久平和を求める署名」(542万余筆)を提出しました。これは連合・原水禁・KAKKINの3団体が、5年に1度の「NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議」に向けて、ITUC(国際労働組合総連合)と連携して取り組んできたものです。
「戦争」は、ロシアのウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ紛争、そしてイランへの攻撃と、今や眼前の出来事となり、国際社会では武力による現状変更を容認するかのような動きや、核抑止力への依存を強める考え方が広がっています。
こうした情勢にあって、世界の542万人もの方々が核兵器廃絶に向けた意思を明確に示したことの意味は非常に大きいと思います。NPT再検討会議は、残念ながら最終文書を採択できないまま5月22日に閉会しましたが、職場や地域で署名に取り組んでくれた構成組織、地方連合会、関係団体、ITUCなどの仲間の皆さんの思いを、戦後81年となる今夏の平和行動へとつなげていきたいと思います。
戦争の悲惨さ、人間の愚かさを語り継ぐために
連合の平和4行動は、6月23日の沖縄「慰霊の日」から始まり、広島、長崎、北方領土を望む根室と続きます。私も、単組にいた時から平和行動に参加してきましたが、特に出身企業の主力工場がある長崎には何度も足を運びました。
1945年8月9日11時2分、長崎市に投下された原子爆弾で工場は甚大な被害を受け、爆心地に近い城山町にあった社員寮・実習所は全壊しました。太平洋戦争末期、工場で主に働いていたのは、養成工や学徒動員の10代半ばの若者たち。夜勤を終えて寮に戻っていた人たちが多数犠牲になりました。
戦後、会社は城山寮があった場所に「原爆殉難之碑」を建立し慰霊祭を執り行ってきました(現在は製作所敷地内に移設)。私も慰霊祭に参列し、被爆した先輩たちの想像を絶する体験を直接聴き、「同じ過ちを繰り返さないよう、戦争の悲惨さ、国家や人間の愚かさを語り継いでほしい」という言葉を心に刻んできました。戦後81年、これ以上の戦禍を止めるには国際社会として対応していく必要があります。そのためには、今を生きる私たち一人ひとりが「わが事」として平和の尊さを改めて実感することが必要です。
ぜひ連合の平和4行動に参加して戦争の実相と平和への思いを受けとめ、それを職場や地域に持ち帰って伝えてほしいと思います。
現場の切実な声を政策に
戦争の世界経済への影響も深刻です。ホルムズ海峡が事実上封鎖されて原油・天然ガスの供給が滞り、原油価格が高騰しています。イランへの軍事攻撃が始まったのは2026春季生活闘争の最中であり、連合はその影響について実態調査を行いました。4月時点ですでに操業に影響が出ているとの報告があったことから、赤澤経済産業大臣に対して緊急要請を行いました。
2026春季生活闘争では、全体で3年連続5%を超える賃金引き上げを実現しました。これは、取り巻く情勢の悪化について労使で認識を共有し、そのうえで真摯な交渉を重ねた結果であり、ご尽力いただいた仲間の皆さんに敬意を表したいと思います。
ただ、影響がさらに長期化すれば、一時帰休を検討せざるを得ないとの話も出てきています。中東情勢への対応をめぐり、政府は対応がやや遅れたものの、2026年度補正予算が組まれることになりましたが、その審議においては雇用調整助成金の拡充など、現場の声を反映できるよう働きかけていきたいと思います。また、緊急対応とあわせて、安定的に資源・エネルギーを確保するための政策についても改めて議論を求めたいと思います。
長時間労働は人を壊し、家族の人生も破壊する
労働時間法制についても触れたいと思います。「働き方改革」から5年が経過したことを踏まえ、2025年1月から労働政策審議会でその見直しの議論が行われていましたが、同年10月高市総理が厚生労働大臣に裁量労働制の拡大など規制を緩和する方向での検討の加速を指示。これを受けて、労働政策審議会と並行して、日本成長戦略会議・労働市場改革分科会においても2026年3月から労働時間法制の見直しの議論が始まりました。
私は、労働政策審議会の委員、日本成長戦略会議・労働市場改革分科会の委員として議論に参画し、「裁量労働制については、真に裁量のない労働者への適用や長時間労働になりやすい実態の是正のために行われた2024年改正(本人同意・同意の撤回、健康・福祉確保措置の拡充など)の適正運用の徹底が必要であり、拡充や要件緩和などは行うべきではない」ことや、「『過労死ゼロ』に向けては、連続勤務規制の導入や勤務間インターバル制度の義務化などの検討こそ深めるべきだ」と主張してきました。労働市場改革分科会は5月27日、「時間外労働の上限規制については維持」するとしたうえで、経済界が主張する裁量労働制や変形労働時間制、連合が主張する連続勤務規制や勤務間インターバル制度については、「労働政策審議会において、議論を行う」というとりまとめを確認したという流れになっています。
これに先立ち、連合は5月20日に緊急シンポジウム「これでいいのか!?『働き方改革』の見直し」を開催しました。その際、パネリストの1人である東京過労死を考える家族の会の高橋幸美さんとお話ししました。高橋さんは、2015年に24歳で過労自死した電通社員・高橋まつりさんのお母さまです。まつりさんとのSNSのやりとりには、将来を嘱望された新入社員があまりにも過酷な長時間労働を強いられ、心身が破壊されていく様が記され、「長時間労働は人を壊し、家族の人生も破壊する」と訴えるお母さまの無念はいかほどかと胸が痛みました。
夏からの労働政策審議会の議論では、「過労死ゼロ」は当然のこと、働く人たちが自己実現・自己成長できる労働環境や労働条件の整備が、企業の持続的な成長に欠かせないという認識を共有しながら、働く人一人ひとりがやりがいや働きがいを実感できる職場づくりに向けて、真の働き方改革に向けた見直しの議論を投げかけていきたいと思います。
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