連合「男女平等月間」
〈特別対談〉働く現場から考えるアンコンシャス・バイアス

6月は、連合がジェンダー平等・多様性推進に集中的に取り組む「男女平等月間」だ。今年3月に決定された政府の「第6次男女共同参画基本計画」は、引き続き「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合30%程度をめざす」としているが、日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位と低位が続いている。 その背景要因とされているのが、職場や地域に根強く存在する固定的な性別役割分担やアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)。連合も「男女平等月間」の課題の1つに「ジェンダー・バイアス、固定的性別役割分担意識の払拭、多様性を認め合う意識醸成」を掲げている。働く現場はどんな問題を抱えているのか、一人ひとりはどう向き合えばいいのか。アンコンシャスバイアス研究所の守屋智敬代表理事と畠山薫連合総合政策推進局長が語り合った。
[進行]松田 陽作 連合 ジェンダー平等・多様性推進局長

1985年6月に男女雇用機会均等法が公布されたことを記念して、厚生労働省は6月を「男女雇用機会均等月間」(女性活躍推進法施行の2016年より実施せず)と定め、内閣府は毎年6月23日~29日の1週間を「男女共同参画週間」としている。これと連動して、連合も2004年より6月を「男女平等月間」に設定し、ジェンダー平等・多様性の推進に向けて運動と政策実現の両輪で毎年取り組みを進めている。

2026年度連合「男女平等月間」の課題は、
◇ジェンダー平等・多様性についての理解推進
◇「ジェンダー平等推進計画」フェーズ2の目標達成に向けた取り組み強化
◇誰もが仕事と生活を両立できる職場環境に向けた意識啓発
◇カスタマー・ハラスメントおよび求職活動等におけるセクシュアル・ハラスメントなど、あらゆるハラスメントを防止するための啓発
◇性的指向・性自認(SOGI)の多様性に関する理解促進
◇選択的夫婦別氏制度導入に向けた理解促進
◇ジェンダー・バイアス、固定的性別役割分担意識の払拭、多様性を認め合う意識醸成
◇ジェンダー視点で組織拡大の必要性についての理解促進
◇地域や中小企業などへの周知・啓発活動

守屋 智敬 (もりや ともたか) 
(一社)アンコンシャスバイアス研究所 代表理事

大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所、コンサルティング会社を経て、2015年(株)モリヤコンサルティングを設立し、リーダー育成に携わる。復興庁「新しい東北」先導モデル事業をきっかけにスタートした復興地東北ツアーは現在も継続提供。
2018年一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立し、代表理事に就任。アンコンシャス・バイアス研修の受講者は10万人を超え、育成した認定トレーナーは200名を超える。2021年より、小・中学校でのアンコンシャス・バイアス授業をスタート。2022年には共同研究「がんと仕事に関する意識調査」結果を発表。様々な角度・視点から「アンコンシャス・バイアスに気づこうとすることの大切さ」を発信している。​
​著書に『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』(かんき出版)、『導く力』(KADOKAWA)など

畠山 薫 連合総合政策推進局長

松田 陽作 連合ジェンダー平等・多様性推進局長
[進行]

ジェンダーギャップの背景にあるアンコンシャス・バイアスとは?

松田 男女雇用機会均等法施行から40年、女性活躍推進や両立支援などの制度は整ってきたにもかかわらず、依然として日本のジェンダーギャップ指数は低位にあり、平均家事時間をみると女性の負担が圧倒的に大きい。この背景には何があるのでしょうか。

畠山 政府は「2020年代早期に指導的地位に占める女性の割合を3割程度にする」という目標を掲げていますが、女性管理職(課長相当職以上)比率は13.1%(厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」)、男女の賃金格差は[100:76.6](厚生労働省「令和7年度賃金構造基本統計調査」)と依然として大きく、女性国会議員比率(衆議院)も14.6%にとどまっています。ジェンダー平等が進まない本質的な要因を突き詰めると、やはり「男性は仕事、女性は家庭」「男性は主要業務、女性は補助」という固定的性別役割分担が浮かびあがってきます。

守屋 固定的な性別役割分担は、社会規範や法制度による面もあれば、一人ひとりの判断や行動の結果として解消されずにいる面もあります。そうした判断や行動に、アンコンシャス・バイアスが潜んでいる可能性があります。

■「良かれと思って」の配慮も要注意

松田 改めてアンコンシャス・バイアスとは何でしょうか。

守屋 アンコンシャスバイアス研究所では、「アンコンシャス・バイアスとは何かを見たり、聞いたりした時などに、無意識にこうだと思い込むこと」と定義しています。日本語では「無意識の思い込み」などと表現されています。アンコンシャス・バイアスは、相手に対するものや、自分に対するものなど多岐にわたります。そして、誰にでもありうるもので、日常に溢れています。例えば、「体力的にハードな仕事は女性に向かない」「お茶出しや会議室への案内など、来客の一時対応は女性がするもの」「単身赴任は、男性がするもの」「育休を長期取得する男性社員は昇進を望んでいない」といった性別に関するものだけでなく、「介護中の社員には重要な仕事は任せられないというアンコンシャス・バイアス」や、「私にはムリという自分自身に対するアンコンシャス・バイアス」などもありえます。私自身は、「がんになったら仕事を辞めて治療に専念したほうがいい」という無意識の思い込みが、がん患者の働き続けたいという意思や希望を妨げている可能性があると思ったことがきっかけで、アンコンシャス・バイアスに気づくことの大切さを広く伝えたいと考えるに至りました。

松田 アンコンシャス・バイアスの何が問題なのでしょうか。

守屋 問題のひとつは、アンコンシャス・バイアスに気づかないことにより、「決めつけ」たり、「押しつけ」たりすることが、結果として、相手を傷つけたり、苦しめてしまったり、自分の可能性をせばめてしまうことにつながるという点です。例えば、こんな例がありました。営業職の女性が、育休復帰後総務部に異動になりました。上司は「子育てしながら営業職は大変だろう」と配慮したつもりでしたが、原職復帰を望んでいた本人は強いショックを受けた。「良かれと思って」であっても、その言動にはアンコンシャス・バイアスが潜んでおり、場合によって相手を悲しませたり、モチベーションを低下させたりすることがあるのです。ほかにも、人間関係が悪化したり、生産性が低下したり、イノベーションが起きにくくなったりするなど、個人においても、組織においても、その影響は多岐にわたります。

■異なる価値観を融合していく柔軟性を

畠山 労働組合は歴史ある組織なので、過去の経験から「こうあるべき」という伝統が大事にされてきました。でも、時代が大きく変化し、世代間の価値観のギャップも指摘される中で、過去にとらわれることなく柔軟性をもって課題に向き合うことも必要になっているんですね。

守屋 社会構造が変わり、とりまく環境も変化し続ける中で、企業や組織が発展していくカギのひとつは、多様性の推進だと思います。そのためにもアンコンシャス・バイアスに向き合うことが大切になると思います。過去の経験は貴重な財産ですが、その一方でイノベーションなど変化を阻害する可能性もあります。求められる変化は過去の経験の延長線上にはない可能性があるからです。アンコンシャス・バイアスに向き合うことは、過去を否定することではなく、未来に目を向けて新しい景色を見ようとすることだと思います。

職場のアンコンシャス・バイアスへの対処法とは?

■私が変われば、職場が変わる

松田 職場に根強く残る固定的性別役割分担に潜むアンコンシャス・バイアスにどのように対処していけばいいのでしょうか?

畠山 例えば、男性の育休取得率は40%台に上昇していますが、実際は取得期間も短く、いまだに残る、家事・育児は女性がするものという価値観が男性の育休取得を阻む壁になっている場合もあります。

守屋 アンコンシャス・バイアスを完全にはなくすことはできませんが、上書きはできるように思います。ある管理職の方の事例ですが、育休取得を申し出た男性部下に「男性なのに?妻がいるのに」という発言をしたそうです。すると、相手の表情が曇り、そこから相談が来なくなったそうです。その発言には、「家事・育児は女性がするもの」というアンコンシャス・バイアスが潜んでいた可能性があったと振り返られていました。また、ある社員の方は、「私は男性だから育休は取れない」というアンコンシャス・バイアスがあり、結果として自ら育休申請をすることができずにいたそうです。こうした事例から学べることは、男性の育休取得を阻む壁は、私たち一人ひとりに可能性があるということです。逆にいえば、私が変われば、周りも変わるかもしれないということです。相手や周りが変わる必要があると考えるのではなく、自分自身がどう変わるかを考える。そこから始めることが、職場が変わるカギになると思います。

畠山 日本には、男性主体の職場構造や労働組合の体質が根強く存在し、それが業務の役割分担や責任の分かち合い方にも影響しています。連合は毎年「労働組合における男女平等参画の実態調査」を実施していますが、女性組合員比率は38.7%に増えているのに、女性役員比率は17%。この構図を変えることができれば、労働組合や社会の景色も変わってくると思うのですが…。

守屋 男性主体となる構造の背景には、その組織に関わる一人ひとりのアンコンシャス・バイアスが影響している可能性があります。組織の役員にもあるかもしれませんし、女性の皆さん自身にも「自分には無理だ」などのアンコンシャス・バイアスがあるかもしれません。現実に家庭内での固定的な役割分担から家事・育児を主に担っている女性は、非正規雇用や短時間勤務を選ばざるをえないという状況に置かれていることもありえます。しかし、そうした選択が処遇や仕事の評価に影響するとなれば、職場における構造的な問題は、家庭も含めた社会全体の構図の中でとらえていく必要があると思います。

畠山 子育て中の女性が責任ある仕事から外れる「マミートラック」のように、女性への配慮が女性の成長を奪っている構造もあるということですよね。これにはどう対処すればいいのでしょうか。

守屋 「マミートラック」に潜んでいるアンコンシャス・バイアスの影響を防ぐカギは「対話」です。例えば「育児中の人には責任ある役職は無理だ」と頭ごなしに決めつけるのではなく、相手の意向はどうか?をまずは確認してみるとアンコンシャス・バイアスに気づくことができるかもしれません。もし挑戦したいという意向があるのであれば、どうすれば任せられるのかを対話しながらともに考えていく。対話によって、職場で一人ひとりが活躍する機会を広げていくことが大切だと思います。

畠山 「女性だから」とひと括りにするのではなく、一人ひとりのキャリアをきちんと見て対応することが大事ですよね。労働組合でも、「女性に声をかけても断られる」という話を聞くのですが、「あなただからこの役員をやってほしい」と丁寧に伝えていなかったりする。自分のことを見てもらっているっていう実感があってこそ、チャレンジしてみようと思えるんです。

守屋 アンコンシャス・バイアス研修を行ったある労働組合では、過去に女性に役員就任を断られたので、それ以来声をかけなくなったと。でも、研修を受けて「女性はみな断る」というのは無意識の思い込みだと気づいて声をかけるようにしたら、引き受けてくれる女性も出てきた。まさに、対話によってアンコンシャス・バイアスが上書きされたという事例です。

畠山 やはり労働組合の活動は信頼関係だと私は思うんですね。日頃から向き合って対話をしていると信頼関係が育まれ、役割や役職を与えられた時に力が発揮できる。逆に言えば、女性が役員をためらうのは、信頼関係が十分に築けていないという問題もあるのではないでしょうか。責任は自分1人で背負うものという発想ではなく、チーム全体が支え合い、成長していくものと理解されれば、多様な人たちがリーダーになっていけると思います。

守屋 私は、信頼とは未来を信じることだと思います。未来は不確かなので、不安や覚悟を伴うことがあるかもしれません。しかし、仕事を任せる時は、その人のこれからの可能性を信じて委ねる必要があります。任された側もまた、その信頼を受けてチャレンジすることが求められます。互いに未来を信じること、つまり互いを信頼し合うことから、新たな活躍の機会は生まれてくるのだと思います。大切なのは、「この仕事の適任は誰か」を考えるだけでなく、「その人が活躍できる仕事は何か」をともに探していこうとすることだと思います。「女性には役員は任せられない」や「自分は女性だから無理」といったアンコンシャス・バイアスがあったとしても、「声をかけない」「断る」という判断の前に、「できるかもしれない」という可能性に目を向けた対話を重ねることで、アンコンシャス・バイアスが上書きされ、活躍の幅が広がるのではないでしょうか。そうした対話の積み重ねは、「私は必要とされている」という、一人ひとりの存在意義を大切にする職場づくりにもつながると思います。

社会全体のアンコンシャス・バイアスへの対応は?

松田 「女性は理系に向いていない」など社会全体に刷り込まれたアンコンシャス・バイアスも根強くありますが、政府や地方自治体に求められる取り組みとは?

畠山 政府は「日本成長戦略」にジェンダー視点を入れる観点から、「女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)」に、①女性の生涯にわたる健康支援、②女性が活躍でき、暮らしやすい地域づくり、③成長戦略分野における女性の活躍を掲げていて、連合としても具体的な進め方について意見反映を行っているところです。
女性が地方から離れてしまうことについては、進学・就職の選択肢が少ない、公共交通機関、医療機関が不足して生活もしづらい、結婚や出産、子育てに関する周囲からの干渉も重なり、生きづらさを感じるとの声を聞いています。地域における女性活躍を推進するためには、女性たちによる労働組合の役割を発揮していくことだと思います。

守屋 地方では、教育・仕事の機会創出や生活の利便性の向上が課題としてあると思いますが、それに加えて、地域の関わり方も重要なテーマであると思います。例えば、「女性なら進学しなくてもいい」「結婚したら仕事をやめて家庭に入るものだ」といったアンコンシャス・バイアスの影響を受けると、息苦しさを感じ、この地域ではくらせないとなる可能性もあるかもしれません。もう一つ大切なのは、地方自治体からのメッセージです。例えば、公的広報物で使われているイラストが、「男性が仕事をしていて、女性が家事をしている」絵ばかりだったりすると、それがメッセージとなって伝わり、人によっては、息苦しさを感じてしまう可能性があります。

畠山 広報やメディアを通じて生まれるアンコンシャス・バイアスは気になります。例えば、震災や豪雨災害への救援ボランティアにおいても被災地では、女性は炊き出しを担当し、男性は泥のかき出しをしているという場面がありますが、防災対策におけるジェンダー視点を浸透させる必要があると思っています。

守屋 防災や災害時の避難活動などにおいても、ジェンダーの視点はとても重要だと思います。例えば避難所において「リーダーは男性がやるもの」「会議は男性だけでいい」といったアンコンシャス・バイアスがあると、必要物資の判断が男性の視点に偏ってしまい、結果として女性が困ることにつながったケースが過去にも見受けられました。防災や災害時に限らず、地域や職場で、一人ひとり違いがある多様な人たちの出番があると、そこから見落としに気づいたり、新しい発想が生まれたりすることがあります。自分と「違う」意見は拒否したくなることがあるかもしれません。でも、完全に受け入れられなくても、「異なる」意見として受け止めていくことが大切だと思います。

畠山 受け止める、ですね 。

守屋 価値観や考え方など、一人ひとり違います。どれが正しいかではなく、まずそれぞれの「違い」を互いに尊重する。そうすると、そこからいろいろな新しい考えや発想が生まれてきて、豊富な選択肢の中から判断することができるようになると思います。アンコンシャス・バイアスに向き合い続けていくことは、安心して自分の意見を言える、異なる意見を歓迎できる環境をつくることにもつながると思います。

■変わりたいと思える気持ちが多様性の推進力に

松田 働く人たちにメッセージを。

守屋 アンコンシャス・バイアスは、性別に関するものだけでなく、世代、出身の国・地域など多岐にわたり、他者に対しても自分自身に対しても様々なものがあります。アンコンシャス・バイアスは完全になくすことはできませんが、気づこうとすることで可能性が広がります。実際、子どもたちにアンコンシャス・バイアスの授業を届けると、「夢をあきらめるのをやめました」「自分の意見を言ってみようと思います」といった声を多数いただきます。大人である私たちも、ともに気づこうとすることで、その可能性が次世代へと広がり、より良い変化を生み出せると実感しています。

畠山 連合では「男女平等月間」にあわせて、アンコンシャス・バイアスに気づくための取り組みを行っています。こうした取り組みが、一人ひとりがアンコンシャス・バイアスを認識するきっかけとなれば、ジェンダー平等・多様性を推進する大きな力につながると考えています。変化をおそれることなく、今後も活動のさらなる広がりをめざしていきたいと思います。

松田 たくさんの気づきをありがとうございました。

(構成:落合けい)