相談されたら
なぜその人が苦手なのか【26】

(季刊連合2023年夏月号転載)
皆さま、こんにちは。
新年度に環境が変わった方も、少し経ってだいぶ慣れてきたところかと思います。そういう中で、今回はどこの職場にもいる「苦手な人」について考えてみたいと思います。
苦手な人とは上手に距離がとれると良いですが、同じ職場であれば接する機会が多くて、いつも距離をとるわけにもいかないですね。なぜその人が苦手なのかわかるでしょうか?こういうところが苦手、とはっきりわかればまだ良いのですが、なぜ苦手なんだろう?と自分でもよくわからないこともあると思います。別に悪い人でもないのに、どうしてもムキになって反論してしまう、熱くなってしまう、などという相手がいるかもしれません。
自分自身の嫌いな性質と似た性質を持っている人が嫌、ということがあるのは比較的よく知られていますね。それと似ていてちょっと違うものに、親と似ているところがある相手が苦手、という場合があります。
親というのは子どもにとってとても近い、重要な存在です。幼い頃はもちろん、思春期・青年期に至るまで、大きく影響を受ける相手です。そういう相手ですから、親には愛情を持つと同時に、あれが嫌だった・これが嫌だった、ということも必ずあるはずです。そして、自分の親の嫌だった性質と似ているところがある相手を、嫌い・苦手と思うことは少なくありません。
たとえば親が権威的で、子どもを自分の思うようにコントロールしたがるタイプだったとします。そういう親を持っている人は、権威的な人に対して、表面的には上手に従うかもしれませんが、内心ものすごく嫌悪感を持っている、ということがあります。それが上司だったら、かなり大変です。上司が権威的で理不尽に指示してくると感じると、やたらに嫌悪感が生じる、という具合です。もしも、周囲の他の人はそれほど気にしていないのに、自分だけがとても気になっているような場合には、そう感じるのには自分だけの理由があるかもしれない、と立ち止まってみると良いかもしれません。
目の前の相手に、自分の過去の重要な人物を映し出して見てしまう、というのは誰でもあることです。精神療法(カウンセリング)では必ずセラピストとの間で起こる現象として知られていて、特に精神分析的な技法では、その現象を患者さんを理解するための大事なツールとして扱っているくらいです。
「親のようなところがある苦手な相手」との関係で、相手とうまくやっていくには、実際には相手は親ではない、ということに立ち戻ることが大事です。昔こういうことをよく親に言われて、カチンときていたなと気が付いて、でも現実に今、相手はどう思って行動しているのだろう、と相手そのものを見ることです。そうでないと、子どもの時に親に対して感じたように感情がヒートアップして、やたらに熱くなってしまいますが、相手そのものを見ることによって、目の前の現実に余計な感情を重ねずに対応しやすくなります。カチンときたら、まずは立ち止まってみてください。
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矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。