うまくいかない時の考え方 
こころにホットタイム【25】

(季刊連合2023年秋号転載)

皆さま、こんにちは。お仕事は順調でしょうか。順調であれば何よりですが、そんな時ばかりではないでしょう。仕事に限らず、日常生活でもいろいろなことがおこります。自分だけではなく、家族のことでもいつも順調とは限りませんね。
うまくいっていない時こそ、考え方が大事です。たとえば仕事で失敗をした時、失敗したこと自体にショックを受けてクヨクヨしてしまう人がいます。クヨクヨしてしまう人は、その事柄ではなく「自分が失敗した」ということにこだわってしまいます。自尊心が傷つき、人からどう思われるか気にしたり、自分を責めたりします。
もしも、「こんな失敗をするなんて自分はダメな人間だ」「部署の人も自分をダメな人間だと思っているだろう」「きっとこれからも失敗して会社にいられなくなる」とまで考えてしまうような場合は、うつ病の症状である「否定的思考」が出現している可能性があります。うつ病では自分自身に対しても将来に対しても、非常に否定的な考え方になってしまうことが特徴です。それは絶望感や自殺願望につながり得る思考ですので、早めに精神科を受診することが望まれます。うつ病では視野が狭くなっているので、悲観的な思考が高まりやすい状態なのです。
一方、心の健康度の高い人は、「失敗してしまった」ということにこだわりません。「してしまったことは仕方がない」と気持ちを切り替えて、どこをどう失敗したか、その事柄にフォーカスして失敗の挽回方法を考え、次の対策を考えます。また、視野を広く持って多面的に考えることもできます。仮に人からの評価が悪くても、それがすべてとは考えずに、さまざまな角度から振り返ることができます。自分が失敗したことにこだわって気が滅入ってしまう人、そこにはこだわらず事柄にフォーカスして事態を収拾し、むしろ糧にしていく人、この違いはどこから来るのでしょうか?
ものの考え方は元々の性格の他に、子どもの頃からの育ち方や環境に影響を受けます。子ども時代に親との死別や離別など大きな喪失を経験していることが、その後の人生で大事なものが失われた時に悲観的思考に傾く、素地となっている場合があります。仲間との関係が大事な学童期や青年期に、仲間から拒絶され続けるような体験も同様です。
親にいつも人と比較されてきた人は劣等感を感じやすいですし、親に認められていないと感じてきた人は、人に認められているか否かに敏感です。
過去の経験は現在の価値観や思考に影響を与えますが、過去は変えられなくても考え方は変えることができます。もし何かうまくいかない状況でクヨクヨしやすいと気づいたら、まずは立ち止まって、なぜだろうと考えてみましょう。ここはクヨクヨするところ? それより事柄にフォーカスして対策を考えるところではないか? 感情的にどっぷりはまり込まずに、少し距離をとって自分を眺めてみることから始めてみましょう。

矢吹弘子 やぶき・ひろこ
矢吹女性心身クリニック院長
東邦大学医学部卒業。東邦大学心療内科、東海大学精神科国内留学を経て、米国メニンガークリニック留学。総合病院医長を経て1999年心理療法室開設。2009年人間総合科学大学教授、2010年同大学院教授、2016年矢吹女性心身クリニック開設、2017年東邦大学心療内科客員講師。日本心身医学会専門医・同指導医、日本精神神経学会専門医、日本精神分析学会認定精神療法医、日本医師会認定産業医。
主な著書:『内的対象喪失-見えない悲しみをみつめて-』(新興医学出版社2019)、『心身症臨床のまなざし』(同2014)など。

「相談されたら こころにホットタイム【24】」はこちら
https://www.jtuc-rengo.or.jp/rengo_online/2026/05/20/9305