途上国で健康と平和広げる人材を育成
~「連合・愛のカンパ」が支える草の根支援~

連合は毎年、組合員から「連合・愛のカンパ」を募り、社会貢献活動に取り組む約100の団体を助成している。寄付先の一つであるNGO「(公財)PHD協会」(神戸市)は、アジア・太平洋地域の人材を日本に招いて保健衛生・教育などのスキルを身につけてもらうほか、日本で困難を抱える外国人の支援も担ってきた。「愛のカンパ」に支えられてきた、同協会の活動を紹介する。
研修生を招いて日本で教育 地域活動のけん引役に


同協会は1981年、ネパールで医療活動を行ってきた岩村昇医師らによって設立され、2003年から「愛のカンパ」の助成を受けてきた。設立のきっかけは、岩村医師の「平和と健康を実現するには、現地の人材育成から始めなければいけない」という思いだったと、事務局長の坂西卓郎さんは説明する。
「患者を治療して結核などが減っても、数年後には再び蔓延してしまう。病気に負けない体を作るには、栄養状態や衛生環境の改善、そしてそれらを住民の立場で指導する人が不可欠だと気づいたのです」
農作物の収量を増やして十分な食料を確保したり、手洗いや歯磨きなど清潔さを保つ習慣を浸透させたりするには、時間をかけた根気強い取り組みが必要だ。このため、地域を良くしたいという志のある住民を、1年間日本に招いて必要なスキルを学んでもらい、地域での活動をけん引してもらうことにしたのだ。
設立当初は、感染症や栄養不良、乳児死亡率の高さなど命に関わる問題を解決するため、保健衛生や有機農業に関わる研修を中心に実施していた。近年は衛生への観念や食料不足は改善しつつあるものの、格差の拡大で貧困層が栄養の偏った安価な食品に頼らざるを得なくなり、高血圧や糖尿病が増加しているという。こうした中で研修内容も、生活習慣病の改善などへと変化してきた。
さらに近年、力を入れているのが教育支援だ。2023年以降は軍事政権下のミャンマーから僧院学校の教員を招き、「教えるスキル」などを習得してもらっている。
「僧院学校は、貧困層の子どもに無償で教育を行ってきましたが、軍事政権の中、資金難で教員の確保・育成が難しくなっています。日本で平和的な教育を学んでもらうことは、今必要な人材を育成するだけでなく、将来の民主化を見据えた支援でもあります」
母国への思い語ることで成長 研修生と日本人の「学び合い」も
協会は活動報告会などを開き、研修生が日本の若者や支援者らに、母国の現状や自分の活動を伝える機会を設けている。より多くの日本人と接することで、「日本の人の後押しを受けて学んでいる」という自覚が生まれ、責任感や使命感が高まるのだという。
「帰国後のビジョンや自分の考えを繰り返し語ることによって、やりたいことが明確になり顔つきも変わります。1人の研修生はある日突然、つたない日本語ながら力のこもった言葉で思いを語れるようになり、多くの人を感動させてくれました」
地域貢献への思いを熱く語る研修生の姿は、聞き手の日本人にも大きな刺激と学びをもたらしている。2025年、ネパールから聴覚障害のある研修生を受け入れた際は、「日本人ボランティアが意思疎通のために手話を学ぶなど、学び合い、支え合いの輪を作る貴重な機会になりました」。

ただ、受け入れる側には苦労も絶えないという。研修生の通訳や生活サポートを務める研修担当の濱宏子さんの元には、研修生が「同期の子とうまくいかない」などと涙ながらに訴えてくることも。そんな時は、濱さんやスタッフが粘り強く話を聞き、本人をケアしているのだそう。
さらに、こうした中で濱さんは「ボランティアの1人に『こんなに小さいレベルのトラブルを解決できなくて、国家レベルの平和が実現するわけはない』と言われたことがあります。全くその通りだと思いました」と、新たな気づきを紹介してくれた。
研修生は46年間の活動で340人を超え、母国でNGOや診療所、学校を作ったり、政治家になったりした人も。2025年にミャンマーで大地震が発生した時も、元研修生が集まって支援金集めや仮設住宅の建設、食料支援に奔走した。 濱さんは「ミャンマーを訪れた時、日本では何かと手のかかった研修生が、子どもたちの教育や食事の支援に打ち込んでいる様子を目にしました。研修生の帰国後の奮闘を見ると、いつも、活動してきてよかったなと思います」と話した。

パワハラやDV被害、難民 苦境に陥る外国人に住まいを提供
2020年からは、住まいのない外国人を受け入れるシェアハウス「みんなのいえ」も運営している。外務省の受け入れ事業で神戸に来たミャンマー人難民が、住居の確保に苦労していることを知った坂西さんが「住まいがなければ就職や子どもの学校入学も難しい。支援できないか」と考えたことがきっかけだ。
「みんなのいえ」は、難民やパワハラを受けた技能実習生、DV被害者の親子など、困難を抱えた外国人を幅広く受け入れている。これまでに警察や行政の紹介、同国人の口コミなどを通じて50人以上が利用した。
インドネシア人のチャンドラ・プラタマウィージャヤさんは2025年のクリスマスに、仕事と住まいを同時に失い、協会に助けを求めてきた。2023年に技能実習生として来日し、愛知や京都で農作業に従事したが、残業代未払いなどの不当な扱いを受けた上、自主退職の書類に無理やりサインさせられ、寮を追い出されたのだ。今は新たな実習先を探しており、「日本で大型運転免許を取得して特定技能1号の在留資格を取り、運転手の仕事をしたい」と、将来の展望を語った。
坂西さんは「実習生の就労環境は少しずつ改善していますが、農業や漁業などの職場では今も一部の雇用主に『外国人は安い労働力』という意識が残り、パワハラや低賃金が横行しています」と話す。漁業の実習生の実例では、出漁中は漁や食事の準備、船員のマッサージなどで寝る間もなかったのに、陸にいる間は無給なため、月給が10万円に満たなかったというケースもあった。中には母国での迫害や雇用主のパワハラによって、メンタル疾患を抱えてしまった人もいるそうだ。
入居者は協会の支援を受けながら、新たな職や住まいを探す。しかし自立には在留資格の問題や仕事探し、住居の賃貸契約など多くのハードルがあり、特に本人の就労や定住への意欲が低い場合、支援はぐっと難しくなってしまう。「難民の中には望んで日本に来たわけではない人、母国で築いた高いキャリアが途切れ、失意の中にいる人もいます。こうした人は日本での暮らしに前向きな思いを持てず、地域に出ても住民と摩擦を起こすなどして、定着が難しくなることがあります」(坂西さん)
また本人に働く意欲があっても、難民や技能実習生の境遇に理解のある職場は、簡単には見つからない。
「私たちは、登録支援機関として企業と外国人のマッチングも担っています。外国人にとって働きやすい職場を開拓すると同時に、企業の人手不足も解消し、働き手と企業のウィンウィンの関係を作りたいと考えています」(坂西さん)

「ここがだめなら野宿」 外国人の“最後の砦”
物価高騰も、立場の弱い外国人を直撃している。同協会は月1回、お米などの食料や生活必需品を配布しているが、利用者は増え続けているという。
「物価高は組織運営にも影を落としており、事業費がかさむ中で貯蓄を取り崩し、赤字を補填しているのが実状です。収支を改善するには支援対象者を絞り込まなければいけませんが、苦境に陥り公的支援も受けられず、『最後の砦』として頼ってくる人たちを、断るわけにはいきません」と、坂西さん。

さらに「先日も、末期がんで何度も緊急搬送された人が『ここがだめなら野宿しかない』と協会を頼ってきました。警察などから『行き場のない外国人を保護したので受け入れてほしい』と依頼されることもしばしばで、運営は苦しくても引き受けずにはいられません」とも。
こうした中で「愛のカンパ」には「20年間にわたって組織全体を支えていただき、言葉では言い表せないくらいありがたいと思っています」と、坂西さんは感謝の思いを口にした。研修生が連合での報告会などを通じて、働く人が連帯する「労働組合」の存在を知ることも、帰国後のコミュニティづくりの参考になっているという。
世界では、ミャンマーの軍事政権や米国によるイランへの軍事攻撃など、暴力と破壊のニュースばかり目立つが、ミャンマーをはじめ各国の元研修生たちは、帰国後も逆境に負けず、地域に根ざした活動を続けている。坂西さんは「小さなNGOが平和を訴える声はなかなか社会に届きませんが、連合のような大きな組織と一緒に声を上げられれば、少し社会を変えられるかもしれません」と期待を語ってくれた。

(執筆:有馬知子)