連合リーダーの素顔に迫る Season2
第4回 安達 正美 連合副会長・JP労組中央執行委員長

Season2 第4回は、第19回連合定期大会で副会長に選出された安達正美JP労組中央執行委員長にインタビュー。「現場の声を大切に」という思いを胸に郵政民営化やJP労組結成など激動の時代をくぐり抜け、今、時代の変化に対応した「将来ビジョン」の具現化にチャレンジ中。飄々として動じない、そのしなやかな強さの秘密に迫ります。

安達 正美(あだち まさみ)連合副会長・JP労組中央執行委員長
1982年郵政省・足立郵便局入局。1999年全日本郵政労働組合(全郵政)東京地方本部執行委員。2006年職場復帰、2007年JP労組東京地方本部執行委員、2013年JP労組中央執行委員、2017年JP労組東京地方本部執行委員長、2021年JP労組書記長、2025年JP労組中央執行委員長、連合副会長就任。

「信書」を扱う使命感を持って

—労働運動を始めたきっかけは?
人気ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)のロケ地として知られる東京・足立区の出身です。当時は学校の雰囲気も落ち着いているとは言えず、私自身の中高生時代は、必ずしも勉学に打ち込める環境ではありませんでした。高校を卒業したら堅実に働きたいと国家公務員を志望し、郵政職員採用試験に合格。足立郵便局の集配業務に配属されました。郵便配達は「信書」を扱います。誤配や遅配があってはならないという使命感を持って仕事に励みました。

当時、労働組合は、総評系の全逓(後にJPU)と同盟系の全郵政という2つの組織がありましたが、私が加入した全郵政は少数派。人数が少なかったこともあり、早々に支部役員を務めることになり、そこから長きにわたって労働運動に携わることになりました。

—支部としてどんな活動を?
私たちは、ユニバーサルサービスを担う者として適正に業務が遂行できるよう、職場で声を上げていこうと訴えていました。また、賃金は人事院勧告に拠りますが、その他の労働条件改善については活発に交渉を行いました。40年も前のことですから、ボールペンを各自1本支給してほしいという要求から始まり、冬場の軍手、風呂場のドライヤー設置、福利厚生のレク用具など、組合員の声を要求にして実現。ここは、2つの労働組合があることで互いに切磋琢磨した面もあったと思います。23歳で支部書記長となり、26歳になる年に郵政の研修所で半年間の訓練を受けることになりました。

人生の転機となった研修所

—研修所での訓練とは?
郵政事業の中堅職員を育成する研修制度。全寮制で厳しい規律が求められます。郵便・貯金・保険の3事業を体系的に学ぶほか、法律や経営学などの一般教養もあるハードなカリキュラムで、クラブ活動も全員加入。中学ではサッカー部、高校では軟式テニス部でしたが、研修所では未経験の弓道部と茶道部に入部。作法や技術だけでなく、自分自身と向き合い、精神を集中することを学びました。勉強はとにかく大変でした。早朝から深夜まで勉強しても追いつかない。でも、とことん追い詰められながらも、それを乗り越える経験をしたことで、人生で乗り越えられないことはないと思えるようになりました。

寮生活で苦楽を共にした同期生は、その後郵便局長や経営幹部になっていきましたが、今も困った時には連絡しあえる関係です。研修所での半年間は、私の人生の中で大きな転機になりました。

—研修修了後は?
1991年、麹町郵便局に異動し、郵便の内務や営業などを担当しました。都心にある集配局なので市場は大きく、様々な郵便商品活用のご提案を行うなど、現場での営業にあたりました。労働組合では支部の副支部長に。3年ほどして昇任試験に合格したので、また研修所で3カ月間の研修を受けました。昇任後は荒川郵便局に配属され、郵便の内務や集配職場の事務などを担当し、同時に東京地方本部の非専従役員に。専従執行委員となったのは、5年後の1999年でした。

単一労働組合として発足したJP労組

—東京地方本部の役員として取り組んだことは?
郵政省の時代から、郵便・貯金・保険という3つの事業は独立採算で運営され、人件費や諸経費に税金は一切使われていません。だから、適正に業務運行を行い、お客様に信頼を得て郵便局を利用していただけるよう努めなければいけない。ユニバーサルサービスとして公益性を守りつつ収益性も上げていくことは、労働組合にとっても大前提の課題であり、そのために現場を支える組合員が働きやすくなる環境整備に取り組みました。

しかし、経済低迷が長期化する中、行政改革として郵政民営化が提起され、公務員バッシングが深刻化。いったんは日本郵政公社に移行することで決着しましたが、2001年に小泉内閣が成立すると、再び「郵政民営化」論が浮上。労働組合は共闘して反対闘争を展開しましたが、力及ばず。2007年10月1日、日本郵政公社は、日本郵政、郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命に民営・分社化されました。私は、その前年に専従役員歴7年(郵政省では、組合専従期間は通算で7年が上限)となったことから荒川郵便局に復帰。職場で民営・分社化の瞬間を迎えました。

—その時の職場の状況は?
これまでの郵便局は、郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の4つの会社に分かれるので、事務機器も机や椅子もボールペン1本に至るまで、どの会社に承継されるのか振り分けられ、債権差押えのような札がペタペタ貼られていきました。各窓口は会社ごとに仕切られ、内線電話も使用不可。そんな異様な光景が目に焼き付いています。

その直後の2007年10月22日、日本郵政公社労働組合(JPU)と全日本郵政労働組合(全郵政)が統合して、JP労組を結成。日本郵政グループ関連企業で働く仲間で構成する単一の労働組合として発足しました。組合員は分社化に戸惑っていましたから、労働組合が職場に横ぐしを入れようというこの判断は、正しかったと思います。私はJP労組発足後に東京地方本部執行委員(専従)として労働組合に戻りました。

現場の健全性を損ねては本末転倒

—そこではどんな仕事を?
民営・分社化以降、収益重視の経営判断が強まる中で、JP労組は「現場の健全性を損ねては本末転倒」という立場で、無理な営業目標や過剰な負荷の是正を求めていきました。私は、新たに出発した組織の基盤をつくる青年活動や教育活動などを主に担当。若い組合員の可能性を見出す活動はやりがいがありましたし、組織統合して一緒にやっていけるという確信も持てました。

研修を運営する中で、ある発見がありました。懇親会のテーブルを血液型別に4つ設置して行動観察したところ、A型は同じテーブルでつつましく飲んでいますが、B型とAB型はテーブルからいなくなる。O型はその状況をみて他のテーブルに移動しバランスの取れた再配置を試みる。興味深いことに何度やっても同じ現象が起き、リーダーやそのパートナーの傾向を見出し、そこから支部長と書記長のベストな組み合わせの仮説も立てました。

—2013年には中央執行委員としてJP労組中央本部へ。
ずっと郵便関係の仕事一筋だったのに、中央本部ではかんぽ生命の労使交渉を担当することに。最初は戸惑いましたが、全国の地方本部に出向いて現場の声を聞き、会社側からもレクチャーを受けながら、交渉にあたりました。知らないからこそ、現場の声も会社側の話もきちんと聞いて交渉を進めることができたと思います。4年後の2017年に東京地方本部の執行委員長に就任。 本当はそこで“上がり”との思いもありましたが、2021年に中央本部書記長となり、2025年には中央執行委員長を務めることになりました。

郵便局ネットワークを地域の拠点に

—今、力を入れていることは?
人口減少・超高齢化、デジタル化が急速に進展する中、郵政事業をとりまく環境は厳しさを増しています。一昨年、30年ぶりに郵便料金の値上げを行いましたが、残念ながら郵便事業は収益が伸びていく構造ではありません。ひたすら営業努力を重ねてきましたが、働く者への負担は限界にきています。変化に対応して柔軟に事業改革を進めなければ、持続可能性はない。そこでJP労組では、2023年から「将来ビジョン」の検討を進めています。文書の電子化が進んだデンマークでは昨年末に郵便事業が廃止されましたが、一度失われた仕組みは元に戻せません。そうした危機感のもと、全国2万4千の郵便局ネットワークを活かし、今後の「働き方」「事業のあり方」と、「それらと整合的かつ補完的な人事諸制度」について総合的に検討を進めています。

具体的には、農業とのコラボや見守りサービスなど様々なアイデアの具体化や、雇用形態間の格差是正に向けた検討も進めており、組合員が将来にわたって安心して働き続けられる環境づくりに取り組んでいます。

家族と過ごす時間を大切に

—休日の過ごし方は?
テレビっ子なんです。寝ている時もつけっぱなし。ニュース番組を観ながら眠りについた時は、夢の中で大事件が起きて飛び起きたり、刑事ドラマを観ていた時は、夢の中で犯人を追いかけたり…。ドラマは、肩の凝らない作品が好みです。

—大事にしていることは?
仕事の上では「逃げないこと」。現場で勤務していた時は損害賠償やクレーム対応も担当していましたが、クレーム電話が連続すると逃げたくなる。でも、逃げていては解決しない。逃げないで向き合うことこそが解決への近道だと学びました。

もう1つは、「家族と過ごす時間」。若くして組合役員になったので、時間がないからこそ家族との時間は大事にしようと心に決めました。実は、6カ月間の研修所に入った時は、3カ月前に双子が産まれたばかりで、上の子は3歳でした。妻には感謝しかありません。今年の正月は、孫の書き初めの宿題をみんなで一緒にやりました。妻と双子の息子は、いつのまにか熱烈な阪神ファンになっていて、いつもテレビの前で選手の応援歌を歌いながら応援しています。とにかく家族仲が良くて、私の人生の支えです。

—連合副会長としての抱負を。
連合の「未来づくり春闘」が掲げているように「賃上げがあたりまえの世界」をめざしたい。人手不足が深刻化する中で、AI導入や多様な人財の活用が進められていますが、連合は、それによって働き方がどう変わるのかを日本全体の課題として捉え、対応を考えていく必要があります。積極的に意見反映に努めていきたいと考えています。

(構成:落合けい)