新シリーズ 「職場から始めよう運動」取り組み事例ファイル
[File.2]JAM・北田金属工業所労働組合
「労働組合があること」を会社の「取り柄」に!

「職場から始めよう運動」とは、連合がすべての働く者の処遇改善をめざして2010年からスタートした取り組みだ。「仲間を増やす」ことは労働組合活動の基本。でも、何から始めればいいのか分からないという現場からの声を受けて、「まずは同じ職場で働く非正規雇用の仲間の課題に向き合おう」と始まった。以来約15年間、パートタイマー・契約社員の組合加入や処遇改善、関連企業での労働組合結成のみならず、若者や外国人労働など様々な取り組みが積み重ねられ、「取り組み事例集」の作成やシンポジウムの開催を通じて共有してきたが、もっと広くタイムリーに発信していきたいとRENGO ONLINEでシリーズ化することに。
第2回は、連合大分への労働相談をきっかけに、いちから労働組合を結成した「北田金属工業所労働組合」の坂本誠一郎執行委員長と、その支援にあたったJAM九州・山口の金村隆司書記長にインタビュー。どんな経緯で組合結成に至ったのか、今どんな活動を進めているのか、これからの課題は何か、じっくり話を聞いた。

北田金属工業所労働組合

2022年5月、(株)北田金属工業所大分工場の従業員が「北田金属工業所労働組合」を結成し、JAM九州・山口/大分地域協議会に加盟。組合員数は約50名(正社員・契約社員)。(株)北田金属工業所は、1968年創業の部品メーカー。奈良県に本社をおき、同県内の工場でプレス溶接加工部品を生産してきたが、2007年8月、新たに大分県豊後高田市に大分工場を設立。自動車部品の設計・製作まで対応できる生産システムを構築した。

ものづくり産業労働組合JAM/JAM九州・山口

JAMは金属機械産業の約2000の単位労働組合が加盟する産業別労働組合。加盟組合の約6割が組合員数100人以下の中小組合であり、日本のモノづくりを支えるサプライヤー(部品供給者)を数多く組織している。こうした加盟単組の日常活動をきめ細かにサポートするために、全国に17の「地方JAM」をおき専従者を配置。JAM九州・山口は、福岡県、佐賀県、大分県、熊本県、山口県をカバーする地方JAMで、管内に地域の活動拠点となる地域協議会を設置している。

左から金村隆司(かねむら たかし)JAM九州・山口書記長、坂本誠一郎(さかもと せいいちろう)北田金属工業所労働組合執行委員長、王寺佑介(おうじ ゆうすけ)JAM九州・山口特別執行委員

離職者が相次ぎ疲弊する職場

—職場を良くするために労働組合を結成すると決断された、その思いとは? 
坂本 北田金属工業所は、奈良県で創業された部品メーカーですが、大手自動車各社の九州進出に対応して、2007年に大分県豊後高田市に大分工場を建設し、主に自動車部品を製造しています。私は、大分工場設立時に入社し、今年で勤続19年。会社での役職は生産技術課の係長です。

職場では、10年ほど前から人手不足感が強まっていました。プレスや溶接の製造現場は、夏は42度を超える過酷な環境ですが、給料やボーナスは低く、休みも少ない。離職者が増えて慢性的な要員不足になり、過重労働から製品の不良率が高まって取引先からクレームが相次ぎ、さらに離職者が出るという悪循環が起きていました。若手社員が定着しないだけでなく、大分工場設立時から頑張ってきた人たちも耐えきれずに辞めていく。実は私自身も退職届を出した一人です。上司に引き止められ残ることにしましたが、辞めていく人たちの気持ちはよくわかりました。

そんな状況の中で、このままでは大分工場は立ち行かなくなるという強い危機感をもったAさんが、2018年11月、連合大分の労働相談にアクセスしたんです。Aさんも設立時の入社で私とは同期ですが、年齢的には大先輩。そんなAさんから呼び出されて連合大分の地協事務所に行くと、他にも同僚数人が来ていて、連合大分の担当者から「これ以上離職者を出さないために、労働組合をつくって会社を良くしていきませんか」と言われました。それが、きっかけです。当時、私自身は「労働組合のことはよくわからないし、本当につくれるのか」という思いもありましたが、職場の状況には危機感を持っていたので結成準備会に参加することに。連合大分から、「JAM九州・山口」を紹介され、金村書記長のもとで勉強会が始まりました。労働組合とは何かというレクチャーが続きましたが、金村書記長は、おそらく私たちが本気で組合を結成する気があるのか、その力量があるのかを見極めていたんじゃないかと思います。

ベースの構築に時間をかける

—JAM九州・山口が支援に動いた経緯やその方針は?
金村 連合大分から「中小のモノづくりの職場から相談が来ているので力を貸してほしい」と言われ、面談に参加しました。相談者であるAさんや坂本さんたちから会社の状況をていねいに聴き取る中で、組合を結成して会社を良くしていくことは可能だと判断し支援を決めました。

JAMは、全国17の地方JAMのすべてに専従者(オルガナイザー)を配置し、中小企業の組合づくりに力を入れてきました。長年の取り組みからノウハウが蓄積・継承されているのですが、加えてドイツのIGメタル(金属労働組合)の組織拡大研修にも定期的にオルガナイザーを派遣し、JAMとしての組合づくりの手法確立をめざしてきました。その第1の特徴は、ていねいに時間をかけて「ベースの構築」を行うこと。結成を急がず、まず当該メンバーに、労働組合を理解してもらい、自分たちで物事を判断し問題を解決できる力をつけてもらうことから始めるんです。だから、繰り返しメンバーの話を聴いて、どこに問題があるのか、何に困っているのか、何を求めているのかを把握し、人物像をつかんだ上で、次のステップを考えようと思いました。

—結成準備を始めたのが2018年の暮れですが、結成に至ったのは2022年5月。準備に相当時間をかけたということでしょうか?
坂本 そういう訳ではないんです。金村書記長のもとで勉強会を重ね、労働組合については理解できたんですが、職場をどう改善していくかについて方向性がまとまらず、1年も経たないうちに「空中分解」してしまったんです。私も、労働組合を知れば知るほど不安になってしまった。業務に追われる中、労働組合をつくって会社と交渉し、労働条件の引き上げを求めて闘うなんて無理だと…。それで結成準備会を抜けたんです。でも、本当にこれで良かったのかという思いも拭えなかった。抜けて1年くらい経った頃、金村書記長から「職場はどうや? 元気にしてるか?」って連絡をもらって、まだ気にかけてくれていたんだと、会うことにしたんです。

金村 いちから労働組合をつくるのは本当に大変なこと。みんなの不安はよくわかりました。メンバーが抜けていく中でこれ以上進めることはできないと判断し、いったん棚上げしました。最初に連合大分に相談したAさんとは継続的に連絡を取りあっていたんですが、1年が過ぎた頃、彼が切羽詰まった表情で「職場の状況はさらに悪化している。立て直せるのは坂本君しかおらん。彼を中心に立てたら歯車が回り出すかもしれん」と訴えてきました。私も、坂本さんにリーダーの資質である誠実さや責任感、アクティブさを強く感じていたので、思いきって連絡してみたんです。

坂本 労働組合をつくるのはもう終わった話だと思っていたのに、金村書記長は「本当にやる気があるなら、JAMを挙げて全面的に支援する」と言ってくれた。それが素直に嬉しくて「会社辞める覚悟でやります!」と。

あの時、自分はこれまで「人生送りバント」で生きてきたんだなと思ったんです。困難なことがあっても、誰かが助けてくれて重荷を肩代わりしてくれた。でも、ついに自分がケツ持ちをやるときが来たんだと覚悟しました。自分が委員長としてケツを持てば、みんなついてきてくれると思えたんです。それに自分一人でやるんじゃない、JAMが支えてくれるんだという心理的安全性も大きかった。

金村 坂本委員長は、若い社員が誇りを持って働けるように労働条件や職場環境を良くしたいという気持ちを強く持っている。職場の中で、いつも誰かのために小さい善行を積み上げている人は、大きな信頼を集めるようになる。私が思った通りでした。

労働組合はボトムアップの組織

—そこからの動きは?
坂本 会社の4つの部署のキーパーソンに「労働組合を一緒につくらんか」と声をかけてまわりました。労働組合ってボトムアップの組織だと思うんですね。会社は、社長のトップダウンで経営できるのかもしれませんが、労働組合は、まず職場組合員がいて、その世話役の職場委員がいて、執行委員がいて、職場から上がってきた声を会社に伝えていく。組合の委員長は、組織のトップというより、ボトムアップで組合員の声を集めて会社と交渉するのが役割だと解釈し、厳しい意見もしっかり聴いていこうと思ったんです。だから、苦手だと思っていた人にも声をかけて、その人の良いところを見つけていくようにしました。

金村 そうやって集めたメンバーで2021年に結成準備委員会を開催し、9名全員の総意で結成に向かうことを確認、半年かけてベースの構築をやり直しました。毎週日曜日の午前中に集まって話し合いをするんですが、みんな抱えていた問題がいっぱいあって、それを言える場ができたから、とにかく大激論。でも、おかげで問題解決のために組合を結成するんだという思いが共有されていきました。また組合の規約案や要求案についても、毎週課題を出して一人ひとりの意見を聴き、形にしていきました。

怒り、希望、行動というサイクルを導き出す

—具体的にはどんな議論が?
坂本 どの課題を優先するかというグループワークでは、職場はギリギリの状態だからまず人員を補充してほしいという意見に対し、今の賃金水準では人材確保は難しいから賃上げが先だ、そのためには業務改善の提案もして賃上げできる環境をつくっていく必要があるなど、次々意見が出されました。異なる意見を深掘りしていくと、全体像が見えてくる。反論も、自分とは違う角度から考えるとそうなるのかと思うことが多くて面白かったです。

金村 働くということは、怒りと隣り合わせであったりする。その怒りを客観的に分析して多くの人が理解・共感する要求案ができた時、怒りが希望に変わり、行動へとつながっていく。それを可能にするベースの構築ができれば、組合結成へのサイクルが動き出し、優秀なリーダーが育っていくんです。

—そして、いよいよ組合結成へ。
坂本 2022年5月22日(日)に結成大会を開催し、執行部を選出。5月26日、大分工場に来所した社長に「結成通知書」を手渡し、北田金属工業所労働組合が正式にスタートしました。翌日から3日間、加入説明会を開催し、正社員44 名・再雇用1名・契約社員5 名の計50 名(管理職や技能実習生を除くほぼ全員)の加入意思を確認。事前に準備委員会のメンバーが一人ひとりに話をしていたので、加入はスムーズでした。これをもって、会社に対し、組合費のチェックオフ制度とユニオン・ショップ協定締結を求め、了承されました。

組合があって良かった!

—職場を良くするために「労働組合結成」のきっかけは?
坂本 大分工場で働いて十数年、給料もボーナスも安いし、休みは少ないし、労働環境も劣悪。何も取り柄がない会社だと思っていました。だから、労働組合を結成して、賃金が上がり、労働環境が良くなり、辞めていく人が減れば、「労働組合があるから、会社が良くなった」と思ってもらえる。「労働組合があること」を会社の取り柄にしたいと思ったんです。

—結成から3年。実際に良くなったこととは?
坂本
 定期昇給制度はあったんですが、毎年、500円とか1000円しか上がらない時代が続いていました。でも、組合がベースアップ要求をするようになって、満額ではないけれども、昨年は8000円の賃上げが実現し、組合員からは「賃金は将来的に上がっていくという希望が持てるようになった」と…。年間休日も111日から113日に増え、自費で購入していた安全靴も無償支給になりました。また会社に熱中症対策を要求し、工場内にファンが設置されるなど、職場環境も改善が進みました。

また、取引先の操業停止で休業を余儀なくされた時は、JAMが雇用調整助成金の申請手続きをサポートしてくれて、法律を上回る休業手当9割を勝ち取りました。どれも組合が要求しなければ実現しなかった。実は、組合員から「組合があって良かった。ありがとう」と言われると、飛び上がりたくなるほど嬉しいんです。

—組合費負担への抵抗は?
坂本 組合員からすれば、組合に加入したことで支払うお金が増えるし、賃上げを求めても必ずしも要求通り上がるわけではない。でも、そんな中で組合加入のメリットを感じてもらうにはどうしたらいいのかと考えた時、ろうきんや共済など労働者自主福祉があると気付いて、組合員説明会で力を入れて説明しています。ローンの借り換えや保険の見直しなどで生活が楽になったという組合員が多くて、口コミで利用が広がっています。

ものづくり現場の実態に応じた取引慣行の制度変更を実現

—現在の課題は?
坂本 課題は多いですが、1つは組合員の参加促進です。組合文書はペーパーレスにしてLINEグループで共有していますが、専従者がいないし交代勤務なので、執行委員会や職場委員会、職場集会などは十分やりきれていません。昼休みはゆっくり過ごしてもらいたいので、頻繁に集まってもらうのは心苦しい。そこで年に1度の定期大会では、どんどん意見を出してもらい、抽選会や懇親会も大会後に開催して交流を深める工夫をしています。

労使関係は手探りですが、良い方向に向かっていると思います。ただ、交渉は春季生活闘争期間が中心で、通年で労使協議を行うまでには至っていません。会社として利益が出ないと、組合が要求しても得られるものは多くない。

客観的に考えると、会社の利益が少ないのは、自動車部品業界における取引慣行に起因する構造的な問題もある。社会全体に対して職場の問題を発信していくことも必要だと思うようになりました。

それで、JAMに相談したのが「金型の保管問題」です。下請部品メーカーは、発注先から金型を預かって製品を製造しますが、使われなくなった金型も無償で長期間保管しています。その保管費用が中小下請企業の経営を圧迫し低賃金の要因にもなっているんです。少しでもその費用が軽減されれば、会社の収益が改善すると考え、JAMの組織内国会議員に話をつないでもらいました。そうしたら、公正取引委員会から金型の無償保管に対する是正勧告が相次いで出されるようになり、今年1月施行の取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)では、より明確に不当な経済上の利益の提供要請に該当することが示されました。労働組合があれば、現場の声を政治にも届けられる、国会議員って頼りになるんだと、マジ感動しました。ほかに政策要求として組合員からあがっているのは、社会保険料を下げて「手取りを増やす」こと。休日増にも引き続き取り組んでいますが、そのためには生産性を上げる必要があるので、中小企業の設備投資の支援策や休日出勤に規制をかけるルールなども求めていきたいと思っています。

価値を認めあう社会へ

金村 オルガナイザーの仕事は、労働組合をつくることではなく、職場に民主主義をつくることなんですね。先日、北田金属工業所労組の定期大会に招かれましたが、とにかく組合員からの発言が多くて、執行部との距離が近い。執行部に対する組合員の評価は高く、リスペクトされている。民主主義の組合活動が実践されていると感じます。

政策・制度にかかわる提案もどんどん来ます。坂本委員長が言うように中小製造業の労働条件が低いのは、会社のせいだけじゃない。産業全体の取引構造の中で、下請は値引要請や金型の無償保管に応えざるを得ず、それが働く人にしわ寄せされてきました。だから、JAMでは「価値を認めあう社会へ」をスローガンに公正取引と付加価値が適正に評価され、消費が経済の発展につながる豊な社会の実現をめざしています。

中小零細企業でも労働組合はつくれる

—振り返って労働組合をつくって良かったと思うことは?
坂本 人に恵まれました。金村書記長をはじめ、JAM九州・山口大分地域協議会の皆さんは、いつも親身になって話を聴いてくれて、自分事として一緒に解決策を考えてくれる。また、ろうきんの支店長からは、労働者自主福祉の意義と組合員の生活をまるごとサポートしていく労働運動の懐の深さを学びました。本当にアクティブなサポーターに恵まれたからこそ、今日までやってこれたのだと思います。専従ではないので、仕事も組合活動も、という日々はハードですが、だったら組合活動そのものを楽しもうと…。

—最後に読者へのメッセージを。

坂本 中小零細企業で働く人たちは、職場に不満があっても、労働組合なんてつくれないと思っているのかもしれません。でも、自分たちでも組合がつくれたんです。組合員数50人の小さな組合ですが、みんなで意見を出し合って、会社と交渉して、少しずつ職場の改善を進めることができています。連合には、中小零細企業で働く人たちの声にもっと耳を傾け、その困り事を政策要求に掲げてほしい。そして、中小零細企業でも労働組合はつくれるんだということをもっと発信してほしい。そんな思いで今回のインタビューをお受けしました。職場を良くしたいなら、労働組合は絶対あった方がいいです。みんなで「労働組合があること」を会社の取り柄にしていきましょう。

(構成:落合けい)