作り手の権利を守るには何が必要? 
生成AIに仕事を奪われないために

生成AIは多くの人にとって役立つツールに進化する一方で、声優の声やイラストレーターの描いた絵、ミュージシャンの作った曲などが無断で学習され使われていることが問題視されている。生成AIによる権利侵害を防ぎ、クリエイターを守るためにはどうすればいいだろうか。JASRACの理事でミュージシャンのエンドウ.さんに聞いた。

エンドウ.
東京生まれパンク育ち、GEEKSのGt&Voとして活動するミュージシャン。
他にもクリエイターギルド月蝕會議のバンマスをはじめ、様々なジャンルへの楽曲提供やプロデュースを幅広く手掛けている。音楽クリエイターの権利保護や環境改善に取り組み、JASRAC理事、FCA常任理事、MCA会長、日本フリーランスリーグ・アドバイザーを兼任。教育者として音大でも教鞭を執るほか、機材やギターまで自作するDIY精神を持ち、演奏、創作、権利、教育の各側面から音楽に向き合い続けている。

-生成AIに絡んで今、どのような問題が起きているのでしょうか。

画像や音楽を生成するAIの登場に伴い、イラストレーターやミュージシャンから、「作品が無断でAIに学習されているのでは」という不安の声が上がるようになりました。将来的には、生成AIによるコンテンツが人間の作品に置き換わり、仕事が奪われることへの危機意識も生まれています。実際に、生成AIで制作された絵が賞を受ける事例も出ています。
すでに広く使われている生成AIは「この世の全てを学習し終えた」とすら言われています。学ぶものがなくなったため、運営事業者が学者に論文を書かせたり、アーティストに音楽を作らせたりして「学習する材料」を作っているほどです。

-日本では生成AIについて、どのような法律が設けられているのでしょうか。

実は生成AIに関する日本の法律は、学習を制限するものではなく、むしろ学習を促す内容になっているのが現状です。2019年に施行された改正著作権法では、機械学習などについて、一定の要件を満たせば権利者の許諾がなくても著作物を利用できると規定されています。こうした条文は他国の法律ではほとんど見られませんが、日本では技術革新を促すため、法に盛り込まれました。
しかしその後、生成AIは我々の想像を超える速度で進歩しました。生成AIによる学習はかつて「ラーニング」と呼ばれましたが、最近は権利者の管理が及ばない形で大量の情報を収集・利用する実態があることから、「勝手に採掘して学ぶ」という意味で「マイニング」という言葉が使われています。機械学習が法的に認められている日本は、AIに詳しい海外の関係者から「マイニング天国」とすら呼ばれています。

-音楽生成AIを使うと、ちょっとした音楽なら素人でも作ることができます。今後、ミュージシャンという仕事はどう変化していくと考えますか。

音楽で生計を立ててきた“プロ”の目から見ると、現時点では人による調整が入らない完全な生成AIの音楽は、市販のレベルに達しているとは思えません。生成 AIは画像やイラストを作るのは得意ですが、音楽のように、時間が進むごとに変化するコンテンツを生成するのは不得手です。生成された音楽も今は、動画の後ろに流れるBGMのような「添え物」として使われるケースが大半です。
質の高さをさほど要求されない音楽については、ある程度生成AIへの代替は進むのはやむを得ないと思います。そうなった時も、音楽そのものを楽しみたい時は人間が作った作品を聴く、といった住み分けができ、もしかすると手作りの著作物の価値は逆に上がるのではないかとも考えています。
ただ何年先かは分かりませんが、将来的には高いレベルの楽曲を作れる「生成AIミュージシャン」が現れ、人間の仕事を奪う可能性はあります。その場合、人間が強みを発揮できる領域は、ライブなどの「実演」が伸びていくのかもしれません。

-ミュージシャンの皆さんも、生成AIを活用しているのでしょうか。

若い世代は、音楽を作る時にパソコンを使う人が大半なので、生成AIの活用も進んでいます。例えば、曲の大まかな原案を作る場合、歌詞とメロディだけを人間が演奏し、音楽生成AIアプリで「K-pop調」などと曲調を指定し全体を生成すると、手間と時間が大幅に省けます。歌手に楽曲を提供する際に渡す「仮歌」も、今までは歌手などに歌ってもらって録音していましたが、生成AIならすぐに作れます。現時点では生成AIによって生じる損害(リスク)よりも、恩恵の方が大きいと言えます。
一方で、利用が進むにつれて、ミュージシャンが自分の曲に画像生成AIで作ったイラストを併用する、逆にイラストレーターが自分のイラストにAIで生成した音楽を添付するなど、他ジャンルのクリエイターの仕事の機会を奪いかねないケースも見られるようになりました。クリエイター側も生成AIのリテラシーを高める必要があると感じています。

-政府や事業者などにはどのような対応を求めていますか。

生成AIで作られたコンテンツに、目に見えない電子透かし(ウォーターマーク)が付与され、データを追跡する仕組みをとる事業者も出てきました。ただし、現時点で対応している事業者は大手などに限られるので、多くの事業者にこうした仕組みを広め、実効性を高めてもらいたいです。
また、権利侵害が生じた時、クリエイターからの削除要請などがなくても、生成AIアプリの開発事業者やSNSなどのプラットフォーム運営事業者が自ら削除するなど、一定の責任と負担を負うべきです。例えば動画サイトのYouTubeは、第三者のAI企業が動画をAIのトレーニングに活用することを許可するというチェックボックスを設け、チェックがない限り学習されない仕組みを設けています。このように、運営事業者側が許可を得たコンテンツだけをAIの学習に提供する「オプトイン」の仕組みを設けてほしいと考えています。

-政府・行政などが取り組むべきことは何でしょうか。

学校教育などを通じて、利用者側の権利に関するリテラシーを高めることです。日本は音楽の市場規模は世界2位ですが、人口 1人当たりの著作権使用料の徴収額は20位で、世界的に見ても、著作権保護に対する意識が低いと言われています。

使用料徴収額 人口一人あたり(単位:ユーロ)【JASRAC HPより引用】

こうした中で、生成AIに関するメリットばかりが強調され、リスクの部分が置き去りにされている面もあります。子どもたちが小学校などで早いうちから権利について学び、権利を侵害しないこと、そしてもし自分の権利が侵害されたと感じたら行動に移せるようにしておくことが大切です。
ただ、教育機関は、子ども・若者をフェイク動画や誹謗中傷などの被害から守るための教育には力を入れているようにも思います。このため若い世代ほど、SNSのアカウント名は偽名を使う、写真は掲載しないなど自衛をする子が多いように感じます。一方で、世代によっては、SNS上のフェイク動画や生成AIによる虚偽の説明などを信じ込むリスクにさらされ、権利侵害にも無頓着な面があります。
SNSやインターネット上の情報を見る時は常に「誤りかもしれない」ことを頭の片隅に置き、内容を信じる前に一次情報を確認して、発信者があやふやな場合は生成AIを疑うなど、リスクを知った上で使いこなす必要があります。

-労働組合にできることは何かありますか。

欧州は芸術大国なだけに、著作権をはじめとした権利意識が高く、1人当たりの著作権料徴収額も上位はフランス、スイスなど欧州の国が多くを占めます。フリーランスのクリエイターも、コンテンツの制作で生計を立てる以上、組織に所属するという認識が定着しており、集団で社会や政治に働きかけています。
一方、日本のフリーランスはなかなか団体に所属しようとせず、1人では立場が弱いため買い叩かれても、こらえてしまう傾向にあります。芸能界ではレコード会社や音楽出版社がJASRACとの契約の間に入ることが慣例化しており、アーティスト側に権利認識が育ちにくかったことも、無関係ではないでしょう。
本来は、無名で立場の弱いフリーランスほど保護しなければ業界が育たないはずです。労働組合や音楽クリエイター系の業界団体などが連携して「働き手が集まる」ことのメリットを訴え、フリーランスを組織化して権利を守るための活動ができればと願っています。

(執筆:有馬 知子)