賃上げ率5%以上に「こだわる」年に
中小の職場や非組合員への波及をめざす

多くの労働組合が、経営側に賃上げなどを要求し交渉する「春季生活闘争」がまもなくスタートする。連合は統一的な目標として「賃上げ率5%以上」を掲げ、その実現に「こだわる」ことを打ち出した。神保政史事務局長に「こだわる」という言葉に込めた思いや、実現に必要な取り組みを聞いた。

統一要求で交渉力を高める 賃上げの必要性は政労使で認識
-多くの労働組合がこの時期、春季生活闘争で共通の目標を掲げて一斉に賃金交渉に臨むのはなぜでしょうか。
個別の労働者や企業別労働組合が経営者と交渉するよりも、企業や産業の枠を超えて大きな集団を作り、統一的な要求を打ち出した方が、交渉力や社会への発信力は、はるかに高まるからです。労働組合は、デフレで賃上げ要求が難しかった時代にも、賃金体系の維持など生活を守るための要求を続けてきましたし、現在のような物価上昇の局面では、物価に負けない賃上げを求めるようになっています。こうした取り組みを通じて、組合員はもちろん非組合員や非正規雇用で働く人たちへも、処遇改善の動きを広げることが、春季生活闘争の狙いです。
-2026年の春季生活闘争には、連合としてどのような姿勢で臨もうとしていますか。
近年は実質賃金が低下する中、労働組合だけでなく経営側や政府も、賃上げの必要性を認識するようになりました。さらに2025年11月に行われた政労使会議では、もう一歩踏み込んで「高水準の賃上げを維持する必要がある」ことでも一致したと考えています。
過去3年間の大幅な賃上げで、大手を中心に5%台の賃上げを達成した組織も増えていますが、それでも中小組合の賃上げ率は、4%台に留まります。組合のない職場は、組合のある職場に比べて賃上げ率が1%程度低いという調査結果も出ています。

平均賃金方式での要求・賃上げ状況の推移(連合結成以来)
このため2026年は、目標こそ前年と同じ5%ですが、「実現にこだわる」ことを打ち出しました。連合の加盟組合が、5%以上の賃上げにこだわり確実に達成することで、中小の職場や組合のない職場に賃上げを波及させるという、強い意思を示したのです。そのためには企業規模や雇用形態による賃金格差の是正も不可欠なため、中小組合は6%、非正規雇用で働く人たちについては7%と、全体目標よりも高い引上げ目安を掲げています。

企業は人を大事にしている? 賃上げは社会へのメッセージ
-トランプ関税や日中関係の不安定化など、企業業績への逆風も吹いています。こうした要因が賃上げの足かせになる怖れはありますか。
確かにトランプ関税や足元の円安進行は、企業の収益を圧迫する要因にはなり得ます。特に円安の影響は大きく、海外から原材料を調達し国内で製造・販売している企業は、為替の変動分を価格に転嫁することも難しい中、事業に打撃を受けることも考えられます。
ただこれらが、リーマン・ショックや東日本大震災のような、日本経済全体を揺るがすほどの打撃かと言えばそうではなく、高い利益を計上している企業も相当数存在します。また日本企業の内部留保の総額は600兆円を超え、過去最高を更新し続けていますが、これは人材や設備、技術への投資を後回しにした結果とも言えます。
また賃上げ率、賃上げ額といった数字には、「その企業が人を大事にしているか」を発信するメッセージという意味合いもあります。物価上昇、人手不足の局面で、経営側が単年度業績だけを見て人への投資に消極的になれば、人材獲得はさらに難しくなり、企業に対する社内外の信頼も揺らぎかねないでしょう。
-中小の労働者の賃上げには、価格転嫁を通じて賃金の原資を確保することが不可欠です。価格転嫁はどの程度進んでいると考えられますか。
労務費や原材料費の価格転嫁が進めば、中小企業の収益力が高まり、人への投資も加速することが期待できます。労働組合の働き掛けもあって、近年は価格転嫁の重要性に対する社会的な認識が広がり、2026年1月には、企業間の取引の適正化をはかる中小受託取引適正化法(取適法)が施行されました。
しかし実際の価格転嫁はまだ不十分で、製造業では金型の保管コストを下請け企業に不当に担わせるケースなども見られます。下請け側も取引を失うことを恐れて是正を申し入れにくく、結果として不利益を受け入れてしまっているのが現状です。
大手企業には特に、先頭に立ってこうした悪しき慣習を見直し、サプライチェーンを健全化する責務があります。そのためには労働組合が経営側に価格転嫁の必要性を主張していくことも重要です。また組合員の中には、価格を転嫁する側とされる側の、両方の担当者がいます。組合が価格転嫁の重要性を発信することは、一人ひとりの認識を変えることにもつながります。
-賃上げや価格転嫁による環境整備以外で、重点的に取り組もうとしていることはありますか。
個別の労使交渉では、男女間の賃金格差の是正にも力を入れてほしいと考えています。男女雇用機会均等法の施行から約40年が経過し、制度上はジェンダーの格差はほぼ是正されましたが、それでも賃金格差は明らかに存在します。格差の原因は、例えば女性が出産・育児などのライフイベントの影響を受けて男性に比べて昇進が遅れてしまうこと、あるいは両立支援制度は整っていても職場に使いづらい雰囲気があったり、使い勝手が悪かったりして働き続けるのが難しいことなど、職場によって異なります。各職場が、さまざまな角度から要因を調査し把握した上で、労使で協力して解決の糸口を見つける必要があります。最終的には、個人の能力を公平に評価し処遇できるようにすること、さらに評価の透明性を担保し、社員の納得感を高めることが重要です。
「賃金は上がるもの」を『ノルム(社会的規範)』に
組織化に向けたアピールも課題
-非正規雇用で働く人たちについては、7%という高い賃上げ率の目安を示しました。達成に向けては、どのような取り組みが必要でしょうか。
連合に加盟する非正規雇用で働く人たちについては、近年、正社員を上回る賃上げ率を達成してきました。ただ金額的な水準はまだまだ低く、引き続き絶対額を高めることが求められています。2025年度の地域別最低賃金が6.3%と大幅に引き上げられたこともあり、7%の要求方針を掲げています。
また雇用形態にかかわらず、全体としての組織化も重要な課題です。このため、社会の注目が集まる春闘の機会をとらえて、労働組合がすべての働き手の処遇と労働環境の改善に取り組んでいることも積極的に発信していきます。また若い世代には、労働組合に「とっつきにくい」「負担が大きい」といったイメージもあるため、会議時間の短縮やオンラインツールの活用など、日常的な活動でも小さな改善を積み重ね、時代に合うようアップデートしていきたいです。
-賃上げの目標を達成することによって、社会にはどのような変化がもたらされると考えていますか。
ある労働組合の調査では、賃金改善をしているものの物価高で組合員の25%が貯金を取り崩しているという結果が出ました。こうした中で多くの消費者が「これ以上物価が上がらないでほしい」と願うのも当たり前だと思います。
しかし物価の上昇基調が続くと予想される中、賃上げによって生活を豊かにすることが大事だと、社会全体の発想を転換しなければいけない時期が来ているのです。このため連合は、賃金が上がることを新たな『ノルム』として定着させようとしています。
2026年の交渉は、賃上げを『ノルム』にできるかどうかの正念場です。そのためには大手の組合が賃上げの「けん引役」を担い、中小の組織が追随することで全体的な賃金相場を引き上げ、組合のない職場などにも波及させていくことが重要です。
連合は企業別労働組合のサポートや賃上げへの環境整備、社会の気運醸成を通じて、波及効果を最大化することに取り組みます。最終的には、人への投資によって労働者が「生活が楽になった」と実感できるようになり、それによって個人消費が拡大して経済も成長する、という好循環を生み出すことをめざしています。

(執筆:有馬知子)