北海道に平和の音色を ~高校生被爆ピアノコンサート~

労働組合の社会貢献活動を見える化するプラットフォーム「ゆにふぁん」。今回は、ゆにふぁんに掲載されているプロジェクトの中から連合北海道が支援する「高校生被爆ピアノコンサート」をレポート。高校生平和大使たちの核兵器廃絶に向けた真摯な思いと行動力が人々の心を動かしています。

企画から運営まで 高校生による被爆ピアノコンサート
粉雪が舞いつつも春の温かさを感じる3月下旬の北海道。札幌駅近くの商業施設の一角で、80年前に広島で被爆したピアノの音色が響きました。地元高校生やプロのミュージシャンによる演奏に人々が足を止め、会場に用意された椅子はすぐに満席に。誰でも自由に被爆ピアノを弾いたり、触れたりできる“ストリートピアノ”の時間も設けられ、多くの人が平和の大切さを実感する貴重な機会となりました。

連合北海道は核兵器廃絶に向けた若い世代に対する運動の喚起を目的に、2013年、北海道高校生平和大使派遣実行員会を結成しました。以来、国連への高校生平和大使の派遣や、高校生1万人署名活動を支援しています。
「被爆ピアノコンサートは2022年にも連合北海道主催で実施していますが、今回は平和大使を中心とした高校生9人が実行委員会を立ちあげ、自ら企画・運営しています。連合北海道はその主旨に賛同し、共催という形をとっています」(石田さん)
会場の手続きや文書の確認など一部のサポートのみで、基本は高校生の自主性に任せたそうです。

被爆ピアノコンサートは札幌市内の商業施設や地下歩道、市役所などを会場に、3月29日から4日間の日程で計7公演を開催。沖縄の地上戦開始の日とも重なった最終日の4月1日は新千歳空港で行い、被爆ピアノと三線のデュオにより“北海道・広島・沖縄”のコラボレーションとなりました。
第27代高校生平和大使で、被爆ピアノコンサート実行委員長の皆川さんも「新千歳空港はいろいろな地域や国の方が来る北海道の玄関口。この被爆ピアノコンサートに触れて、自分の故郷に平和への思いを持ち帰ってもらいたいです」と話してくれました。

被爆者がどんな思いで生きてきたかを知ってほしい
皆川さんが被爆ピアノコンサートを開催したいと考えた理由の一つに、今年3月の北海道被爆者協会の解散がありました。
「被爆者協会のホームページで、『逃げて、逃げて、逃げて、北海道へきた』という被爆者の言葉を見て、生まれ育った故郷を離れてこんな遠い地にこなければならないほど、周りから向けられる目はつらいものだったんだとショックでした」
縁あって、核兵器廃絶署名に参加するまで北海道に被爆者がいることを知らなかったという皆川さん。平和教育が盛んな広島や長崎とは違い、北海道では歴史の授業で「8月6日に広島に原爆が投下されました。覚えましょう」と教えられるだけ。自分と同じように実相を知らない人がたくさんいると感じています。
「テストのために覚えるのではなく、実際にどんなことがあったのか、被爆されたか方どんな思いで生きていたのかを知ってほしいし、感じてほしいです」

皆川さんにとって、前回のコンサートでの被爆ピアノとの出会いが、平和大使になるきっかけにもなりました。その時の気持ちを大事にしたくて、もう一度開催したかったと言います。多くの高校生や若者たちが一緒になって取り組む中で、次の世代に平和への思いや活動が継承されることを皆川さんは願っています。
80年前の傷を間近で見て触れて感じる「平和とは何か」
今回のコンサートのために広島から運ばれてきたのは、爆心地より3キロの民家で被爆した1938(昭和13)年製のピアノ。ボディは傷だらけ、鍵盤は黄ばみ、ザラザラとしています。
「いろいろな場所で演奏されて、いろいろな人に『平和って何だろう』と問いかけてきた傷なんだと思います。生きてきた証ではないですが、一つひとつの傷にも意味があるんだと…」(皆川さん)

こうした気持ちを一人でも多くの人に共有したいと、高校生たちがこだわったのは、いわゆる“ストリートピアノ”のような誰でも間近で見て、触れられる場づくりでした。会場探しに苦労したそうですが、なるべく人通りの多い場所を選び、プロの演奏者だけでなく、訪れた人やたまたま通りかかった人もピアノに触れたり、演奏してみたりできる時間を重視しました。



実際にピアノを演奏した男性も、「100年前のピアノとは思えないほど、しっかりと調律されたきれいな音色で、いろいろな人の思いが詰まったピアノなんだと感じました。自分が弾くことで平和への思いを少しでも共有できたらいいと思いました」と話してくれました。
高校生の頑張る姿が周囲へ刺激を与える
コンサートの開催にあたり、クラウドファンディングを活用した運営資金集めも高校生たちが自ら企画し、実行しました。最終的には目標金額の160万円を超え、セカンドゴールの180万円を達成することができましたが、そこには数々の苦労が。
「クラウドファンディングに掲載する文章も、サイトの運営側から指摘を受けて何度も修正しました。さらに、やっとプロジェクトが立ち上がって、直後は募金が集まったのですが、だんだん停滞して…」(皆川さん)
札幌市内の労組や産別の事務所を訪ね、協力を依頼したり、全国の平和大使に呼び掛けて「高校生一万人署名活動」のインスタグラムでPRしてもらったりと、たくさんの人の協力を得て達成したと言います。

石田さんも「組合員から『若い高校生が頑張っているからこそ平和について関心を持った」といった声が寄せられる」と話します。高校生たちの平和への強い願いとひたむきな姿に、心打たれる大人は少なくありません。
「高校生がやりたい、頑張りたいという姿を見ると、僕たちも頑張らないといけないなと思います。これからも彼らを後押ししながら平和運動を強く推進していきたいと考えています」