【後編】ありそうでなかったかも!
産業の枠を超えて経験や課題を共有
航空連合×電力総連 女性役員交流会

連合は、2030年までに女性役員比率を50%にする目標を掲げた「連合ジェンダー平等推進計画」(フェーズ2)を展開中。連合に加盟する構成組織(産業別組織)でも、様々な取り組みが進められているが、航空連合と電力総連がコラボして女性役員交流会を開催しているという情報をキャッチ! 女性組合員比率が6割という航空連合と1割台の電力総連、背景は大きく異なるもののジェンダー平等参画推進に向けて共通する課題も多く、参加者からの継続を求める声に応えて、今年4月に第2回目の交流会が開催されるという。ありそうでなかった産業の枠を超えた女性役員交流会。全プログラム同行取材を敢行した。

■後編レポート:きっと社会は変えられる!女性役員交流会参加者座談会編

充実した全プログラムを終えたけれど、まだまだ話し足りない気分。そこで、スキマ時間に突撃インタビュー。きっと社会は変えられる!と思えるパワフルな言葉をお伝えする。

【航空連合】

内村 安里(うちむら あんり)
ANAエアポートサービス労働組合(ANAAS労組)執行委員

肥高 七海(ひだか なみ)
スターフライヤーユニオン(SFJユニオン)執行委員長

【電力総連】

大久保 夕佳(おおくぼ ゆか)
電力総連女性委員会主査 東京パワーテクノロジー労働組合(TPT労組)本部特別執行委員

前黒島 奈緒(まえくろしま なお)
電力総連女性委員会副主査 PEC労働組合執行委員 沖縄電力総連特別執行委員

【事務局】

赤池 永梨奈(あかいけ えりな) 
航空連合副事務局長

白鳥 優一(しらとり ゆういち) 
電力総連組織局部長

もっと女性たちとつながりたい

—現在のお仕事や組合役員になったきっかけ、組合での担当は?

内村 羽田空港でグランドスタッフ(チェックインカウンターや出発・到着案内など)を行っており、最近「コンシェルジュ」の資格も取りました。2020年にANAエアポートサービス労働組合の中央執行委員になり、現在5期目。その前に職場委員をしていたんですが、職場をこえての交流活動が盛んで、活動に参加していたら人とのつながりが増えて楽しくて、そのまま足を踏み入れてしまいました。労組では組織と職場活動を担当。職場の課題は職場で解決したいという思いから、職場懇談会などに力を入れています。

肥高 北九州に本社があるスターフライヤーの羽田空港支店でグランドスタッフをしています。職場では新人研修の教官等の経験を通し、チームリーダーを務めています。2016年12月にスターフライヤーユニオンが結成されたのですが、その立ち上げの様子をみてきたので、信頼する先輩から執行委員にと声をかけられた時は、やるしかないと。現在は、執行委員長(非専従)として、より良い会社にするために奮闘しています。

大久保 関東電力総連に加盟する東京パワーテクノロジー労働組合の所属です。仕事は保険代理店の営業で、工事に関する保険や東電生協の各種団体保険を扱っています。単組での活動経験がないまま、2004年から3年間、関東電力総連の女性委員会(事務局長兼任)に参加。その時の仲間が本当に素敵で、今でも親友だと思える方とも出会えた。ですので、2022年に再び関東電力総連の女性委員会にと声をかけられた時は、ぜひやらせてくださいと。今では全国の仲間と活動できて充実しています。

前黒島 職場はLNG(液化天然ガス)供給事業や可倒式風車のメンテナンス等を担う会社で総務の仕事をしています。女性が少ない職場で、女性同士の交流がほとんどなかった環境の中、つながりを作りたいという思いから組合活動に参加しました。まずは組合の女性連絡会に加わり、そこから全国の女性委員会にも参加させていただけるようになりました。幸運にも素晴らしいメンバーに恵まれ、一緒に活動する時間がとても楽しく、心温まる経験となっています。

男性中心でつくり上げられてきた職場や社会

 —女性の組合活動への参画を妨げる要因については?

内村 女性は、つねに時間を気にして生きている、リミットを考えて生活を組み立てているため時間が足りないと感じている。そのことが参画を妨げていると感じます。ただ、これは女性だけの問題ではなくて、タイパを意識する最近の若い世代の組合離れとも共通する課題だと思います。

肥高 労組のニュースには、スーツを着て厳しい表情で労使協議に臨む私の写真が掲載される。職場の問題を解決していく労組の活動が、組合員には「難しい」ものだと思われていて、代議員からは「私には無理です」と言われることが多い。でも、労組にはもっといろんな活動がある。私が、楽しそうに笑顔で交流している姿も、もっと発信していきたいと思います。

大久保 参画を妨げる要因は、男性中心でつくり上げられてきた職場と社会と性別役割分担意識。例えば、私の周りでよく聞かれるのは女性技術職を積極的に採用しているにもかかわらず、工事現場での女子トイレの数や休憩場所の不足、女性特有の体調不良への対応が難しい、ユニフォームは男性用を着用しているためサイズが合わないという状況です。
性別役割分担意識は、女性の側にもあって、仕事も家事・育児も完璧にやらなければという思いから、組合活動は無理だと考えてしまう。労働組合の側も育児中の女性に配慮する。それが結果として参画を阻む壁になっている。実は、子育て中だけど、組合活動もやりたいと思っている人は少なくないと思います。これを解決するには、お互いに与えたり、受け取ったり、分かち合ったりという関係性を築くこと。頑張りすぎる女性たちに「頼ることに慣れようよ!」と呼びかけたいです。

前黒島 組合活動イコール男性というイメージがあって、男性役員のようにはできないという負担感が強いのだと思います。女性参画を進めてそのイメージを変えていきたいです。

これからの時代を生きていくために

—組合活動をしていることで、仕事や家庭、自分自身にポジティブな影響があった経験は?

大久保 ポジティブな影響はすごくありましたね。仕事面では、お客様だった方と組合活動で改めて出会うこともあり、相乗効果でつながりが深まりました。
家庭生活でも、労働組合の研修でジェンダー平等やアンコンシャスバイアスについて学んだことが、高校1年になる娘との向き合い方を考えるきっかけになりました。社会は大きく変わっていく、これからの時代を生きる彼女には成績や数字だけで判断できない人間力が必要となる。そう気づいて、娘がまず自己肯定感を高められるよう私はメンターに徹しています。組合活動で学んだことが、子育てにも本当に役に立ちました。私自身も、素敵な人たちに出会って視野が広がり、自分を見つめ直すことができました。

前黒島 組合活動をしていなければ出会えなかった人たちに出会えたことが、私の人生の財産になっています。仕事でも、組合のネットワークに助けられています。

内村 私が考えることって「これはこうだ」という一本の線でしかなかったんですが、組合活動を始めてから、どんどん物事が立体的になっていきました。いろんな人と話をして気づきを得る中で、自分の意見を発信できるようにも、ちょっとだけなったかなって思います。

肥高 代議員や執行委員だった時は、職場にはこういう問題があると意見を言うだけだったのですが、委員長という立場になって問題の背景にも目を向けられるようになりました。会社はこうあるべきだから一緒に良くしていこうとか、航空産業全体でこういう政策が必要だとか考えられるようになりました。

女性役員交流会での様子①

やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい

—もし組合活動をしていなかったら?

内村 たぶん、まわり道をしても組合活動にめぐりあったと思います。

肥高 活動していない自分が想像できない。その道を選ばなかったとしても、どういうルートであれ、今のポジションにたどり着いていたと思います。

大久保 なんだかんだ楽しく生きていたと思います。ただ、組合活動を経験させていただき挑戦する気持ちは強くなった。何かに挑戦する時、私にできるかできないかで決めるのではなく自分がやってみたいかどうかを考えるようなった。やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいいと、ポジティブに考えられるようになりました。

前黒島 全国の女性委員会にと声がかかった時、果たして自分に務まるだろうか?と思いましたが、先輩が「絶対断るな」と背中を押してくれました。組合活動を通じて、多くのことを学び、自分自身が大きく成長できたと感じています。組合活動は、私にとって成長の場であり、それがない自分は想像もできません。

—なぜ、そんなに熱意を持てるの?

内村 趣味なので(笑)。先輩から「労働組合は無料の塾だよ」と教えられましたが、できないことができるようになったり、知らないことを勉強したり、組合活動って楽しみでしかないんです。

肥高 職場が違う人が集まって話ができる執行委員会が大好きで、みんなに会えるのが楽しいんです。

大久保 SNSやネットの情報は自分の興味があるものにどうしても偏ってしまいます。しかし、労働組合の研修を受けてみると自分は興味がないと思っていたテーマでも気づくことや学ぶことが多い。このような機会をくれる労働組合の活動は、自分自身の視野を広げるためにも貴重ですし多くの女性に経験して欲しいと思います。

女性役員が無理をしなくていい制度を

—今回の交流会から得られた新しい気づきや今後の活動に活かせる点は?

内村 女性が組合活動するには、現状では周囲の理解が必要ですが、いつか「子育てしていても組合役員をやるのはあたりまえ」な環境にしていきたいと思いました。

肥高 電力総連では、休日の組合活動をサポートする制度が充実していて、制度でカバーできることは多い。女性役員が無理をしなくていい制度をつくっていきたいです。

大久保 航空連合との交流会は2回目の参加ですが、労働環境は違っても、同じ方向をめざしている仲間がいると今回も嬉しく思いました。これだけポテンシャルの高いメンバーがそろっていれば、みんなで力を合わせることによって、社会を変えられるかもしれないと。

前黒島 同感です。電力総連は女性組合員が少ないけど、共通する課題も多いことがわかったし、何より航空連合の女性役員のみなさんが生き生き活動されていて、本当に勇気づけられました。

—めざす社会やこれからやっていきたいことは?

大久保 1つは選択肢を増やすこと。働き方も、ライフイベントも、夫婦別姓だって、今までの「あたりまえ」を見直して、個人の選択肢を増やす。そして、一人ひとりは、自分はどうしたいのか、自問自答しながら選択していく。選択するということは責任も伴いますが、自分自身の人生が豊かになるようカスタマイズできる、そんな職場や社会になればと思います。
個人的には、電力総連女性委員会で経験したことを単組へ活かしていきたいと考えています。2回の女性委員会の経験をさせていただき、経験も仲間も一生の宝物になりました。女性のみなさん、組合活動は本当におすすめです!

前黒島 今回をもって全国女性委員会への参加が最後となります。残りたい気持ちもありますが、次の世代にバトンを渡すとことが大切だと感じています。女性委員の経験者が増えていくことで、後に続く女性役員も増えていくはずです。私が先輩に背中を押してもらったように、今度は私が後輩の背中を押してあげたいと思います。

内村 男性も女性も、どちらもいろんなことができる環境にしたいですね。そのためには社会が変わらないといけないこともあるので、私自身いつか国政に乗り出したいです。航空連合の政治塾に参加していて、それがすごく面白かったこともあり、次のステップでは政策や政治に関われたらと思っています。

肥高 今でも、一部には「男性が外で働いて、女性は家にいるべき」という考えの方がいますが、女性参画を進めて価値観のアップデートをしていきたいです。
また、会社を成長させて、労組専従になって航空連合の活動にもっと参加できる人を増やしたい。航空連合は、赤池さんが事務局に入ったことで、ジェンダー課題への取り組みが大きく広がっていますが、一人じゃダメ。複数配置をめざしたいです。

女性役員交流会の様子②

社会から取り残されるという危機感をもって

—労働組合としてジェンダー平等を進めていくことの意義とは?

赤池 会社と比べても、労働組合の女性参画は遅れていると感じます。今、様々な職場に女性が入ってきている。男性メインの組合の運営を、女性の視点でチェックして変えていかないと、女性役員も増えないし、強いては男性も増えなくなる。女性参画は、男性も含めて誰もが参加しやすい組合活動への一歩だと思っています。

白鳥 女性組合役員が徐々にですが増えてきたことで、組合活動に良い変化が出てきています。例えば毎年安全衛生のキャッチフレーズを加盟組合に募集しています。その審査の時にお父さんに対するキャッチフレーズが大半でした。しかしながら、審査員に女性組合役員が加わったことで、現場で働くお母さんもいるので性別にかかわりないキャッチフレーズを選ぶという新たな視点を得ることが出来ました。こうした気づきも含めて、今、ジェンダー平等参画を進めなければ、労働組合は社会から取り残されるという危機感をもって取り組みたい、誰もが平等に機会を与えられる取り組みをしていきたいと考えています。

—ありがとうございました!

(取材・構成 落合けい)