地方公務員のノウハウ生かし、被災自治体の職員を支援
能登半島地震の自治労支援ボランティア
地方自治体の職員や医療・福祉の担い手ら、公共サービスに関わる労働者の産業別労働組合、全日本自治団体労働組合(自治労)は、能登半島地震の発生後約4カ月半にわたり自治労ボランティア支援活動を行い、自らも被災しながら不眠不休で住民対応等に奔走する被災自治体職員の仲間をサポートした。発災直後から活動の陣頭指揮を執った伊藤功書記長に聞いた。
不眠不休の職員
住民に配慮しトイレも遠慮
自治労は、2024年1月1日の夕方の地震発生後から、被災地域の石川と富山、福井、新潟の各県本部と連絡を取り合い、被災状況等についての情報収集を行ってきた。1月5日の臨時中央執行委員会では、対策本部を設置したほか当面の支援として、災害特別カンパの実施を決めた。公共サービスの担い手の集まりだからこそ、有事の際には自分たちが役に立たなければ、という組合員の意識は強く、伊藤功書記長のスマホには発生直後から、全国から「助けが必要なら何でも言ってくれ」という連絡が相次いだ。
「仲間のこうした声が、活動の一番のよりどころになりました」。
一方、震源地である石川県の被災地では、住まいを失った多くの住民が避難所に続々と押し寄せ、役所も住民への対応で混乱を極めていた。職員は自らも被災し、家族のことも考えなければならない中で、自分のことは後回しにして避難所の設置・運営や住民対応にあたったが、日を追うごとに体力的・精神的な疲れが蓄積していった。
被災地の自治体職員に当時の状況を聞くと、住民への支援や配慮を優先するあまり自分たちの休憩場所すら確保できなかったり、確保できたとしても住民から「なぜ職員が休んでいるんだ」というクレームが届いたりしたという。貴重な生活用水を使うからとトイレも使いづらく、救援物資の順番も後回しで結局回ってこない…といった事態にも陥っていた。
「自宅が損壊し避難所にしか寝る場所がなく、支援物資を必要としているのは公務員も住民も同じです。ただ、どうしても公務員には厳しい目が注がれてしまうのです」
自治労は1月半ば、UAゼンセン(イオングループ)の協力で、職員専用の支援物資を調達してもらった。これによってようやく、職員に生活用品などの物資が行き渡るようになった。
また、1月11日には、石上千博委員長が松本剛明総務大臣と面会し、被災地の自治体職員や現地の実態を把握した上で、労働災害防止への対応やメンタルケア、人的支援の拡充と、それらに必要な財政措置などを要請した。
ボランティアが現地の行政職員を支える
市民の公共サービス利用も円滑に
富山県氷見市では1月18日から、他の被災地に先駆けて自治労ボランティアを開始し、県内の組合員ががれき撤去や公費解体申請受付などに取り組んだ。1月下旬の機関会議(第165回中央委員会)で、石川県内の被災地からの要請を受けて自治労独自のボランティア活動の展開を決めたが、「正直、最初はだいぶ苦労しました。早く支援を始めたい気持ちとは裏腹に、現地の状況や地理的な制約から、実際の活動には多くの困難が伴いました」と、伊藤書記長は話す。
幹線道路の被害が大きいことなどから、活動開始のめどが立たず、ベースキャンプの設置も難航した。金沢市からは被災地へのアクセスが難しく、復興を担う民間の建設業者なども集まり始めていたため、支援拠点をなかなか確保できなかったのだ。2月下旬にようやく拠点となる宿泊施設を確保し、石川県七尾市には3月4日に、同県能登町には3月31日に最初のボランティアが入った。しかし「宿泊のキャパシティが限られたため、当初は想定した人数を送り込めず、活動が軌道に乗ったのは、4月の中旬ぐらいでした」と明かす。
現地に入ったボランティアは、被災自治体と調整の上で、避難所の運営や被災者が訪れる総合支援窓口の受付、断水地域に水を届ける給水車への水の補給などを担った。活動に参加した組合員は自身も自治体職員で、各種申請書の処理など行政関連の知識やノウハウを持っていた。
「自治労のボランティアだからこそ、経験を生かして疲弊した被災地の仲間を休ませつつ、復旧・復興支援を後押しすることができる。被災自治体の公務員を支えることで公共サービスの提供が円滑に進めば、結果的に住民の生活を支えることにもなります」と、伊藤書記長は説明する。
宮城県からボランティア参加
東日本大震災の経験を生かす
ボランティアには、東日本大震災の被災地の組合員も参加した。自治労宮城県本部の岡本雄大書記長、同県石巻市職員労働組合の小野寺伸浩書記長は、4月20~28日に避難所運営に当たった。
小野寺書記長は「大きな災害が起きた地域にボランティアに行くことで、東日本大震災で全国から支援に来ていただいたことへの恩返しをしたかったんです」と話す。避難所で被災者から生活の立て直し方などについて聞かれた時には、震災当時を思い返して大まかな流れを説明した。「被災経験を生かして、少しは被災者のみなさんのお役に立てたかなと思います」。
また能登の被災者がとても我慢強かったことが、印象的だったともいう。
「避難所で今後について大きな不安を抱えているだろうと思っていましたが、騒いだり自暴自棄になったりせず淡々と過ごしていました。東北人も我慢強いと言われますが、それ以上だと感じました」
現地を離れる時、避難者からお礼とともに「復旧したらぜひ遊びに来てください」と言われ、「支援に行って逆に元気をもらった、という気持ちが理解できました」と話した。ただ現地の自治労組合員と情報交換する機会が持てず、「東日本大震災と能登半島地震、両方を経験した上での気づきなどを共有できなかったことは、少し残念でした」。
一方、岡本書記長は避難している人たちが、自主的に避難所の清掃などに取り組む姿に感心させられたという。
「水害などの際、地元でも避難所を運営したことはありますが、避難者が自主的に運営を担う姿を見たのは初めてで、すごいなと思いました」
ただ避難所が音の反響しやすい体育館で、避難者が消灯後、物音を立てないよう気を遣っている姿に避難生活の大変さも実感した。また4月下旬にも関わらず、多くの倒壊家屋が手付かずで残された町の様子に「復興には、長い時間がかかりそうだと感じました」。
岡本書記長は、職場での知識や経験を生かして被災地の仲間を支えたいと思う一方、スキルを発揮することをためらう場面もあったという。
「外から来た人間が事情を知らずに意見すると、かえって業務負担が増えてしまうのではないか。不用意に口出しをして疎ましがられたら、ボランティア活動全体に悪影響を及ぼすのではないか、といった懸念から考えを口に出せないこともあり、難しいと感じました」。
離職増加、しわ寄せは残された人へ
公務員の人員拡充も検討を
自治労は1月~5月末まで、石川県の七尾市と能登町、富山県氷見市の3カ所でボランティア支援活動を展開し、参加人数は延べ968人に上った。
伊藤書記長は今後、被災自治体の職員やボランティア参加者、被災した住民などさまざまな立場の人の声を聴いて集約し、そこから浮かび上がる課題を政策として政府や省庁、議員等に提言していくとしている。
「提言を通じて行政が災害発生時に、より効果的、効率的に支援を提供できる体制を作っていきたいと思います」
また被災地の自治体では、現在も市外に避難した家族に合流するなどの理由から離職者が増えており、その分残った人の業務量が増えるという事態が続いている。伊藤書記長は「人手不足による長時間労働の是正策や、災害後のメンタルケアに引き続き取り組む必要があります。さらに言えば、全国各地で地震以外にも多くの災害が多発する中、非常時に備えた人員を確保することが不可欠です」と指摘する。
また小泉政権時代の構造改革で公務員が大幅に削減されたために、災害への備えに必要な人手の確保も難しくなっているという。「全国の自治体で、人手不足のためインフラ設備の保守点検が不十分になったり、耐用年数を超えて使われたりするケースも報告されています。自治体の人員は圧倒的に不十分だと、住民の皆さんにも理解してほしい」と述べる。
最後に小野寺書記長は、能登でのボランティア支援活動で現地の人と接して得られた経験は、労働組合の運動にもつながると語った。
「実際に現地へと足を運び、そこに住む人の話を聞くことが大事なのは、労働組合も同じです。被災地での経験を通じて、労働組合の運動もこうした原点に立ち返るべきだ、と改めて感じました」
(執筆:有馬知子)