連合リーダーの素顔に迫る
~第13回 梶原 貴 連合副会長・日教組中央執行委員長~

シリーズ第13回は、今年 4月に日教組中央執行委員長に就任した梶原貴連合副会長にインタビュー。出身は組織率100%を誇る山梨県教職員組合(山梨県教組)。日教組では「学校の働き方改革」と「組織拡大」を2大重点方針に掲げ、「今やるしかない」と邁進中。笑顔と熱意が溢れるリーダーの素顔に迫ります。

梶原 貴(かじわら たかし) 連合副会長・日教組中央執行委員長
1991年、大学を卒業し、山梨県山梨市立山梨南中学校(理科担当)に赴任。1997年4月より3年間、香港日本人学校に派遣。その後、都留市や甲州市の中学校で教鞭を取る。
2012年山梨県教職員組合常任執行委員、2014年同執行委員長等を経て、2018年に日本教職員組合へ。書記次長、中央執行副委員長を経て、2024年4月中央執行委員長に就任。5月、連合副会長に就任。

学校の働き方改革と組織拡大に全力!

環境問題を子どもたちにアプローチ

—教員になられたきっかけは?

学生時代は、農獣医学部で「緑地設計」を学んでいました。当時、環境破壊が国境を越えた課題となっていて、自然豊かな山梨県で育った私は、その自然を守る仕事がしたいと考えたんです。国立公園のレンジャー(自然保護官)の手伝いをする機会があったのですが、大人より、次代を担う子どもたちにアプローチしたほうがいいと感じました。子どもたちに、自然の大切さやすばらしさ・不思議さを伝えることができれば、環境問題の解決にもつながると考え、教員をめざすことにしたんです。

1991年、無事採用試験を突破して山梨県内の中学校理科教員になりました。時代はバブル経済末期。同じ研究室の友人は民間の設計事務所やコンサルタント会社に就職し、教員になったのは私だけでしたが、学校現場に身を置いた選択は間違っていなかったと思いました。

授業ってエンターテイメント。子どもたちから「良くわかった」と言ってもらえると嬉しくて「長時間労働も厭わず」という、教員生活のスタートでした。

中学校での理科実験授業

組織率が高く、組合加入が当たり前

―労働運動を始めたきっかけは?

日教組には47都道府県の教職員組合が加盟しています。オープン・ショップ制なのでその組織率には濃淡がありますが、山梨県教組はほぼ100%。職場の同僚はみんな組合員、管理職も元組合員で、組合に入るのは当り前という雰囲気でした。

入って良かったと思ったのは、教育研究活動に没頭できたことです。この活動は、授業の進め方はもちろん、その前提となる子どもの背景を理解する段階から、学校の垣根を越えて研究するもので、教職員組合において、勤務労働条件の改善と並ぶ、重要な両輪となっています。私は山梨県教組の理科部会に所属し、教育研究全国集会[i]にも参加しました。

教職生活20年を迎えた頃、「休職専従役員に」と声をかけられました。それまで支部の非専従役員を務めていましたが、専従役員は責任の重さが違う。でも、一歩踏み込めたのは、組合が積み重ねてきた教育研究活動を大事にしたいという思いがあったからです。また、当時の校長からも「私も役員経験者」と背中を押されました。

公務員に認められた休職専従期間は7年。山梨県教組は、それを最大限活用して専従者を配置していたので、私も「現場に戻れるなら」と引き受けたのが、労働運動に関わることになったきっかけです。

山梨県立科学館主催 科学の祭典山梨2003

先生みたいな働き方は無理

—役員としての仕事は?

2012年に山梨県教組常任執行委員となり、最初は支部の広報に注力しました。私自身もそうでしたが、山梨県教組がどんな活動をしているのか、組合員はよくわからない。発信を強化しようと情宣紙の活用など工夫を重ねました。そして、2014年に山梨県教組の委員長に就任し、教育研究全国集会を山梨で開催することができました。

—教員の長時間労働が問題になり始めた頃ですね。

はい、委員長を3年務めて現場に戻りましたが、そこで「学校の働き方改革」が必要だと痛感させられる出来事がありました。
学級担任の傍ら、陸上部の顧問も務めましたが、その年、女子4×100mリレーチームが全国大会出場。活躍をねぎらい、「あなたたちのような生徒が、将来教員になって次世代を育成してほしい」と言ったら、「私たち、先生みたいな働き方はちょっと無理です」と返された。ショックでした。

確かに早朝から深夜まで働いていましたが、仕事が楽しくて自分の労働条件なんて2の次3の次だったんです。当時の管理職も、私と同じタイプが多く問題の深刻さに気付きにくい面がありました。

でも、自分も年齢を重ねて、これは持続可能ではないという思いは持っていました。2017年、政府の「働き方改革実行計画」に長時間労働是正が盛り込まれ、教員については、中教審(中央教育審議会)に「学校における働き方改革特別部会」が設置され、緊急提言が出され、社会課題として認知されていきました。

当時、大学生で教育実習を経験した息子からは、教育現場の働き方の実態を知って教員の夢を断念する学生も多いと聞かされました。また、長年「臨時・非常勤」教員として働いていた妻が、山梨県における採用試験の年齢制限撤廃で新採用教員となったのですが、その業務量の多さは想像以上で、「これを若い人たちに強いてはいけない」と言われました。

何とかしなければという思いで、2018年に日教組本部へ。休職専従の切符が2年残っていたので、それを使い切って2020年3月末で教員を退職。2022年に日教組副委員長になり、今年4月に委員長に就任。学校の働き方改革と組織拡大を2大重点方針に取り組みを進めています。

香港日本人学校での授業

—学校の働き方改革の状況は?

長時間労働については、2020年から「時間外労働の上限45時間/月」という国・自治体の指針が定められましたが、公立学校教員勤務実態調査(2022年度、文部科学省)によると、いまだ小学校で64%、中学校で77%が上限を超えている実態が明らかになりました。
背景には「定額働かせ放題」と言われる給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)があります。「教員の職務と勤務態様の特殊性から勤務時間の内外を切り分けるのが難しいため、それらを包括的に勘案して給与月額の4%相当の教職調整額を支給する」制度(その代わり時間外・休日勤務手当は支給されない)で、日教組は、その廃止・抜本的見直しを強く求めてきました。しかし、今回の中教審特別部会においても連合から委員を出し、力強く意見反映をしていただきましたが、未だに給特法の枠組みを維持することとなり、これでは長時間労働が根本的に解決されないと考えます。

行事の精選やICT化など、現場での取り組みが進んでいますが、時代は変わり、負担は確実に重くなっており、現場の努力だけでは限界です。教員の週あたり持ち授業時数を制限したり、部活動の地域移行等をすすめたりする等の業務削減とともに、人員増を実現させるための財源確保が重要です。最新のOECD調査(2020年)では、「初等教育から高等教育の公的支出がGDPに占める割合」が加盟38か国中37位でした。当面の目標としてこれをOECD平均へと上げていくことが大切です。

「教員離れ」と言われますが、教育学部の学生も教員採用試験を受ける新卒学生もそれほど減ってはいない。離職者が急増している。だから、今、ここで手を打たないと取り返しがつかなくなるという思いで運動しています。

学校の働き方改革についての街宣活動

—組織拡大は?

これも今取り組まなければいけない重要な課題です。
山梨県教組は組織率ほぼ100%で教育研究活動も盛ん。だから、教研活動を通じて、他の学校の教員と知り合える。どこの学校に異動しても知り合いがいて心強い。
また、組織率が高いと、要求の実現力が高まる。山梨県は全国に先駆けて25人学級(小1~小4)を実現し、業務削減につながる「文書半減プロジェクト」も行政主導で実施されています。
組合が要求し、目に見える改善が実現することで、組合への理解が広がるという好循環が生まれている。その経験を活かして、規模が小さいながらも懸命に運動している加盟組合の力になりたいと思っています。

近年、組織拡大に向けて力を入れているのが、教員採用試験対策講座です。臨時・非常勤教職員として働きながら採用試験をめざしている人は少なくありません。でも、仕事が忙しくて試験勉強がなかなかできない。そこで、組合を知るきっかけにもなればと、単組で臨時・非常勤教職員向けの対策講座を開講し、手応えを感じています。

山梨県教組第81回定期大会

テーブルもドアもベビーベッドもDIY

—ご趣味は?

DIYです。10数年前に建てた自宅は、造作や家具を自分で製作。最近、孫が産まれたので、そのベビーベッドも作りました。ドアは必要な7枚のうち3枚が手付かずですが、4月から東京に単身赴任したので完成はもう少し先になりそうです。
田舎暮らしの楽しみは、庭で開くホームパーティ。「バーベキューやるぞ」というと、地元の教え子たちが家族を連れて遊びに来てくれて、学校現場を離れた私には本当に楽しい時間になっています。

—好きな映画や本は?

映画なら学生時代に観た『ニュー・シネマ・パラダイス』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督・脚本、1989年製作)。シチリアの小さな村を舞台に映写技師と映画に魅せられた少年の深い交流を描いた名作です。
本なら『戦う石橋湛山—昭和史に異彩を放つ屈伏なき言論』(半藤一利著、東洋経済新報社)。石橋湛山は、山梨県出身のジャーナリスト・政治家で、戦前から一貫して帝国主義・植民地主義に反対し、小日本主義思想を貫いた。今こそ、読まれるべき本だと思います。

—尊敬している人は?

石橋湛山先生、そして同じ山梨県出身の輿石東元参議院副議長です。輿石先生は、私の10代前の山梨県教組委員長であり、「全ての人に出番と居場所を」の大切さをご指導いただきました。

「一人の百歩より百人の一歩」を

—座右の銘は?

教育現場でも、組合活動でも、「一人の百歩より百人の一歩」を大切にしてきました。今でこそ、「誰も取り残さない」ことが様々な分野で掲げられていますが、嬉しいことも悔しいことも分かち合えるクラスをつくりたいという思いが、私の原点です。

—誰にも負けないことは?

あえて言えば、教え子とのつながりでしょうか。
実は1997年4月に香港の日本人学校に派遣され、7月に香港が中国に返還されるという歴史的な出来事を目撃しました。3年を香港で過ごしましたが、ミドル世代となった教え子たちと今もつながっていて、「里帰りしたから食事でも」と誘ってくれるんです。

—ご自分を動物に例えると…。

家に帰ると、大工仕事をしていたかと思えば、畑をいじり、庭の芝刈り…。とにかくじっとしていないので、妻からは「マグロみたい」と言われています。

—連合副会長としての思いは?

連合2024年度重点政策に「教育機会の均等実現と学校の働き方改革を通じた教育の質的向上」を入れていただきました。連合の仲間のみなさんに学校の働き方改革を応援していただけることを本当に心強く思っています。
また日教組の女性組合員比率は56%。連合とともに「ジェンダー平等」の取り組みにもいっそう力を入れていきたいと思います。


[i] 「教育研究全国集会」とは、日教組が年に一度開催する全国的な教育に関する研究集会。1951年以来開催されており、2024年1月に開催した73次集会では全国から延べ8,000人の教職員が参加し、子どもが主体となる教育実践をもとに議論を深めた。