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連合総研「労働組合の未来研究会」報告書 読んでみた!
働く人たちのシンクタンクである連合総研(公益財団法人連合総合生活開発研究所)。
そのWEBサイトに5月16日と6月19日の2回に分けて、「理解・共感・参加を推進する労働組合の未来に関する研究会」(座長:玄田有史 東京大学社会科学研究所教授/以下、「労働組合の未来」研究会)の報告書がアップされた。
タイトルは『労働組合の「未来」を創る―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』。いったいどんな内容なのか。RENGO ONLINE編集部で読んでみた!
※連合総研「理解・共感・参加を推進する労働組合の未来」に関する調査研究
https://www.rengo-soken.or.jp/work/2019/01/020540.html
※『労働組合の「未来」を創る―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』報告書全文
https://www.rengo-soken.or.jp/info/union/
「労働組合の未来研究会」の報告書の総ページ数は282ページ。印刷物ならかなり分厚いものになりそうだが、基本的にWEBサイトからPDFファイルをダウンロードする形で提供されている。紙にプリントしたい衝動を抑え、パソコンの画面上で読み進めることにした。
労働組合の連帯的役割は一層重要に
「労働組合の未来研究会」がスタートしたのは、2022年5月。どんな問題意識を共有し、何を目的に調査研究をスタートしたのか。それは『総論「労働組合の未来」研究会のメッセージ』の1ページ目に書かれている。
○調査研究の目的
「働く」を取り巻く環境が激変するなかで、人々は、安心して、将来に展望がもてる働き方・生き方を求めている。多様な個人が多様な選択をできる社会は、働く人々がキャリア孤立に陥るリスクと隣り合わせのため、労働組合の連帯的役割は一層重要になっていく。
しかしながら現在、労働組合の活動に対する社会の共感や期待は必ずしも高いとは言えない。これまでの取り組みを大切にしつつも、組合のニーズに合わなかったり、取り組みが見えなかったりするために、「組合役員のなり手がいない」「組合員獲得にパワーがさかれ、他の活動に力を入れられない」といった、労働組合そのものの持続可能性や発展を脅かす事態も起きている。
また、連合ビジョンや運動方針でもうたわれているように、近年、労働組合の役割は組合員の労働条件や就労環境の改善に留まらず、社会課題の解決や社会提言にも範囲が広がりつつある。組合の内側にいる組合員向けの活動と、社会という組合の外側を向いた活動には、根本的な違いがあるため、労働組合が社会性を獲得し、広く理解や共感を得るためには、新たな手法が必要である。
そこで、「理解・共感・参加を推進する労働組合の未来」に関する調査研究は、単組の活動実態の調査や社会運動との接続、社会(未組織者)の理解・共感の獲得といった、複合的な視点から取り組む。併行して、海外のナショナルセンターや労働組合の活動についても調査し、5年後10年後に向けた労働組合のありようをまとめる。
確かに「働く」を取り巻く環境は激変中だ。コロナ禍では働き方やコミュニケーションの変化を経験。日本のデジタル化は遅れていると言われていたのに、気づいたらあらゆる場にAIやロボットやチャットGPTなどが導入されている。職場でも地域でも多様性を実感する。20年以上もデフレで物価も賃金も上がらなかったのに、ここにきて物価はどんどん上がっている。賃金も、2024春季生活闘争では、33年ぶりとなる5%超えの賃上げが実現した。「労働組合の連帯的役割は一層重要になっていく」ことは間違いない。
組合員の雇用・労働条件確保に専念?
では、労働組合は、その期待される役割を果たせているのか。
報告書には「労働組合に対する理解・共感・参加は、残念ながら、いずれも低い状態に」あり、その現実を「率直に認めることから」議論をスタートしたと書かれている。
総論から「労働組合に対する理解・共感・参加の現状認識」のポイントを確認しておこう。
◇労働組合員数・組織率の長期的な推移
労働組合の組合員数は、1990年代には 1270万人まで拡大したものの、以降、減少傾向が続き、現在は1000万人を下回っている。
労働組合推定組織率は1989年には25.9%だったが2023年には16.3%まで低下。ただし、パートタイム労働者の組織化は地道な取り組みによって着実に進展。2023年のパートタイム労働者の組織率は8.4%(組合員数141万人)にまで増加している。
◇労働組合に対する理解
衝撃的なのは、労働組合に対する信頼度(「日本版総合的社会調査」(2012))だ。
労働組合は、大企業や学校、中央官庁などの様々な社会組織の中で、最も「わからない」と思われているという。報告書は「労働組合は、批判や不満などの対象となる以前に、そもそもその存在や活動自体が、多くの人々にとって、何をしているのかが『わからない』存在となっているのである。ここにこそ「理解・共感・参加」が必要とされる最も根本的な理由がある」と投げかけている。
◇労働組合リーダーが重視する活動と課題
では、労働組合は、今どんな活動を重視しているのか。
労働調査協議会の「次代のユニオンリーダー調査」(2015)では、「組合員の雇用・労働条件確保の取り組みに専念すべきだ」に賛成する意見が最多。当然といえば当然の回答のようにも思えるが、報告書は「働く人たちのライフスタイルやニーズが多様化しているのに、労働組合は伝統的な『既存組合員の労働条件の向上』に注力したままになっている」と手厳しい。
組合リーダーが抱える課題としては、まず「組合役員自身の過剰負担」を指摘。「執行部へのなり手がいない」「組合の職場会議への参加状況が悪い」「魅力あるキャリアではなくなっている」という声に注目。組合役員の「働き方改革」の必要性を指摘する。
「負のスパイラル」を断ち切るために
こうした現状を分析した研究会は、日本の労働組合は「理解・共感・参加」が得られない「負のスパイラル」に陥っていると結論づける。
産業構造の変化などからそもそも職場に労働組合がないために入りたくても入れないことも多い。またユニオン・ショップなどの組合加入が形式的なものとなっているために、組合に加入しているという実感も持ちにくくなっている。非正規雇用労働者にとっては組合費という負担が大きいこともある。その結果、組合がどんなにその効果についての情報を「発信」しても届かない。また発信の内容や表現が旧態依然のものであったり、多くの正社員男性を事実上対象とした「内向き」なものでありがちでもあった。
そのために労働組合への「理解」が広がらず、どんなに改善の努力を積み重ねても、実態が正確に把握されず、負担感のイメージばかりが浸透する状況につながっている。そうなると、労働組合に対して「共感」が生まれる余地はきわめて乏しく、積極的に「関与(参加)」するといった選択も難しくなっているのである。
現状を変えようと努力している人々とともに
どうすれば、この「負のスパイラル」を断ち切り、正のスパイラルに転換することができるのか。研究会は、「労働組合とは何か、労働組合はなぜ変革が難しいのか、労働組合の現実の変化をどうすれば起こせるのか(変革の実効性)、組合運動における重層性」という4つの論点を重視し、さらに議論を重ねた成果が『労働組合の「未来」を創る―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』だ。その特徴についてはこう記されている。
労働組合の課題や変革の必要性については、2003年の「連合評価委員会最終報告」を筆頭に数多くの論稿が存在する。にもかかわらず、再び「労働組合の未来」研究会で議論を重ねるのであれば、いまなお解決していない課題や新たに考慮すべき事象は何かをはっきりさせ、それらの解決のために従来以上に実効性の高い変革案や方向性を示す必要があるとの意見が出された。
…そのひとつは、組合活動の時間的・金銭的制約を乗り越えるための法制度の提案である。日本では組合活動は就業時間の外側で行うことが原則だが、海外には就業時間のタイムオフにより組合活動が認められていたり(これにより組合活動を行うための時間的・金銭的負担が少ない)、組合費以外の財政基盤を有した組合運動が存在していた。組合活動における時間的・金銭的制約への対応は、女性や非正規雇用労働者など、多様な人々が組合活動に参加するためにも重要である。
現在、労働組合に強く期待されている多様な人々の包摂に向けて、他にも「ファンダム」や「心理的な壁」といった制度を超えた概念も提起する。心理的な共鳴を重視する本研究会の姿勢は、「コミュニケーション・デザイン」という言葉に象徴され、好事例やコミュニケーション変革について探索することとなった。
…労働組合が理解や共感、参加を広げていくには、組合員に向けた内側の取り組みと、組合の外側に向けた取り組みのどちらも大切である。外側に向けた情報発信の一環として、研究会では「社会課題への挑戦」「海外労組の挑戦」というWebでの事例紹介にも取り組んだ。
今回の「労働組合の未来研究会」の提言は、過去の提言とどこがどう違うのか。
注目されるのは、総論にある「現状を変えようと努力している人々の立場に立ち、なにが根源的な課題であるかを見出すことにつとめた」というフレーズだ。
過去の提言は、「このままでは労働組合は衰退・絶滅するぞ」と組合リーダーを叱咤激励する内容だったように思う。でも、今回は、日々悩みながら奔走する組合リーダーの立場に立って、課題の本質を浮き彫りにし、その解決のための新しい手段やアプローチを提案し、一緒に労働組合の未来を創っていこうと投げかけてくれている。目線が「上から」ではなく、とってもフラットなのだ。しかも「現状を変えようと努力している人々」への取材・調査も豊富に盛り込まれていて、「新しい発見」や「共感」に出会える内容になっている。ぜひ、連合総研のWEBサイトにアクセスして、興味のあるテーマから読んでみてほしい。
▶予告/さらにRENGO ONLINEでは、研究会に参加した5人の研究者にインタビュー!「新しいアプローチ」について深堀りしていきます!
『労働組合の「未来」を創る―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』
報告書全文はこちらから https://www.rengo-soken.or.jp/info/union/
総論「労働組合の未来」研究会のメッセージ
「労働組合の未来」研究会の狙いとまとめ
第Ⅰ部 最先端の研究者が迫る労働組合の問題点と可能性
1章 組織拡大の現状と課題 首藤若菜 立教大学経済学部教授
2章 労働組合と民主主義の未来 ―地域とファンダムの可能性― 宇野重規 東京大学社会科学研究所長
3章 批判されるより怖いこと ―「勤労者短観調査」の20年の比較― 梅崎 修 法政大学キャリアデザイン学部教授
4章 労働組合は変わったほうがいい? だとすれば、どこをどうやって?—構成員の多様化、対抗性・政治性、歴史と改革のバランス— 富永京子 立命館大学産業社会学部准教授
第Ⅱ部 労働組合を取り巻く環境の大胆な転換を働きかける
5章 労働組合と政策形成 ―政労使トップによる中期的な経済社会の方向議論の場が必要― 市川正樹 連合総研所長
6章 「労働者代表制」と労働組合法の狭間を埋める ―職場の民主主義を守り続けるために― 新谷信幸 連合総研参与
7章 企業別労働組合の未来と労働法 植村 新 関西大学法学部 教授
8章 座談会「労働組合の未来のためにできること」
第Ⅲ部 労働組合は変われる・変えられる ―実践からの提案―
9章 『壁を壊す』をたどる旅 ―パートタイマー・契約社員等のユニオン・リーダー― 村上陽子 連合副事務局
10章 キャリアとしての組合経験 ―女性の担い手確保に向けて― 縫部浩子 連合 総合企画局次長
11章 労働組合におけるジェンダー平等推進とクオータ制 ―日仏比較を通じて― 石川茉莉 連合総研研究員
12章 Google労働組合の新しさ ―デジタル時代のグローバル労働運動― 中村天江 連合総研主幹研究員
第Ⅳ部 労働組合の未来はコミュニケーション変革のなかにある
13章 離れた職場に連帯(つながり)を生むコミュニケーション・デザイン 梅崎 修 法政大学キャリアデザイン学部 教授
14章 労働組合が自ら掲げる理想とは? ―組合綱領と実践の分析― 中村天江 連合総研主幹研究員
15章 労働組合の求心力向上に関する分析 ―A労組の分会に着目して― 松岡康司 連合総研主任研究員
16章 地域における「労働者代表機能」を越えて―人口減少、格差が拡大する中での地方連合会の課題― 平川則男 連合総研事務局長
〇世界的・構造的潮流としての組織率低下への向きあい方と存在感の回復(全体)
〇不利な立場にある人々の社会的地位向上(14章)
〇個人の成長や生きがい(キャリア形成支援)につながる組合活動の理解普及(10章)
〇理念・根幹と手法・やり方の分離による変革の追求(4章、14章)
〇変革のために、変えないこと、やめることの見極め(4章、14章)
〇同型性の高い組合の自己定義(規約・綱領等)の見直し(14章)
〇困難克服の手がかりとしての歴史的視点の導入(1章、4章、6章、8章、14章)
〇広い視野確保のための国際的視点の導入(1章、11章、12章)
(執筆:落合けい)