連合リーダーの素顔に迫る!
~第11回 成田幸隆 連合副会長・運輸労連中央執行委員長~
シリーズ第11回は、2023年7月に運輸労連委員長に就任した成田幸隆委員長にインタビュー。組合員の約7割がトラックドライバーであるという運輸労連。ここ数年「2024年問題」への理解を深めたいと奔走してきました。「何よりも人を大切に」と肝に銘じながら、新しい運動を模索するリーダーの素顔に迫ります。
成田 幸隆(なりた ゆきたか) 連合副会長・運輸労連中央執行委員長
1982年日本通運(株)入社。名古屋支社に配属され、日本通運名古屋硬式野球部で活躍。1989年、全日通労働組合中部支部執行委員。1995年に全日通本部へ。執行委員、書記次長、書記長等を経て2017年委員長に就任。2023年7月運輸労連委員長、10月連合副会長に就任。
「何よりも人を大切に」
変えるところは思いきって変えていきたい
社会人野球チームでプレー
―労働運動を始めたきっかけは?
愛知県名古屋市生まれ。小学生から野球を始め、中学では県大会優勝。野球推薦で愛知高校に進学しました。めざすは甲子園。当時、県内には強豪校がひしめいていました。春のセンバツは、後に巨人で活躍する槙原寛己投手を擁する大府高校に敗れ、夏は、後にソフトバンク監督となる工藤公康投手を擁する名古屋電気高校(現・愛知工業大学名電高校)に決勝で惜敗。私は、守備の要と言われるセカンド(内野手)で全力を尽くしましたが、槙原さんと工藤さんからはヒットは打てなかった。
甲子園出場はかないませんでしたが、1982年日本通運に入社し、日本通運名古屋硬式野球部で約7年間プレーしました。引退した1989年、全日通の支部執行委員をしていた野球部の先輩から組合役員をやらないかと声をかけられました。労働組合のことはまったくわかりませんでしたが、体育会系ですから答えは「はい」か「イエス」。職場委員として組合活動を始めることになりました。
「凡事徹底」の職場活動
—野球部から労働組合へ。職場ではどんな活動を?
職場組合員の多数を占めるドライバーは、朝早く配送に出て、夕方遅くに帰ってきます。私は自分の仕事を終えた後、みんなが帰ってくるまで職場で待っていて、「何か困ったことはありませんか?」とひたすら御用聞き。声をかけ続けたら、次第にいろんなことを相談してくれるようになりました。ろうきんでのお金の借り方を伝えたり、スタッフルームのテレビが壊れている、洗濯機が動かないという苦情にも即対応しました。
「凡事徹底」を肝に銘じて、小さな解決を重ねていったら、「よくやっている」と認めてくれた。その成功体験が、私の労働運動のスタートになりました。
そこでもう一つ1つ大きな出会いがありました。1990年、組織内議員である赤松広隆先生(農林水産大臣、衆議院副議長を歴任し、2021年に引退)が旧愛知6区から衆院選に出馬。私は、以来32年間赤松先生の選挙に関わることになりました。キャッチフレーズは「何よりも人を大切に」。先生がそれを実践する姿を間近でみてきましたので、私自身もその言葉を胸に活動してきました。
—そして1991年に愛知県支部の専従役員に。
最初の仕事は、会社と共催の「大運動会」の実行委員会責任者。従業員とその家族を含め3000人以上が参加します。組合活動なのかと言われるかもしれませんが、運動会を通して職場の一体感が高まり、職場が活性化するという効果は確実にある。青年部のメンバーを実行委員に入れて念入りに準備し、当日はプログラムのスムーズな進行に努めました。実践的に組織運営を学ぶことができました。
労働組合の責任の重さを痛感
—そして、1995年7月東京の全日通本部へ。本部での仕事は?
1995年は1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起きて、親戚や友人が心配する中での東京行きでした。
最初は青年部や組織部などを担当し、結婚祝金の増額、永年勤続表彰制度の充実などの整備に携わりました。その後、賃金・労働協約を担当し、賃金制度や社員制度の改定、経営状況の分析などにあたりました。日増しにバブル崩壊の影響が深刻化し、会社の経営も厳しい状況に。2000年代には、業績悪化を理由に度々賃金カットが提案されるようになりました。当時の組合幹部が激しい議論を重ねながら、最終的に雇用を守るために会社提案を受け入れていく過程を間近で見ながら、労働組合の責任の重さを痛感しました。
2011年に東日本大震災が起きた時は、燃料不足でトラック輸送がストップ。政権内にいた赤松先生や海江田万里経済産業大臣を通して燃料確保を要望し、インフラであるトラック輸送を早期に再開できたことは、今も忘れられません。その後、書記長を経て、2017年に全日通の委員長に就任しました。全日通は世界中に組合員がいるので、労使で現地の食住事情や治安を確認に行きました。ロシア、チェコ、ポーランド、ドイツを回った時は、ヨーロッパは地続きで隣国との緊張感は日本とは全く違うと感じました。
全国大会の委員長挨拶で組合費引き下げを提案
—そして、委員長として組合費の引き下げを実現された。
職場委員の頃、組合員から「組合費が高い」とよく言われました。全日通の組合費は3%でおそらく日本でいちばん高かった。いつか自分がトップになったら、組合費を下げて組合員の要望に応えたいと思っていたんです。
専従役員になってみると、全国大会・諸会議や調査のための出張が頻繁にあって組合費を下げるのは難しいとも思いましたが、委員長になったタイミングで2つの大きな変化があり、今しかないと判断しました。
1つは、コロナ禍で活動スタイルが変化したこと、もう1つは、同時期に契約社員の正社員化を行い、組合員が約9000人増えて組合費収入も増えたこと。
委員長として「組合費引き下げ」を提案し、2021年に「3%から2.5%への引き下げ」を実現しました。支部の財政にも大きく影響があり、反対意見もありましたが、これを従来の運動のあり方を見直すきっかけにしていこうと根気強く説得しました。
『2024年問題』への対応に注力
—2023年に運輸労連の委員長に。
日本通運は、グローバルな陸・海・空の総合物流企業ですが、運輸労連に加盟する単組の大半は国内の物流を担っています。「2024年問題、大変ですね」とよく声をかけられますが、私はこの1年、「何が大変なのか」を一所懸命説明してきました。
問題は「物が運べなくなる」ことではなく、「ドライバーの労働条件改善ができていなかった」ことなんです。日本の物流は、多重下請構造の中でドライバーの長時間労働・低賃金に支えられてきた。だから、これは運送業界だけの問題ではなく、国全体の問題だと訴えてきました。
今年4月に物流の効率化をはかる法案が成立しましたが、私はその審議を行う衆参の国土交通委員会の参考人として招致されました。そこでも、荷主企業(発着)や一般の消費者の協力が不可欠であり、トラックドライバーが魅力ある職業になるように働きやすい環境を整備していかなければいけない、また「送料は無料ではない」と申し上げました。
哲学堂公園の周辺を妻と散歩
—休日の過ごし方は?
最近は、妻と2人で近所を散歩しています。家にいるより、歩きながらのほうがいろんな話ができるし、歩き疲れたら美味しいものを食べてお酒も少しいただきます。
お気に入りのコースは哲学堂公園の周辺。組合の社宅が中野区にあったことから、社宅を出たあともその近くに住んでいるんです。
—趣味は?
プロ野球は、少年ドラゴンズ時代からの中日ファンです。最近は、コンビニ型ジムにも通い始めました。カラオケが併設されているところを探して、こっそりノドも鍛練しています。持ち歌は郷ひろみです。
—好きな映画は?
妻が韓流ドラマ好きで、動画配信サービスを複数契約して私も時々一緒に観ています。記憶喪失になったり、財閥を懲らしめたり、パターンが決まっているのがいいんですよね。
—尊敬している人は?
両親です。父は印刷会社を経営しながら、地元で柔道などの体育指導員をボランティアでやっていました。土日はほぼいなくて、急ぎの仕事は母が対応していました。寂しい思いもしましたが、自分が大人になって、損得抜きで人のために指導にあたっていた父のすごさに気づきました。
もう1人は妻です。妻は14年前に初期の乳がんと診断され、手術と抗がん剤治療を受けましたが、その時の彼女の立ち振る舞いに人としての強さを感じました。今は元気で介護の仕事をしていますが、散歩の途中、足元がおぼつかない・自宅がわからなくなっている高齢者を見かけると駆け寄って声をかけ、交番に連れて行ったり、病院に電話したり…。損得勘定抜きで自然と身体が動いてしまうんでしょうね。心から尊敬しています。
—座右の銘は。
「凡事徹底」と「不易流行」。この考え方は労働運動にも通じるところがあり、当たり前のことを実践し、変えてはいけないもの(不易)を守り、同時に新しいものを取り入れていくこと(流行)が必要です。
全日通本部には、過去の資料がすべて保管されていて、当時の役員の自筆の文書が残されています。迷いがある時は、過去の判断をたどると、そこから答えが見えてくる。でも、旧態依然の活動では誰もやらなくなる。コミュニケーションのあり方も大きく変わってきており、今こそ、変えるところは思いきって変えていきたいと思っています。
—誰にも負けないことは?
ゴルフは自信あるかな。やり始めのころ止まっているボールがまっすぐ飛ばず、悔しくて会社帰りに徹底して練習しました。いまは、シングルプレーヤーではないが、アベレージゴルファーの中ではそこそこかな。
ゴルフは性格がでるといわれており、自分の調子が悪いときに相手を不快にさせないことがゴルフを楽しむコツだと思います。
—ご自分を動物に例えると?
おしゃべり好きだから犬系ですかね。人懐っこくて社交的で素直で一途という、最近流行りの「犬系男子」にちょっと当てはまるかもしれません。
—読者にメッセージを
労働運動の世界に飛び込んで良かったと思うのは、何より人に恵まれたことです。
単組でも産別でも連合でも、また交渉相手である会社側の役員とも、公私にわたる関係を築けたことには感謝しかありません。
これからも「何より人を大切に」しながら、新しい運動を広げていきたいと思います。