「辞める気マックス」だった若手社員が、組合で見つけた「楽しみ」「出会い」とは?
休みの日を潰し、横断幕を手にハチマキ巻いてデモをするなんて古臭い…。若い世代の皆さん、「労働組合」にこんなイメージを持っていませんか。あるいは組合との接点がまったくなく、具体的なイメージすら抱けない人もいるかもしれません。
実は20代、30代の中にも、組合でさまざまな人との出会いや、本業ではできない挑戦を楽しんでいる人がたくさんいます。ここでは若いメンバーの「リアル」をお伝えします。
京王観光労働組合中央執行書記長 高玉しずか
2008年4月に京王観光入社。2012年8月より京王観光労働組合中央執行委員、2019年8月中央執行書記次長就任、2021年9月に組合専従となり、2022年に京王観光労働組合の中央執行書記長となり、現在に至る。
若者はデモ行進や街頭宣伝行動にネガティブなイメージ
「恐い」「面倒くさい」「時代遅れ」「休みがつぶれる」…。連合が2022年7月に開いたイベントで、参加者に労働組合のイメージを聞くと、回答にはこんなワードが並んだ。2021年3月に実施した年代別の意識調査でも、50~60代は組合の参加経験のある人が20%を超えたが、20代はわずか6.5%。10~30代の多くが、デモなどの行動で何かを訴えるタイプの活動に対して「恐い」「過激」「主張の押し付けで迷惑」といったネガティブなイメージを持つことも明らかになった。
ただ、「労働組合は必要だと思うか」という質問の回答は、「そう思う」が若者を含め全世代で50%を超えている。「労働者を守る」とうたっている労働組合は、若者にとっても必要な存在のようだ。しかし、組合のデモ行進や街頭宣伝行動は何だかこわいし、日常何をしているかは、参加したこともないからよく分からない。そんな若者たちの思いが、透けて見える。
「楽しそうかも」軽い気持ちで組合に
京王観光で、カウンター業務についていた高玉しずかさんも、20代半ばだった10年前はそんな働き手の一人だった。組合のイメージは「毎月組合費を徴収され、たまに愚痴を聞いてくれることくらいしか意識していませんでした(笑)」という。
そんな高玉さんは2012年、組合OBから役員就任の打診を受けた。定期大会に参加した時に「会社のここがおかしいんじゃないか」などと発言したことで、「組合に向いている」と見込まれたのだ。
しかし間の悪いことに、当時の高玉さんは「組合どころか会社を辞める気マックスで、毎日求人サイトを見ては転職先を探していた」という状態。当然、誘いも「無理です」と断った。すると、入社時代から面倒を見てくれていた別のOBからも呼び出され、「たまちゃん(高玉さんの愛称)なら絶対に向いている。会社のことがよく分かるし、同業他社の知り合いも増えるよ」と説得されたという。
恩のある人に「向いている」と言われ、まんざらでもない気持ちに。「会社を辞めたいとは思っていたけれど、転職先がはっきり決まっているわけでもない。人脈と見聞が広がって、ちょっと楽しそうかも」そんな軽い気持ちで、組合役員を引き受けた。
研修や交流会の企画も 畑違いの仕事が楽しみに
高玉さんは組合役員になって初めて、「組合って、職場を良い方向へ変えられるんだ」と実感するようになったという。かつて職場のオルグで、当時の組合役員に「困ったことある?」と言われて話した内容も、「こんな声が組合員から出ている」と組合から経営側に伝わることで、組織改革に生かされるという道筋を理解できたからだ。
高玉さん自身、ワーキングマザーの交流会を定期的に開催し、働く母親たちの声を経営側に届けた。その結果、育児中の短時間勤務制度の対象となる子どもの条件が、小学校1年生までから3年生までに引き上がったことも。
「現場の声が後ろ盾になるからこそ、組合は経営側にモノが言える。だからこそ組合員に『言っても何も変わらない』と思われないよう、私たちも真剣勝負で交渉に臨み、要望を実現しようと思えるんです」
2015年から6年間は、産別組合であるサービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)の中央執行委員(組合役員)も兼務し、単組と産別、会社の業務という「3足のわらじ」を履いた。産別では男女平等推進担当として、年に4、5回の会議の運営をするなど忙しい日々を送ったが、「当時はあまり負担に感じませんでした。会議の打ち合わせ後の飲み会が楽しみだったせいもありますが(笑)」と当時を振り返る。
高玉さんの会社での仕事は、来店客のニーズに合った旅行プランを提供すること。一方、組合では、交流会や新入社員向けの研修内容の企画・開催、情宣紙(広報誌)の執筆など様々な活動に取り組んだ。「本業と全く違う仕事ができるのが、楽しかった」という。
「あれをやれ、これをやれと指図されるのではなく、自分からやりたいことを提案できて、仲間が『いいね!』と賛同してくれる環境があったことが、行動を後押ししてくれました。産別で多くの人と知り合えたことも、貴重な財産になりました」
コロナ禍で組合員から悲鳴、とにかく話を聴き続けた。
21年9月からは組合専従となり、22年に書記長に就任した。コロナ禍の真っ只中、行動も制限され旅行需要がほぼゼロに落ち込み、業界が大打撃を受けた時期である。京王観光も、リーマンショックや東日本大震災を上回るほどの経営危機に直面し、希望退職の募集や店舗数の大幅縮小を余儀なくされた。組合も交流会や懇親会は中止、各種会議はオンラインに変わり、活動が大きく制限された。
現場の組合員からは「仕事が入らない」「やっと予約が入ったのに、コロナ感染がまた拡大してキャンセルになった」といった悲鳴も噴出。「いずれいい時期が来るから頑張ろう、などといううわべの励ましはとても言えない、さみしさ、苦しさがありました」と、高玉さんは回想する。できるのは話を聴くことくらいだからと、とにかく彼らの話を途中でさえぎらず、最後まで聴くことに努めた。
高玉さんは活動へのコミット割合を「プライベート7、組合3」と話す。「組合員のために何としてでもやらなければ」と肩肘はらずに、いい意味で肩の力が抜けていたことが、困難な時期を乗り切る余裕につながったのかもしれない。
職場の「楽しくなさ」を排除するのが組合の役割
今は空前の売り手市場という事情もあり、若い世代は職場に不満があっても特に働きかけることはせず、「辞めよう」という考えに向かう人も多いとか。しかし高玉さんは、「職場で『これはおかしい』と身の回りの課題に気づいたら、そのままにせず行動を起こしてほしい」と期待する。
「職場を変えるための方法の一つが組合です。おかしいと声を上げれば『私もそう思う』という仲間が賛同してくれるし、一緒に解決に取り組むこともできます。同業他社にも共通する課題なら、産別を通じてさらに多くの仲間と知恵を出し合うこともできます」
京王観光労組は、高玉さんの書記長就任と同じ時期に若返りが進み、役員10人の半数以上が20~30代前半。ただ、若さゆえに組合の知識が浅いという悩みもあり、若手に「会社との交渉って、何をするんですか?」と聞かれて「そこから!?」と驚いたことも。
一方で「組合員のために、という思いさえあれば、年齢にかかわらずやりたいことにどんどん取り組めるのが、組合の面白さ」とも話す。会社組織のように、係長、課長、部長…と承認を得る必要もなく、メンバーの「いいね!やろう」で物事が動く機動力も大きな特長。高玉さんは組合活動を「楽しいから続けられた」と言う。
「何事も楽しまなきゃ損だし、ある意味で組合は、職場の『楽しくなさ』を排除できる組織でもあります。なにかのきっかけで組合にアクセスし、面白そうだと思ったら、あまり考えすぎず、素直に参加してみてくださいね」
高玉さんが経験したように、リアルの組合には他の活動で味わえない楽しみや、新たな出会いが待っているかも。皆さんも一度、イメージとの違いを自分の目で確かめてみては?
(執筆:有馬知子)