紙つぶて

 
2018年10月29日
予定調和

 「イタタ。一本取られた」
 ある意見交換会でのこと。超少子高齢化や人工知能は働く環境をどう変えるか、職場の活力を失わず、いきいき働き、暮らす社会づくりには何が必要か、重たいテーマに仲間と挑んでいました。
 進行係は私。次々に発言者を指名する私のむちゃぶりは、テニスなら、さながら左右に振るショットですが、見事に反応する参加者の的確な発言が会場内を飛び交いました。超人手不足と外国人労働者のひろがり、年々細る地域のつながりなど、足元で進む変化に皆がうなずき、ラリーも終盤。私がある女性に発言を求めた時でした。
 「最後はいつも、こういう感じなんですよね」と彼女は控えめに言いました。彼女は「少子化だ」「働き方改革だ」「女性活躍だ」「女性の声が大事だ」「今日も立派な意見がたくさん出た」「良い会議だった」という、何度も経験した話し合いのお決まりの雰囲気をその日も感じていたのです。ゆるゆると彼女に放った私のサーブ。その球筋を見切ったリターンは、私のコートの隅を捉える完璧なエースでした。
 彼女の一打は、本質に迫らない予定調和の罠、その危うさを私に教えてくれました。そして、日本全体が予定調和にはまっていては、職場や社会の課題解決には程遠いと告げる一打でもありました。

2018年10月29日の東京新聞・中日新聞夕刊に掲載