紙つぶて

 
2018年10月15日
お前らしさ

 幼い時分からの私を一番良く知る友人S氏。同じ幼稚園、小学校。中学のバスケットボール部では共に汗をかきました。小学生の頃、学校が終わると彼は決められたように、私の家に一日二度目の「登校」。自営業だったわが家。出入りする職人さんたちの合間を縫うように二人で駆け回りました。当時のわが家のどこに何が置いてあったか、私より鮮明に描写できる彼には驚かされます。
 毎年、年の瀬が近くなると、しっかり者の彼から「そろそろ、どうだ」と連絡が入ります。顔を合わせるのは年に一度。その日の気分で定めた暖簾をくぐり杯を傾ければ、まずは地元の仲間の消息、子供の成長や親の様子を定点観測。やがて話題は健康関連に移り、お銚子に勢いがつきます。何度思い出しても大笑いする十八番の昔話が、二度三度回り出せば、それじゃ来年もお互いお元気で、と酒量で勝る彼に割り勘負けし、毎度、勘定面では納得いかないお開きと相成ります。
 この調子で何十年と重ねた一昨年の年末。彼が「相原は昔から青臭いこと言ってたよな」とさらりと言いました。話は次々と転がって、お開きとなりました。取り留めない会話の流れに挟まった一言。理想を語る姿がお前らしさだよと、私を見てきた彼一流の激励のつもりだったのか。今年は勘定の前に尋ねてみよう。せめて言葉の意味だけは納得して新年を迎えたい。

2018年10月15日の東京新聞・中日新聞夕刊に掲載