連合ビジョンの深化

2019年2月13日

節目ごとに運動の理念を提示

インド独立の父とされる、マハトマ・ガンジーは、「七つの社会的大罪」というものを説きました。その第一に挙げたのが「理念なき政治」です。

「理念なき政治」の下では、国家は漂流し、国民は浮き草の如く彷徨います。労働組合も同様です。理念がしっかりしていないと、目先の利益だけに囚われる行き先のない集団になってしまいます。連合は1989年の結成時に、運動の理念となる「連合の進路」を定め、節目ごとに「くらしの総合ビジョン」(1998年)、「連合21世紀ビジョン」(2001年)、「歴史の転換点にあたって〜希望の国日本へ舵を切れ」(2008年)、「働くことを軸とする安心社会」(2010年)など、めざす社会像を提示してきました。

連合が掲げている「働くことを軸とする安心社会」とは、「働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型の社会」です。そのイメージを具現化するものとして5つの「安心の橋」を提示しています(図)。安心の5つの橋とは、教育と働くことをつなぐ橋(橋Ⅰ)、家族と働くことをつなぐ橋(橋Ⅱ)、働くかたちを変える橋(橋Ⅲ)、失業から就労へつなぐ橋(橋Ⅳ)、生涯現役社会をつくる橋(橋Ⅴ)のことです。

誰一人取り残されることのない社会

現在、連合では結成30周年に向けて、「連合ビジョン」の改訂作業を進めています。

今回の改訂作業では、「働くことを軸とする安心社会」の価値観についても検証しましたが、そこでの結論は、その意義は変わらないどころかむしろ高まっているということでした。この価値観を継承しつつ、加えて、持続可能性、包摂性の価値観を補強することとしました。まだ素案の段階で、今後加筆するところもありますが、現時点で連合がめざす社会像を以下のように定義しました。

〈「連合ビジョン(素案)」より抜粋〉

働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件の下、多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的・経済的に自立することを軸とし、それを相互に支え合い、自己実現に挑戦できるセーフティネットが組み込まれている活力あふれる参加型社会である。加えて、「持続可能性」と「包摂」を基底に置き、年齢や性別、障がいの有無、国籍にかかわらず多様性を受け入れ、互いに認め支え合い、誰一人取り残されることのない社会、すなわち「つづく社会」「つづけたい社会」である。

これまではディーセントな仕事が保障され、病気、失業、子育て、老後などに対するセーフティネットを確立することを重視してきましたが、これからは不確実でさまざまな変化にかかわらずディーセントワークを実現し、その仕事自体をいかに生み出していくか、人権やキャリア権が尊重され働くことのできるルールの網をいかに広げていくか、希望する人は誰もが働くことができる支援をいかに拡充していくか、人生の時間軸が変化する中で多様な生き方や多様な働き方をいかに幅広く選択できるようにするかなど、「働くこと」に深く関わる課題に対応した理念を深化させていくという思いが、ここには込められています。

 

「まもる」「つなぐ」「生み出す」

今回の改訂作業では、2003年に最終報告が示された「連合評価委員会」で外部の有識者の方々から指摘された「より弱い立場にある人々とともに闘うこと」や「職場や地域で働く労働者の頼りになる存在であること」といった事項も、運動強化の視点として強く意識したものとなっています。それを「めざす社会の実現に向けた運動〜『まもる』『つなぐ』『生み出す』〜」と表現しました。

『まもる』とは「働く仲間一人ひとりをまもる」ということです。今は、多様性(ダイバーシティ)を前提として職場や社会を組み立てていく時代になっています。今後多様化はますます進むでしょう。そこには「曖昧な雇用」の拡大という問題も指摘されています。労働組合は、働く仲間一人ひとりの声に耳を傾け、問題解決の力となる必要があります。そして集団的労使関係の力、働く者のワークルールの設定、労働教育などを通じて一人ひとりを守っていきます。

『つなぐ』とは「働く仲間・地域社会をつなぐ」ということです。まずは組合員にとって最も近い「単組活動」へ主体的に活動に参加できるようにしていくことが肝要です。そこから地域社会や構成組織(産別)、そして連合につながる「参加の好循環」を作っていくことを提起しています。貧困や環境問題など地球規模の課題、グローバル・サプライチェーンにおける労働問題など国外の労働者と協力して取り組まなければならない課題もあります。安心社会を世界につなぐことも私たちの使命です。

『生み出す』とは「社会・経済の活力を生み出す」ことです。「生む」には「今までなかったものを作り出す」という意味があります。今までなかったものを形にしたいという思いがここには込められています。

私たちは、これまでも産業構造や雇用構造の変化に対応しながら雇用を守り、仕事を作ってきました。その際の拠り所となっていたのが「生産性三原則」です。三原則とは、①雇用の維持・拡大、②労使の協力と協議、③成果の公正な配分のことを言います。

これからの日本は、人手不足が深刻さを増す一方、超高齢化社会の到来、第4次産業革命と呼ばれるAI、IoTなどの技術革新で、地域社会や産業構造の大きな変化が予想されます。こうしたさまざまな社会課題に対して、生産性三原則を深化させ対応していくことが重要です。

グローバル規模の取り組みとしては、国連が定めた「持続可能な開発目標」(SDGs)の推進が挙げられます。SDGsには、ディーセントワークの促進など包括的な17の目標が掲げられています。加えてILOは今年100周年を迎えますが、新たな100年に向けて7つの課題を掲げ、「すべての人が人間らしく働ける世界」を確立するための取り組みが始まっています。連合は、「つづく社会」の推進に向けたメッセージなどを発信するとともに、「誰一人取り残されない」社会の実現をめざし、その一翼を担っていきます。

今年10月の大会に向けて、「連合ビジョン」の改訂作業はまだ続きます。