会長挨拶

 
2021年12月2日
第86回中央委員会 冒頭挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

  第86回中央委員会にご参加の皆さん、おはようございます。師走の時期を迎え、2021年も残り少なくなりました。中央委員、傍聴の皆さん、役員、顧問、関係団体の皆さん、そして報道関係の皆さん、本中央委員会にご参集いただきましたこと、まことにありがとうございます。中央委員会の冒頭にあたり、2022年春季生活闘争など、当面する課題につきまして、所見を申し述べさせていただきたいと存じます。
 まずは、すでに報道でご存じかと思いますが、今年の「新語・流行語大賞」についてです。昨日開催された発表・受賞式で、トップテンに「ジェンダー平等」が選出されるとともに、受賞者として私が表彰を受ける機会を得ました。ジェンダー平等の言葉自体はこれまでもありましたが、今回クローズアップされたことは、オリンピック・パラリンピックをめぐる経過やSDGsの動向はもとより、コロナ禍で多くの女性が困難な状況に置かれる中、より一層の取り組みが求められていることの現れだと思います。表彰対象に私が選ばれたのは、連合会長に選出された時期と重なったことがあると思いますが、私としては、ジェンダー平等や多様性の課題に取り組む多くの方々への表彰と受け止めつつ、労働運動におけるジェンダー平等のさらなる推進につなげていきたいと思います。

1.ジェンダーの視点が大事

 関連して「ジェンダー平等」について申し上げたいと思います。
 会長就任以来、取材を受けることが多くありましたが、そのなかで会長は「すべての活動にジェンダーの視点を」とおっしゃっていますが、具体的にはどうするのかと問われることが幾度となくありました。
 私がたびたび申し上げておりますのは「ジェンダー主流化」という考え方のことです。これは、1995年の第4回世界女性会議の北京の宣言で概念が説明され、社会に発信されているものです。あらゆる領域、段階において、政策や立案、そのプログラムに含むすべての行動計画と女性に対する影響を評価する、そのプロセスを組んでいこうということです。具体的には、ジェンダー予算(予算全体の中でどのくらいの割合をジェンダーの取り組みにつかっているか)とか、ジェンダー統計(社会的・文化的に形成された男女の生活や意識における偏り、格差、差別を明らかにする統計であり、男女平等を実現するには、まずその不平等さを明確にすることが必要)等ということになると思いますが、私たちがここにアプローチしたり着手したりということにはまだ少し遠い距離があると思っていますので、まずは参画ということになろうかと思います。
 そして女性が一定割合参画し、意思決定に関わることが当たり前になることで、結果、男女平等参画が組織全体で取り組むべきメインストリームになっていく。そういった環境をつくっていくことが必要であると思います。いわゆるクリティカルマスもそういった取り組みの延長にあります。
 元国連の女性差別撤廃委員会の委員長の林陽子さんは、女性リーダーを生み出す社会、その社会のありよう、その物事はそれ自体すべてが語っているのだということ、女性のリーダーを生み出す社会には生み出すための社会のありようが既にそこにあるのだということに是非日本は気づくべきだということをおっしゃっていました。物事はそれ自体が語るということ自身の重みを私たちがしっかり頭に置いて、運動を進めていくことをいま一度確認していきたいと思います。

2.2022春季生活闘争について

 次に、2022春季生活闘争について触れたいと思います。

 本日の中央委員会で2022春季生活闘争方針(案)を審議・確認いただきたいと思います。10月21日の第1回中央執行委員会で「基本構想」を提起、中央討論集会や委員会等各種会議での議論を経て、11月18日の第2回中央執行委員会で確認いただいた案をもって、本日の中央委員会に議案として提起します。
 2022春季生活闘争について、ポイントを絞って私の見解を申し上げます。
 日本の賃金は1997年がピークで、そこからほとんど伸びておらず、いまでは先進国の中で低位に置かれてしまっています。生産性の伸びにも追いついておらず、労働者に適正な分配が行われてきたとは言い難い状況です。
 このことにようやく、社会が注目するようになってきました。この状況を変えていくためには、まず、労働組合が「人への投資」を積極的に求めていく必要があります。
 2年続けてコロナ禍の中での闘争となりますが、産業によって依然厳しい状況におかれているところもあるとは言え、昨年とはかなり状況が異なると認識しています。
 労使がともに、自らの企業の状況や雇用・労働のあり方について、まずは現状を認識し、その上で5年後10年後の未来の姿を描き、そこに到達する道筋を考えていくことを通してこそ未来はつくられる、との思いから「未来づくり春闘」を掲げています。
 2つ目に、置かれた状況を踏まえつつ、すべての組合が賃上げに取り組んでいただきたいと思います。2014春季生活闘争以来の「賃上げの流れ」はここまで継続していますが、春季生活闘争に参加する組合のうち賃上げを要求する組合は7割前後で、賃上げの獲得組合数は2018闘争以降減少に転じてしまっています。まず、要求をしていただきたいと思います。要求がなければ交渉も賃上げもありえません。もう一度ここで、労働組合が要求して賃上げを獲得し、それを社会全体に波及していくことの重要性を互いに確認したいと思います。
 賃上げのほか、生活時間と労働時間のバランス、職場における均等待遇など、働き方の改善も引き続き重要な課題です。コロナ禍からの改善を下支えするための政策・制度要求とあわせ、2022春季生活闘争における3本柱として取り組んでいきたいと思います。
 3つ目には、集団的労使関係を広げていくことの重要性です。労働組合の推定組織率は17.1%で、雇用された働く人の中で労働組合に入っている人は5人に1人もいません。我々組織労働者が獲得した労働条件を未組織の人に波及させていくことも、もちろん連合の大きな役割ですが、同時に、労働組合への関心が最も高まるこの春季生活闘争の機会をとらえて、社会に労働組合の役割や意義をアピールし、仲間づくりにつなげていきます。さらには、雇用関係ではない形で働いている方々も含め、すべての働く仲間をまもりつなげていく、という基盤整備もあわせて提起しています。
 もう一つ、10月6日の第17回大会で会長に選出いただいてからの2か月間、「女性初」ということもあったのでしょうが、数多く取材いただき、ある意味ありがたいことにジェンダー平等に否応なく注目が集まりました。労働組合と言う組織の中で「ガラスの天井を打ち破る」ということを申し上げましたが、「ガラスの天井」は組織だけでなく賃金にもあり、またジェンダーだけではなく雇用形態にもあります。2022闘争では男女間の賃金格差、雇用形態間の賃金格差の是正に力を入れたいと思います。
 これらの思いをこめて、2022春季生活闘争のスローガンを「未来をつくる。みんなでつくる。」としました。10月21日の基本構想確認後に募集を開始しましたが、応募いただいた案のほとんどに「未来」や「みんなで」という言葉が使われたと聴いています。基本構想に込めた私たちの思いをくみ取っていただけたのだと受け止めています。
 新型コロナウイルスの状況や原油等の価格の急騰、円安の進行など、状況は不透明だが、だからこそ、労働組合から「未来をつくる。みんなでつくる。」をしっかり発信していきたいと思います。闘争方針(案)の活発な審議をお願いしたいと思います。
 なお、この間、政府の「新しい資本主義実現会議」に出席し、コロナ禍が浮き彫りにした社会の脆弱性の課題を指摘し、雇用と生活の希望につながる基盤づくりにつながる施策の実施を主張しています。11月26日の会議では、賃金に関する議論があり、私からは、全体的な賃金水準の引き上げと賃金格差是正の必要性をあらためて主張したところです。そのうえで、政府には、賃上げしやすい環境の整備、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配の促進、男女間賃金格差の解消など、政府の役割の範囲でやるべき取り組みを着実に進めるよう求めました。いうまでもなく、政府の発言だけでは賃金・労働条件の改善は実現しません。働く現場の声を要求としてまとめあげ、労使が真摯な交渉・協議を積み重ねることしかありません。改めて、この認識を共有しあいたいと思います。

3.非正規雇用労働をはじめ多様な就労形態の抱える課題

 コロナ禍の影響は多くの働く仲間とその家族を直撃し、雇用と賃金・労働条件が脅かされ続けています。一方で、社会的セーフティネットの脆弱性もより浮き彫りになりました。とりわけ、パート・有期・派遣契約、フリーランスなどの形態で働く人、女性、外国人、学生など多くの仲間が困難な状況に立たされています。多種多様な働く人、その人の意見やあるいは主張や提案を事務局長と2人で幅広に聴きながら、連合全体を推進していくということに今まで以上に注意を払う必要があると思っております。
 フリーランスやプラットフォームワーカーなどのいわゆる「曖昧な雇用」と言われる就労者への支援や連合ネットワーク会員「Wor-Q(ワーク)」はすでにはじめていますが、地方連合会等とも連携し、非正規雇用労働、パート労働などの雇用・就労形態で働く人たちの抱える課題やつながりといった取り組みについても進めていく必要があると考えています。それぞれの組合内において、職場にいる非正規雇用、未組織の労働者との対話も進め、その抱える課題を共有し、一つ一つ解決する営みも強化する必要があると考えています。
 連合は、これからの時代に相応しい「まもる・つなぐ・創り出す」運動を力強く牽引し、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて、すべての働く者・生活者の先頭に立ち、社会に広がりのある運動をつくりだしていく所存です。引き続きご支援・ご協力をお願いいたします。

4.国際労働運動

 そして世界を見渡すならば、ミャンマーや香港など、民主主義、労働組合権が危機にさらされている国や地域があります。ITUC(国際労働組合総連合)の仲間とともに連帯し、支援を重ねていかなければなりません。先日、L20サミットが開催され、私もZOOMにて参加しましたが、人々に繁栄をもたらし、地球を守るための労働者の要求についての労働組合としての取り組みについて討議するものでした。TUCのオグレディ書記長も女性で、互いに両国の労働運動をけん引する立場ということで連帯感が強まり、女性参画の取り組み、苦労や経験についての意見交換をしました。こうした会合にも連合として積極的に参加していかなければなりません。
 同時に、足もとに目を向け、ILOの中核的労働基準の批准はもとより、わが国自体の民主主義の力を立て直していくことも、私たち自身の課題として進めていかなくてはなりません。

5.政治について

 10月31日に第49回衆議院選挙が行われました。すべての構成組織・地方連合会の仲間の皆さんにおかれましては、コロナ禍で従来型の運動に制約がある中、それぞれの立場でご奮闘いただいたことに心より敬意を表します。大変お疲れさまでした。結果については、極めて残念なものであったと受け止めています。自民党が単独で絶対安定多数の261議席を獲得し、二大政党的体制の実現には至りませんでした。連合も前回の総選挙を上回る213名の候補者を推薦しましたが、当選者数は前回と同じ99名にとどまりました。引き続き与党が国会の圧倒的多数を占めるという難しい環境下ではありますが、組合員や連合に期待していただいている多くの人たちの声をもとに練り上げた政策を実現するために、政治活動の歩みを止めることはできません。そのためにも、まずは、今議論いただいている今次総選挙の「取り組みのまとめ」で課題を明らかにし、今後何をすべきかを共有する必要があります。現場で見たことや肌で感じたことなど、すでに多くのご意見をいただいておりますが、議論を尽くすことが組織の結束力を強化することにもつながりますので、是非、忌憚のないご意見をいただきたいと思います。そして、それを来年の夏に行われる参議院選挙で明るい展望が開ける結果が得られるようにつなげてまいります。

 12月6日からは臨時国会が始まります。岸田内閣発足後、また、立憲民主党の泉健太代表が就任して初の本格論戦の場となります。安倍、菅政権では、政府・与党の数の力に任せた強引な国会運営が目立つ一方で、野党もなかなか存在感を示すことができずにいました。これからは、与野党ともに国民の声に真摯に耳を傾け、政治不信を払拭すべく生まれ変わった立法府の姿を見せていただきたいと思います。その際、目下の課題はコロナ対策で、傷んだ国民生活や経済の立て直しが急務であることは言うまでもありません。加えて、中長期的な課題として、成長や分配だけではなく、いかに負担を分かち合うかも含めた建設的な政策論争が行われることを期待します。
 連合も、労働諸条件改善の取り組みと政策制度実現の取り組みを運動の両輪と位置付け、推薦議員との連携強化や政党への要請行動に引き続き取り組んでまいります。

おわりに

 最初の「新語・流行語大賞」もそうですが、連合とその運動を世の中に打ち出していくようなやり方について考えていきたいと思います。連合がすべての働く者のための運動を展開している組織だということを、働く人々あるいは社会全体にアピールし、社会から共感を得られる運動をつくらなければならないとも思っています。連合の運動が今間違った方向に行ってないのかどうか、あるいは世間から見てどうなのか、顔が見えるのか見えないのか、こういうようなことについて考えつつ、組織外にある多くの働く人たちからも共感を得て、参画してもらえるような運動も展開しなければなりません。誰でも納得できる運動の打ち出し方ができないか今後工夫していきたいと思っています。本日の中央委員会の活発なご審議を再度お願い申し上げ、冒頭の挨拶といたします。ありがとうございました。

以上